一会のためによきことを

平蕾知初雪

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かめぱんのblog_10月10日の記事

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 昔の僕は色々あってクラスで孤立していて、やや不登校気味の小学生でした。だから近所の中学校へ進むのが酷く憂鬱で、紆余曲折の末、家から少し離れた私立中学へと入学したのです。

 〇〇ちゃんに出会ったのは中2のとき。
 それまで〇〇ちゃんとは話したことがなくて、同じクラスになって初めて名前と顔が合致した感じでした。

 ちょっと急に話変わります。僕、本名が「おかべ」みたいな感じで若干亀っぽいんですが、P.N.の「かめぱん」の「かめ」は亀ではなく「カメオ」が由来です。アンティーク風ブローチのような、あのカメオ。

 中2の頃、制服が夏服になったくらいの時期。美術の授業で大きなキャンバスに同級生の絵を描いたことがありました。出席番号か何かで先生がペアを決め、そのときたまたま僕とペアになったのが〇〇ちゃんでした。
 で、夏休み前最後の授業でクラス全員分の作品を並べてみると、みんな真正面からの顔を描いていて、わざわざ横顔を描いたのは僕だけ。
 それを美術の先生が「カメオみたいで良いな」と評して以来、あだ名が「カメオ」とか「カメ」になりました。だから「かめぱん」なんですけど「ぱん」には特に意味ないです。

「カメくん(※実際は苗字で呼ばれていました)、すごくかっこよく描いてくれてありがとう」

 授業の後、〇〇ちゃんは僕にそう言ってくれました。可愛く、とか、美人に、とかではなく、かっこよく、と。
 当時の〇〇ちゃんは女子にしては少し背が高く、それがコンプレックスなのか、なんとなくいつも猫背で俯いているような感じの子でした。
いや、〇〇ちゃんのポテンシャルは本来とてつもないんですが、その頃の僕の目には、彼女は自分に自信のない儚げな女の子のように見えていたかも。
 僕の描いた下手くそななまはげのお面みたいな顔は、やはりなまはげのような力強さを醸し出していて、多分〇〇ちゃんはそれを好意的に受け取って褒めてくれたんだと思います。本当に、全然美人に描けなくてごめん。

 夏休み中の英検対策講習やらなんやらを終え、お盆が過ぎ、新学期を迎える頃にはもう、僕はすっかり〇〇ちゃんに恋していました。もともと惚れっぽいタイプでもないので、あれから10年くらい経ちますが、僕が誰かを好きなったのは〇〇ちゃんが最後です。

 〇〇ちゃんとは中3でも同じクラスになれました。というか、最終学年は進学希望に合わせてクラスが分けられるので、進路の事前調査をすれば隣のクラスくらいにはなれるし、合同授業等で少なからず接点を持つことが可能。

 普段から成績の良い〇〇ちゃんは難関高校進学コースに進むかと予想していましたが、僕らは通称「エスカレーターコース」に進みました。すぐ隣に建っている高等部への進学コースは、授業の難易度でいえば難関高校進学コースよりやや低め。
 僕が通っていた頃は、もっと上に行く学力はあるけど学校全体の雰囲気が好きだから高等部もそのまま、という生徒が多く、結構人気のコースでした。

 受験勉強で忙しかったはずだけど、中3になった〇〇ちゃんはますます可愛くなりました。柔らかそうなおかっぱの髪も、笑うとき少し目尻が下がる顔も輝いていて、本当に、日に日に綺麗になっていくような。

 春になり、僕たちは高等部に無事合格しました。〇〇ちゃんとクラスは離れてしまったけど、2年生以降は例の進路別にクラスを振り分けるシステムなので、僕の心はまあ晴れやかなものです。
 この頃の僕の心理状態はちょっとストーカー気味でした。僕は臆病な引っ込み思案で、〇〇ちゃんに告白する勇気なんてとてもないけど、1日1回は校内で見かけたいなぁ、という。

 しかし他の中学から入学してきた生徒たちが、僕らのこじんまりとした田舎の村のようなコミュニティに迎合したことで、突然パッとひらけたように僕らの学生生活は変化しました。

 〇〇ちゃんの交友関係について少し書きます。
 〇〇ちゃんは中等部時代から、A子、A太郎、B子、B太郎の4人とつるんでいることが多くて、放課後出かけるときも修学旅行などで班を作るときも、大抵この顔ぶれ。
 この名前の書き方でお察しかと思いますが、カップル2組に〇〇ちゃんだけぽつんと混じっている感じだったんです。当時はすごく不思議でした。
 僕はA太郎とは結構仲が良く、A子たちについても「ああ、良い子だな」と思うことは度々ありました。でも〇〇ちゃんは5人でいるのが嫌じゃないのかな、と。

 しかし〇〇ちゃんも高校生になると、俄然モテるようになりました。ものすごく可愛いのだから当然です。この頃の〇〇ちゃんはもう猫背ではなかったし、女優さんみたいでした。仕草とか話し方とか本当に素敵な子だったんだけど、うまく例えられなくて苦しい。

 でも結局、〇〇ちゃんに恋人ができることは一度もなかった。高2の頃にはもう、僕が〇〇ちゃんのことを好きだということは暗黙の了解のような状態になっていました。〇〇ちゃんは誰に告白されたのかとか、そいつは運動部かとか、あちこちで鼻息荒くして聞きまわっていたので当然なんですけど。

 そして3年生に上がる頃にはもうデータが出ていました。

 〇〇ちゃんは誰に告白されても「好きな人がいるからごめんなさい」と断る。相手は誰かと聞いても、決して教えてくれない。

 僕もやはり断られました。高2の、2月13日の放課後に。
「明日のバレンタインデーに本命のチョコを持ってくるので受け取ってくれますか」
というような台詞を授業中に閃いて、勢いに任せてワーッと告白したんですが、現実には想いが溢れすぎてそんな巧いことは言えず、涙と鼻水を垂らしながら辛うじて「好きです」とだけ言いました。

 僕があまりにひどく泣くので〇〇ちゃんは終始申し訳なさそうだった、そんな覚えがあります。今思えば、僕のほうこそ本当にごめん。

 〇〇ちゃんには本当は好きな人なんかいないけど、そのうちイケメンが寄って来るのを待って品定めしてる、なんて冗談交じりに言う奴もいました。そいつとは絶交です。もう知るか。だって僕にはとてもそんなふうに見えませんでした。

「ごめん」と何度も謝る彼女の顔を今でもときどき思い出します。



 今日は〇〇ちゃんの四十九日の法要だったそうです。じゃあ今は天国にいるのかな、なんて想像するのは、とても変な心地がする。

 こうして〇〇ちゃんとの思い出をアウトプットすることで僕の記憶がおぼろげになって、あの頃の僕だけが知っている〇〇ちゃんの姿を忘れてしまわないだろうかと、正直それが少し怖いです。

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