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上杉と武田

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 次の日の昼休み、武田はいつもの通り一人、非常階段でパンをかじりながら本を読んでいた。
 サラサラと風が髪を撫でると文字の並びに瞼が重くなる。
「武田くんもパン食ってるやん」
 顔を上げるとコンビニ袋を下げた上杉が目の前に立っていた。
「何? 何か用?」
「昼飯食いに来たんや。ええやろ? 本読むなら勝手にしてや」
 隣に座った上杉に武田は怪訝な目を向けた。
「……君、頭悪いの?」
「は? 何やそれ」
「あの人達には断りにぼくの名前を出すだけで別に律儀に一緒にいる必要ないんじゃないかな」
 上杉はコンビニの袋をカサカサ漁りパンを取り出す。
「一緒におる方が都合ええやろ。お互い干渉せんと楽やし」
「何それ……理解できないよ」
「アホやな武田くん頭悪いん?」
 鼻で上杉から笑われて武田は分かりやすく顔を歪めた。
 明らかに馬鹿にされた。
 上杉はパンをかじるとコンビニの袋からジュースを取り出して武田に渡した。
「あげるわ。飲みさしちゃうよ? サラやで」
「……方言わかんないんだけど」
 武田は上杉からペットボトルを受け取るとキャップを開けた。
 瞬間、炭酸が噴き出して武田に中身がぶち撒けられた。
「ちょ……お前っ!」
「うわーごめんやで武田くん」
 ニヤニヤ笑う上杉に武田は殺意が湧いた。
「わざとだろ? ふざけんなよマジで?」
「あーあ。えらいぶちまけたなぁ」
「は? お前、中身振っただろ⁉︎」
 ブチ切れ寸前に武田が上杉ににじり寄ると上杉はケタケタ笑い出した。
「お前マジいい加減にしろよ⁉︎    調子乗ってんなよ?」
「おもろ。ホンマの武田くんを知れたな」
「……は?」
 目が逸らせないまま武田は押し黙る。
口元だけを歪ませて笑う上杉に武田は見透かされた気がしてゾッとした。

「友達になろうや武田くん」
「……何で?」
 眉間にシワを寄せて言っている意味が分からないと言う顔を武田はした。
「こんなふざけた真似する奴と友達になりたく無いよ」
「友達やからこんなふざけたこと出来るんやけどなぁ?」
 確かに武田にこんな真似をする者は今までいなかった。
 上杉はポケットからハンカチを取り出して武田に差し出す。武田はムッとしたまま上杉からハンカチを受け取った。
「ぼくと友達になりたいだなんて上杉くん変わってるよ。一緒にいても面白くないと思うけど?」
「ブチ切れる武田くん、おもろかったけどな」
「は?」
 挑発に乗るだけアホらしくて武田はため息をついて眼鏡を外した。
 レンズに飛んだ飛沫をハンカチで拭いていると上杉が覗き込むように武田の顔を見た。武田は気付いて視線だけを上杉に向けて睨む。
「……何?」
「前髪長ない? 邪魔やろ?」
「君に言われたくないよ」
「ま、ええけど」
 節目がちに眼鏡を拭く武田はムカつくくらい上品で賢そうな顔をしていた。
「腹立つ顔やな」そう心の中で呟いて上杉は顔を逸らしパンをかじって咀嚼した。
「……制服も濡れたんだけどコレどうしてくれるの?」
「ん? うわ、漏らしたみたいになってるやん」
「誰のせいなの?」
「ごめんやって。ジャージ着て?」
「持って来てないよ」
「は?……嘘やろ」
 武田の真顔で上杉もこの状況に罪悪感を感じ始めた。
 流石に下半身ビチャビチャで残りの授業を過ごしてもらうのは武田に申し訳ない。
「あ、俺、ロッカーにジャージあるわ。持って来るからここにおってな?」
 思い出して上杉はジャージを取りにロッカーへ向かった。
 優等生を怒らすとどんな反応をするのか少しからかうつもりだった。
 予想以上に武田はブチ切れた。あんな上品そうな見た目から「お前」と言われるとは思わなかった。
 オモチャを見つけた子供のように上杉は武田に興味を持ってしまった。
 

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