キャンバスの少女

朱殷

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2日目 アトリエ

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真夜中。青年はひとつのチラシに目を通きていた。

「ありえない」

チラシをくしゃくしゃにして捨てる。青年の手元には連絡先の書かれたメモ用紙があった。


ーーーーーーーーーー

ガチャリ。音がなる。描かれた当時の姿で微動だにしなかった彼女は目を輝かせ待つ。だが動かない。もし違う人が入って来たら。気持ち悪いとして、呪われているとして捨てられるだろう。それをわかっている少女は全く動かないそう言えばこれで動いてしまって彼にバレたなぁと呑気なことを考える。


「おはよう。よく眠れた?」


少女は最高の笑顔だけで答える。鍵を閉め、誰かが入って来ることを防ぐ。このアトリエは防音のため叫んでも外に音は漏れない。前のアトリエの持ち主を知っている少女からは簡単に想像できた。


「微妙かな?でも眠気は吹っ飛んだよ!」

「それは良かった。こっちも眠気が吹っ飛んだよ。その笑顔のおかげで。」


青年は凛々しい笑顔を浮かべる。それは何よりも美しく何にも代えがたいものだった。青年はもう定位置となったイスに腰をかける。足にかかったブランケットを消し、ポニーテールにまとめられた髪をほどき、背景を真っ白に戻す。これが一番落ち着くと言わんばかりに。


「学校って楽しい?行ってみたいけど……ねぇ、連れて行ってくれない?いつでも良いからさ。ね?良いでしょ?」

「うーん、、無理なんじゃないかな?動いたり喋ったりしないならまだ行けるかもしれないけど、、校長うるさそうだなぁ。」

「世界の名画として美術の授業に持って行くのは?ほら結構イケてると思んだけど?」


少女は描かれた当時の姿、ブランケットにポニーテールに背景を元通りにした姿でどう?と聴く。何ならポーズもかえられるよとおしとやかに手を膝に置いた姿からヤンチャに立ち上がってみたり足を組んでみたり。途中から楽しくなったのか机を出現させ謝罪会見のポーズにしてみたり頭を振ってロックンローラーのようにしたりもする。


「美術の先生、自分完璧だと思ってるのか頑固だからなぁ。ってかそもそも動いちゃだめだから。ロックンロールは無理。」

「えー!良いと思ったんだけどなぁ。」


ガッカリと項垂れる少女。ポイポイとブランケット、ポニーテール、背景を捨てる。そして今度は背景を学校の教室に描きかえる。


「良いよなぁ自由で。何でも描けるじゃん。ちょっと入ってみたいなぁ、、まぁずっとは嫌だけど。」

「やめておいた方が良いよ。何でもできるように見えて生き物は動いてくれないから。」


暇だと言うことを存分にアピールして止める。少女は見てみろと言わんばかりにウサギやネコ、イルカを描く。まったく動かないその絵は少女がペチペチ叩いても首をつまんでも動かない。その絵たちを消しながら少女は問う。


「学校ってこんな感じ?」

「そうそう、だいたいそんな感じ。だがどこで知ったんたんだ?ここから出られないはずだが。」

「このアトリエの前の所有者が描いきながら叫んでいたからね。嫌でも頭に残ってるよ。」


少女ははぁとため息をつく。思い出したのか頭を軽く抑えている。


「今日はここでお話ししましょ。」

「っと言われても話題がなぁ……」


もう出会ってからかなりの年月が経過している。どうしたものかと頭を捻る青年。少女は動かないか青年と話しているかの二択の生活となっている。初めは話題もあったが今となってはもうないだろう。そんな時、ハッとした顔で青年は言う。


「前も聴いたと思うけどもしその絵から自由に出られるとしたら何がしたい?」

「うーん……お日様の下で遊びたい!一緒に学校にも行きたい!あと遊園地とか言うところにも!」


少女の口からはいくつもやりたいことが出てくる。それに対して青年は相槌を反し、言ったものに補足をつける。学校だったら本のたくさん置いてある部屋があるだとか、遊園地だったら遊具の話しだったりとか。それは少女の目を輝かせる少女は『もしも出られたら』を題材に青年の言葉や前持ち主の絵や言葉をヒントに予想図を描く。それは本物から大きくはずれている。しかし少女は笑い、描き直し、また笑い。ずっと楽しそうだった。青年よりもずっと楽しそうだった。

「外に出たい?」

「うん!すっごく!」


ーーーーーーーーーー


夕暮れ時。笑い続けた反動で眠ってしまっていた二人は目を覚ます。二人はカーテンからさしこむ色を見て時間を察したようだ。


「また明日。絶対に来てね。学校で遅くなっても良から絶対来てね。続き話そうね!」

「ごめん、明日は来れないんだ。用事があってね。その次なら来れるから。ごめん。」


ニパッと笑っていた少女の顔は一気に暗いものへと変化する。少女はぶつぶつと何かを呟いた後そっかと小声で言い


「それじゃまた。待ってるから。」


そう言って見送る。青年は少し申し訳なさそうな顔で、でも優しい笑顔でまたねと言うのだった。
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