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第一話「不幸」
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とある世界では世界でも有数な軍事力を持つタンメイ国があった。
武力行使で世界征服をもくろみ勢力は拡大していく一方であった。
その国に使えるアーマレッド侯爵はタンメイ国の最終兵器の管理を任されており、絶大な信用が置かれ資金の支援をも惜しまない。そのため侯爵は非常に裕福な暮らしを送っていた。
高くなった鼻はいずれ折られるというが、彼らを止められる者はおらず、国の王でさえも最終兵器の存在があるがために手出しができなかった。
そんな家系に生まれたこの話の主人公、「ステラ」は豪勢な家にはいない。
厳重な檻にに囲まれ鳥かごのような建物に閉じ込められていた。
「・・・・はあ。」
かつては見事だったであろう黒髪は艶が霞み、乱雑に後ろへ投げ出されている。
人を魅了する魅惑的な瞳も光が宿っていなく、隈が濃く浮き出ている。
雪のように白く売れたリンゴのように赤いほほも今は見る影がない。病人のような肌に青ざめた顔いろ。十分に食事がとれていない証拠である。
しかし彼女の態度は相も変わらず令嬢の時と変わらない。
高く孤高の存在としてふるまい、近づくものを許さない。
救いの手も取らなかった。
でなければ、ただでさえ脆くなってきた19年という年月をかけて築き上げてきた自我が崩壊してしまう。その恐怖が彼女を動かした。
前妻との間にできた子であるステラは、義理母にとって邪魔な存在でしかなかった。愚かで気弱な父を尻に敷き家の権力を握るアーマレッド婦人。彼女は自身の娘、つまりステラにとっては妹、とともにステラを苛め抜いた。
本来であればこの世から存在を消したかったがそれはかなわなかった。
であればせめて遠ざけようと都合のいい理由を作り上げ侯爵家から追放し、犯罪者の管理者へと追い込んだ。
管理者といっても聞こえがいいだけである。契約書を無理やり交わし侯爵の命令に逆らえないようにした傀儡人形であり、面倒な仕事を押し付けられる都合のいい存在であった。
家族の役に立とうと人生をかけてきた彼女は厄介払いをされ、一年を経とうとしている。
不遇の人生を送っている彼女をさらに追い込むような出来事が今起ころうとしていた。
「・・・だるいわね。帰ろうかしら。」
ぽつりとステラは本音を零す。自身の存在価値を作るため何事にも意欲的に取り組んできた彼女だったが、今はいかに力を抜き生きていけるかを考えている。
「おいおい、元侯爵令嬢が吐く言葉じゃねえよ。」
皮肉気に笑みを浮かべ、酒に焼け掠れた重低音で口を開いた彼は「デヴィッド」。
色彩感覚が狂ったファッションを着こなす彼はS級犯罪者であり、元は薬を主に売る世界的な犯罪組織を統括していたギルド長であった。
銀色のアイシャドウを二重に塗り、長い黒髪が先に行くにつれて明るい緑のものが混ざっている、ひげをしっかり整えている所から身だしなみには気を付けている性格だと分かる。
黒くモフモフのファーを身にまとい椅子にふんぞり返って不平を漏らしていた。
「俺らを好きに扱ってご本人サマはご帰宅か?イイご身分じゃねえか。」
血管が目立つ長く角ばった指には大きな鉱石の指輪がいくつも光る。
大袈裟な動きに合わせハーフアップに纏め上げている髪が前方に掛かり、何度も掻き上げる。
頬が少し痩せこけているが、顔が整っているお陰で様になる。悪のカリスマを持つ彼には似合う姿である。
「無視を決め込むとは、糞餓鬼が。まったくなんで俺が二回りも小さい奴にいいように扱われなきゃならねえ。捕まるもんじゃないな本当。」
派手な装飾品を好むため動くたびに装飾品同士が当たって音が鳴る。
「自ら捕まりにきたじゃない。何が不満なのかしら?」
「不満しかねえよ。もっとおもしれえことがあると思ったのによ。ただ上にふんぞり返っている馬鹿どもの言いなりになるだけだった。しかも同じことの繰り返し。殺害くらい自分でやれってんだ。この忌々しい鎖さえなけりゃあ一瞬でお前の家族を殺すのによ。ああ、お前は殺さねえよ。こきあつかったお礼だ。
身も心も薬漬けにして俺に依存させて捨ててやる。」
物騒な言葉を並べる彼の手首には装飾品に紛れじゃらじゃらと耳に触る鎖の擦れる音が聞こえてくる。
ステラは監視者として犯罪者と契約を交わす必要があった。そのため凶悪な犯罪者でさえ彼女には逆らえない。
逆に彼女もアーマレッド侯爵に逆らえないという契約を交わさなければならなかった。
「まあーあんたら落ち着きなさいな。過去のことをどうこう言っても何も変わらないでしょ。」
落ち着いた声色で仲介したカウボーイの男は「アーロン」。決まった場所に腰を落ち着けず放浪するため神出鬼没の存在であった彼は、国家反逆の罪で指名手配とされていたA級戦犯だ。
うねりのある髪質でテンガルハットからはみ出る毛先は七八方に跳ねており、日光を多く浴びたせいか色素が薄い茶髪である。
目尻と眉尻は下がっており、流し目がお得意様。彼の色気に当てられた女性は数しれず、旅先に一人は恋人ができる始末。
優しい男ほど酷なものはないと言える。
「おいおい蛇野郎、常識ぶってんじゃねえ。誰よりも腹が黒いのはてめえだろうがよ。」
「言っておけ。すまねえな嬢ちゃん。」
「大丈夫よ。任務からの帰りらしいけど早いわねやけに。」
「意味のない殺しは好きじゃないたちなんでね。さっさと終わらせてきたよ。」
アーロンは世界で最も射撃の腕が良いと噂されているが強ち間違いではない。
現に彼の性格上戦いを好まないため一発で決める。その為狙撃の腕は良く誰よりも正確に相手の心臓または脳天を撃ち抜くのである。
「頼りにしているわ。今日はもう終わりよ。」
「はあ?」
「だとよ。不平不満ぶつける時間あったらとっとと終わらせちまうのが効率的だぜ?薬物中毒者」
デヴィッドの額に浮かぶ青筋をみてまた溜息をつくステラ。
この2人は馬が合わず言い争いが耐えない。
「「すまん/やらかした!」」
アーロンと入れ代わりにドレッドヘアの双子が入ってきた。
服にはべっとり血の跡がついている双子。このへんでは珍しい褐色肌で「リク」と「カイ」。リクは長いドレッドヘアを高めにくくりあげ、物静かなサイコパス。カイは顔にかかるくらいまでの長さのドレッドに猫目。二人共ちらりと見える鋭利な八重歯が特徴的である。
「また依頼主まで排除した様子ね。怒られる………。」
狂気に満ちてしまうと双子は依頼主までやってしまう。厄介なことだ。
しかし彼らのコンビネーションで繰り出す攻撃は強く主に敵方を蹴散らす依頼が絶えない。
「ねえねえ褒めて褒めて!僕ちゃんと命令聞いて敵全滅させたんだよ?」
「やり過ぎだ完全に。カイ突っ走りすぎ。」
「リクが遅いんだろ?」
この双子はステラと歳が近く一個上である。それにしてもカイの幼児度が度を超え狂気に満ちている。その暴走を抑えてぅれているのがリクなのだ。
グリグリと頭を押し付けてくるカイを撫でながらいかにして謝れば許してくれるのかを考えていたところでアーロンがまた帰ってきた。
そして気まずそうに後ろを指す。
「あーっと、嬢ちゃん?騎士団長さんが何か用があるってさ。」
彼女にとって最も会いたくない人物が現れた。
後ろには彼女の親友である騎士団長、ガッドが待機していた。
「アーマレッド侯爵夫妻がお待ちです。」
長く退屈な廊下を歩く。
ガッドは沈黙を守り一歩後ろを保っている。気まずい雰囲気にうんざりし話しかけて上げるステラ。
「何か言いたいことあるかしら?」
万年無表情の彼がピクリを眉を動かした。非常に珍しい光景のため彼女はつい笑ってしまう。
「驚いたわ。貴方が感情を表に出すことなんてあるのね。」
「、、、なぜ貴方があんな薄汚い仕事をしなければならないのか理解できません。俺は、貴方に忠誠を誓っています。主人が居ない騎士など唯のガラクタです。」
「あら。私が命令すれば代わりに人殺しにもなってくれるのかしら?」
つい皮肉めいた発言をしてしまう。彼が根からの真面目であることは従順承知であったが、こうも忠誠心を向けられるとおじけづいてしまった。なぜこんな私に付いて来ようとしているのだ。彼女はおじけると同時に驚いていた。普通見放すか契約を取り消すだろう。
彼女は彼との忠誠の誓いを切っている。しかし彼は自ら鎖で繋がれようと一方的に契約を継続させているのは知らなかった。
彼の中で私は主人という立場だけなのだろうか。もっと深く複雑な感情が渦巻いているのではと彼女は考えていた。
「いい加減契約を切って私との縁を断ち切りなさい。」
彼にかつてないほどの冷酷な声色で言い放った。しかしこれでいいのだと、彼女は自身にそう言い聞かせた。彼はいい加減自由になるべきなのだ。
「、貴方との誓いを取り消すと俺の方が上の立場になりますよ?」
「ええ。そうよ。それがどうかしたのかしら。」
彼から溢れる不穏な雰囲気に気づかぬふりをして歩みを進める。
親愛なる両親の部屋に着いた。ガッドはまた無表情に直り部屋内へと案内した。
「お久しぶりでございます。お母様、お父様。」
「貴様の親になった覚えはない。汚らわしい。」
一切ステラの顔を見ず書斎の窓から外を眺めるアーマレッド侯爵。
「今回呼んだのは大きな仕事をぜひ貴様に任せたいと頼まれたのでな。仕方なく呼び寄せたまでだ。」
「光栄でございます。」
さらなる不幸が不幸を呼び寄せ、彼女の身に降りかかる。
「子を産め。」
「、、、は?」
「聞こえなかったのか。子を産めと言ったのだ。」
「、、、、。」
衝撃が走った。
彼女の顔から貼り付けていた笑みがみるみる剥がれ落ちていく。
目の前の男は何を言っている??唯その疑問しか思い浮かばなかった。
「貴様に任せた犯罪グループは良くも悪くも国を一つ破壊することは造作でもないほど力を持っている。そこで私は考えた。
近年立て続けに起こる戦争によって我軍は疲弊している。何とか可愛いい我軍を守り、使い捨てで強い兵力を得られないかと。。。ああ、ここに居たな。理想の存在が。」
要するに強大な力を持つ犯罪者共の遺伝子を利用し契約で支配下に置くつもりだ。使い捨ての軍。
このクソ野郎をどう殺してやろうか。いや、この糞野郎を操っているあの女をどう倒そうか。
その後も何かを捲し立てていたが只管それしか彼女は考えていなかった。
「……。」
「……。」
悲惨な人生である。
いや、彼女はそもそも生まれたときから希望はなかった。家にも外にも居場所がなく只管勉学の世界に逃げていた。
決まった婚約も蓋を開けてみれば権力の拡大を狙い60も年上の爺のハーレムに向か入れられる所だった。
絶望し親友のガッドに話していたらふしだらと義理の妹に罵られ傷物であると嘘を吐かれ犯罪者と仕立て上げられた。
「きゃっ、」
「っ。」
何もないところで躓いてしまった。
ガッドが支えようと手を伸ばしたが、つい払い除けてしまい無様に両手を地面につける形になってしまった。
誰にも頼りたくない気分だった。自身がさらにみじめになる気がした。
「は、ははは。あはははっはっはあ!!!!!」
「ステラ様?」
躓いた衝撃で彼女は憎悪が渦をまき身も心も巻かれていまう感覚に襲われ始める。
我慢の緒が切れてしまったのだ。
必死に理性を保とうとステラはガッドの胸ぐらを掴み、腹の底から湧き出る笑い声を抑えようとした。
「あっはっはっっっっひひ。子を産め??!傷物であると散々罵倒し子を生む資格はないと婚約を破棄したのはそちらでしょう?!犯罪者の子を産み兵力を育てろと!?子供をなんだと思っているのよ!!!!あっはっはっっはっは!!」
「ステラ様、・・・ステラっ!」
「五月蠅い!どこかに行って頂戴!私に構わないで!!!!貴方にはもう、関係ないことよ!!子を産めばいいのでしょう??意地汚く犯罪者に身体を許し娼婦まがいのことをすればいい??心を無にしドール人形なればいい??お好きにどうぞ、私は逃げないわ!逃げれないのよ!!」
一気に捲し立て一度深呼吸する。そしてポツリと本音が溢れた。
「…逃げれないのよ」
暫く沈黙が流れる。
「それが本心か」
「っ!?降ろして!!降ろしてよガッド!!!」
縋っていたガッドが突然彼女を肩にかつ上げて歩き出した。
とにかく彼から逃げたくて思いっ切り蹴り上げ顔を押したが動かない。只管何処かに向かう。
可笑しい。いつもならここでやめてくれる。いや、これは、、、
彼女は気づく。
「契約をようやく切ったわね?」
「……ああ。もう必要ない。」
聞いたことがないほど低く冷たい声が帰ってきた。
嗚呼、ついに誰もいなくなったのだ。私のそばには。
自身の願ったことであったが、やはり心では何処か否定しているのだと彼女は気づく。
「はっ、自分から突き放しておいてその表情はどうかと思うぞ?」
「、、、っ!」
彼は御年30。彼女はあと少しで19。年は一回り離れているが初めてあったときからまるで同い年と錯覚するほど仲が良くなった。
しかし年を重ねるごとに彼は年相応の態度や表情をみせはじめ、いつまでも子供な自身を恥ずかしく思ったのは懐かしい記憶だ。
そして年を重ねると見える身分差。どうしても対等な位置に立って話せないことにもどかしさを感じていたが、二人きりだと昔の方に話してくれる。
彼女は彼を気の合う親友であり、育ての親であり、兄弟であった。
ガチャリと扉の開く音が彼女の背後からした。どんどんと無遠慮に部屋の中へ進むと、ようやく彼は彼女を机におろした。
「ご主人!?だれそいつ!」
「……。」
「おいおいおいこりゃどういう状況だ?」
「嬢ちゃん?!」
見慣れたメンバーが部屋にいることに気づき、彼女はガッドが自身の仕事場まで運んできたことを理解した。
いかなる時も高飛車な態度を取り、弱みも一切見せてこなかった筈だが、今の彼女にはそのような態度をす余裕などない。
ただ只管ガッドがやろうとしていることを理解するのに精一杯であったため、決して見せまいとしていた泣き顔を犯罪者にじっくり見られていることに気づかなかった。
無気力で何も生気がともっていなかった瞳には、保護欲を掻き立てる何かが映っていた。うるんだ瞳と泣きはらして赤くなっている頬や鼻は彼女を女であると主張している。
普段であればかっちりと着こなすドレスも、ガッドとの争いがあったため着崩れ、人前には決して見せなかった白くやわらかな胸の谷間や太ももが見え隠れしていた。
普段の彼女からは想像できないほど魅惑的で刺激的な様子であったため、百戦錬磨の犯罪者たちでさえも目が離せない。本人は一切自覚していないだろうが、いざ本気を出せば彼女は国をも手元で遊ぶ傾国の女となれるほど魅力を持っていた。
「・・・エッロ。餓鬼のくせにイイ女だよなぁ。」
「ああ。珍しくあんたと同意見だ。」
「イライラする。俺めっちゃイラつくんだけど。」
「・・・。」
「リクー、鼻血でてんぞ。」
「・・・。」
彼らがそれぞれ空気を読まず感想を口にしていると、ガッドが制した。
「今までご苦労であった。今日から一週間休息を与えよう。女でも酒でもなんでもこの建物から出る以外自由にするがいい。それぞれ専属の使用人を用意した。好きに扱え。その代わり、、、この部屋には一週間近づくな。」
ステラは動揺を隠せなかった。ぐるぐると今までの彼と今の彼の姿が一致せず頭が混乱している。誰よりも生真面目で国を、自身を守ってきてくれた頼もしい騎士。
黒に近いが日に当たると蒼く光る珍しい髪は、自然と左右に分かれ彼の顔にかかる。年相応の色気を醸し出し手入れも適度にしているため清潔感がある。顔に恵まれさらに剣術にも彼の右に出る者はなかなかいない。
完璧に近しい彼のため女性からも男性からも支持が厚く、平民生まれにもかかわらず騎士団長にまで上り詰めていた。
その彼の姿がガラガラと崩れる。立場が上の彼の命令に逆らえないデヴィッド達はおとなしく部屋を出ていく。
ステラはすっかりおびえてしまった。なぜなら今まで彼からは感じてこなかった雄が彼の瞳に宿っていたためである。
なぜかしら。その疑問しか彼女には浮かばない。
監視者としての仕事をこなしていた机におろされた彼女は、動揺している間に足の間へと彼の侵入を許してしまった。彼女の人生の中でこれほど男性と密着したことはなかったため、自然と顔に熱が集まってしまう。どうにか彼との距離を取りたいがため胸板に両手をつき押しはがそうとしたが、ビクともしない。
当然のことだ。国の剣として訓練を怠らなかった男性と、監視者としてひたすら室内に閉じこもり書類作業をしていた女性とではあまりにも力の差がありすぎる。
「何する気?私をこれからどうするの?」
「・・・・いまから貴方を抱く。」
「だく・・?抱く?」
経験はないが令嬢としての基礎的な知識はある。
しかしどうにもシたいとは思ったことがなかった。一度興味本位で自慰行為をしたことがあるが痛くて何も良さが分からずすぐにやめた記憶がある。
初体験の話を親族がしているのを聞こえてしまったことがあるが、痛いという感想だった。血も出てしまうらしいとも聞いた。
勘弁してほしい。彼女はそう思った。
子を産むのは確かにそのような行為が必要だが、頭ではわかっていても体が受け付けない。
しかもこのままだと初体験の相手がほぼ自身の育ての親同然の存在の彼とだ。
何か超えてはいけない壁を感じ彼女は一層彼から離れようと暴れだした。
「いや!!絶対に嫌!!貴方だけにはそんなことされたくない!!!」
「・・・。」
酷く傷ついた表情を浮かべながらも彼は彼女の手をつかみ上へ上げた。
彼女のかさついた唇を愛おしそうに撫でると、自身の唇と重ねた。
「っ!・・・ステラ。」
「嫌って、いってるでしょ!」
唇を食いちぎる勢いで噛まれたため、彼の唇から血が滴った。
ステラにとっての初キスは血の味となり、今後も嫌でも思い出すことになる。
「俺は!っ貴方が思っているほど出来た人間ではない。貴方が侯爵から平民へと転落した時、うれしかったんだ。」
珍しく声を荒げる彼はステラの顔を大きな手で包み込み自身と向き合わせる。
こつんとおでこを合わせ彼の吐息が当たるくらいの距離。
眉間にしわを寄せ目を閉じているため、長いまつげが良く見えた。
「騎士と侯爵の令嬢ではあまりにも身分が違う。騎士団長であっても平民生まれの俺では、生粋の貴族をもらうことはできなかった。ましてや貴方を道具として考えている両親は俺に与えても利益がないと断った。」
「なに、それ。私を、もらう?」
「っ今更言っても受けいられないだろうな。」
再度彼女の唇へ自身を重ねた。今度は長く。最初はついばむようにしたが徐々に深く口づけを交わす。
「っは、貴方を、愛している。」
「・・・!]
ぱんっと乾いた音が部屋に響く。
「今更すぎるわよ・・・今更、それを言われて体を許すと思える貴方の頭が心配だわ。」
「ああ。俺も心配だ。年甲斐もなく11も年下の子に発情し、今から一生消えないものを刻もうとしている俺はどうかしている。ただな、命令には逆らえない。貴方はこれからあの狂い切ったいかれた犯罪者どもに身体を許さなければならない。」
彼女の両手はまたガッドによって動きを封じられてしまう。
それと同時に彼女の視界は反転しいつの間にか彼に見下ろされる状態になってしまった。
かちゃりと彼はベルトを外すと彼女の両手に巻き付け、足のベルトから抜き取った刃物で頭上に固定する。
「今まで貴方を守ってきたのに、非人道的な奴らに貴方の初めてを奪われてしまうのかと考えた時、はらわたが煮えくり返り後先もなく人を殺してしまうそうになった。それならば、嫌われてでもいいから、、、貴方の初めてを奪いたい。」
慣れた手つきでほどかれたドレスの紐。すぐにはだけた下着も難なくほどかれてしまう。
はだけた彼女の素肌をなめるように見る彼の姿は、ステラにとって何もかも初めてである。
彼の少し焼けた肌もやけに艶やかに見え、欲情にそまった彼はまさしく雄の顔であった。
「痛くはしない。絶対に。一週間あるから前戯にかける時間はたっぷりある。」
「っは?!!まって一週間?貴方の仕事はどうするのかしら?」
必死に彼の理性を取り戻そうと叫ぶ。しかしもう手遅れであった。彼の思いはねじりにねじれて誰も元には戻せなくなっている。
「安心してくれ。一週間の有休をとった。今まで使ってこなかった有休が沢山ある。一週間で足りなかったら一か月まで伸ばせる。絶対に優しくするよステラ。」
そういうと彼は愛しそうに彼女の太ももに口づけを落とし跡を残す。
さらりと蒼い髪の毛が肌に落ち、今から誰に抱かれるのかを体に覚えこませようとしている。
いまだ誰の色にも染まっていない秘部に押し当てた狂暴なモノ。
彼の狂気から彼女を救い出せるものは誰もいなかった。
武力行使で世界征服をもくろみ勢力は拡大していく一方であった。
その国に使えるアーマレッド侯爵はタンメイ国の最終兵器の管理を任されており、絶大な信用が置かれ資金の支援をも惜しまない。そのため侯爵は非常に裕福な暮らしを送っていた。
高くなった鼻はいずれ折られるというが、彼らを止められる者はおらず、国の王でさえも最終兵器の存在があるがために手出しができなかった。
そんな家系に生まれたこの話の主人公、「ステラ」は豪勢な家にはいない。
厳重な檻にに囲まれ鳥かごのような建物に閉じ込められていた。
「・・・・はあ。」
かつては見事だったであろう黒髪は艶が霞み、乱雑に後ろへ投げ出されている。
人を魅了する魅惑的な瞳も光が宿っていなく、隈が濃く浮き出ている。
雪のように白く売れたリンゴのように赤いほほも今は見る影がない。病人のような肌に青ざめた顔いろ。十分に食事がとれていない証拠である。
しかし彼女の態度は相も変わらず令嬢の時と変わらない。
高く孤高の存在としてふるまい、近づくものを許さない。
救いの手も取らなかった。
でなければ、ただでさえ脆くなってきた19年という年月をかけて築き上げてきた自我が崩壊してしまう。その恐怖が彼女を動かした。
前妻との間にできた子であるステラは、義理母にとって邪魔な存在でしかなかった。愚かで気弱な父を尻に敷き家の権力を握るアーマレッド婦人。彼女は自身の娘、つまりステラにとっては妹、とともにステラを苛め抜いた。
本来であればこの世から存在を消したかったがそれはかなわなかった。
であればせめて遠ざけようと都合のいい理由を作り上げ侯爵家から追放し、犯罪者の管理者へと追い込んだ。
管理者といっても聞こえがいいだけである。契約書を無理やり交わし侯爵の命令に逆らえないようにした傀儡人形であり、面倒な仕事を押し付けられる都合のいい存在であった。
家族の役に立とうと人生をかけてきた彼女は厄介払いをされ、一年を経とうとしている。
不遇の人生を送っている彼女をさらに追い込むような出来事が今起ころうとしていた。
「・・・だるいわね。帰ろうかしら。」
ぽつりとステラは本音を零す。自身の存在価値を作るため何事にも意欲的に取り組んできた彼女だったが、今はいかに力を抜き生きていけるかを考えている。
「おいおい、元侯爵令嬢が吐く言葉じゃねえよ。」
皮肉気に笑みを浮かべ、酒に焼け掠れた重低音で口を開いた彼は「デヴィッド」。
色彩感覚が狂ったファッションを着こなす彼はS級犯罪者であり、元は薬を主に売る世界的な犯罪組織を統括していたギルド長であった。
銀色のアイシャドウを二重に塗り、長い黒髪が先に行くにつれて明るい緑のものが混ざっている、ひげをしっかり整えている所から身だしなみには気を付けている性格だと分かる。
黒くモフモフのファーを身にまとい椅子にふんぞり返って不平を漏らしていた。
「俺らを好きに扱ってご本人サマはご帰宅か?イイご身分じゃねえか。」
血管が目立つ長く角ばった指には大きな鉱石の指輪がいくつも光る。
大袈裟な動きに合わせハーフアップに纏め上げている髪が前方に掛かり、何度も掻き上げる。
頬が少し痩せこけているが、顔が整っているお陰で様になる。悪のカリスマを持つ彼には似合う姿である。
「無視を決め込むとは、糞餓鬼が。まったくなんで俺が二回りも小さい奴にいいように扱われなきゃならねえ。捕まるもんじゃないな本当。」
派手な装飾品を好むため動くたびに装飾品同士が当たって音が鳴る。
「自ら捕まりにきたじゃない。何が不満なのかしら?」
「不満しかねえよ。もっとおもしれえことがあると思ったのによ。ただ上にふんぞり返っている馬鹿どもの言いなりになるだけだった。しかも同じことの繰り返し。殺害くらい自分でやれってんだ。この忌々しい鎖さえなけりゃあ一瞬でお前の家族を殺すのによ。ああ、お前は殺さねえよ。こきあつかったお礼だ。
身も心も薬漬けにして俺に依存させて捨ててやる。」
物騒な言葉を並べる彼の手首には装飾品に紛れじゃらじゃらと耳に触る鎖の擦れる音が聞こえてくる。
ステラは監視者として犯罪者と契約を交わす必要があった。そのため凶悪な犯罪者でさえ彼女には逆らえない。
逆に彼女もアーマレッド侯爵に逆らえないという契約を交わさなければならなかった。
「まあーあんたら落ち着きなさいな。過去のことをどうこう言っても何も変わらないでしょ。」
落ち着いた声色で仲介したカウボーイの男は「アーロン」。決まった場所に腰を落ち着けず放浪するため神出鬼没の存在であった彼は、国家反逆の罪で指名手配とされていたA級戦犯だ。
うねりのある髪質でテンガルハットからはみ出る毛先は七八方に跳ねており、日光を多く浴びたせいか色素が薄い茶髪である。
目尻と眉尻は下がっており、流し目がお得意様。彼の色気に当てられた女性は数しれず、旅先に一人は恋人ができる始末。
優しい男ほど酷なものはないと言える。
「おいおい蛇野郎、常識ぶってんじゃねえ。誰よりも腹が黒いのはてめえだろうがよ。」
「言っておけ。すまねえな嬢ちゃん。」
「大丈夫よ。任務からの帰りらしいけど早いわねやけに。」
「意味のない殺しは好きじゃないたちなんでね。さっさと終わらせてきたよ。」
アーロンは世界で最も射撃の腕が良いと噂されているが強ち間違いではない。
現に彼の性格上戦いを好まないため一発で決める。その為狙撃の腕は良く誰よりも正確に相手の心臓または脳天を撃ち抜くのである。
「頼りにしているわ。今日はもう終わりよ。」
「はあ?」
「だとよ。不平不満ぶつける時間あったらとっとと終わらせちまうのが効率的だぜ?薬物中毒者」
デヴィッドの額に浮かぶ青筋をみてまた溜息をつくステラ。
この2人は馬が合わず言い争いが耐えない。
「「すまん/やらかした!」」
アーロンと入れ代わりにドレッドヘアの双子が入ってきた。
服にはべっとり血の跡がついている双子。このへんでは珍しい褐色肌で「リク」と「カイ」。リクは長いドレッドヘアを高めにくくりあげ、物静かなサイコパス。カイは顔にかかるくらいまでの長さのドレッドに猫目。二人共ちらりと見える鋭利な八重歯が特徴的である。
「また依頼主まで排除した様子ね。怒られる………。」
狂気に満ちてしまうと双子は依頼主までやってしまう。厄介なことだ。
しかし彼らのコンビネーションで繰り出す攻撃は強く主に敵方を蹴散らす依頼が絶えない。
「ねえねえ褒めて褒めて!僕ちゃんと命令聞いて敵全滅させたんだよ?」
「やり過ぎだ完全に。カイ突っ走りすぎ。」
「リクが遅いんだろ?」
この双子はステラと歳が近く一個上である。それにしてもカイの幼児度が度を超え狂気に満ちている。その暴走を抑えてぅれているのがリクなのだ。
グリグリと頭を押し付けてくるカイを撫でながらいかにして謝れば許してくれるのかを考えていたところでアーロンがまた帰ってきた。
そして気まずそうに後ろを指す。
「あーっと、嬢ちゃん?騎士団長さんが何か用があるってさ。」
彼女にとって最も会いたくない人物が現れた。
後ろには彼女の親友である騎士団長、ガッドが待機していた。
「アーマレッド侯爵夫妻がお待ちです。」
長く退屈な廊下を歩く。
ガッドは沈黙を守り一歩後ろを保っている。気まずい雰囲気にうんざりし話しかけて上げるステラ。
「何か言いたいことあるかしら?」
万年無表情の彼がピクリを眉を動かした。非常に珍しい光景のため彼女はつい笑ってしまう。
「驚いたわ。貴方が感情を表に出すことなんてあるのね。」
「、、、なぜ貴方があんな薄汚い仕事をしなければならないのか理解できません。俺は、貴方に忠誠を誓っています。主人が居ない騎士など唯のガラクタです。」
「あら。私が命令すれば代わりに人殺しにもなってくれるのかしら?」
つい皮肉めいた発言をしてしまう。彼が根からの真面目であることは従順承知であったが、こうも忠誠心を向けられるとおじけづいてしまった。なぜこんな私に付いて来ようとしているのだ。彼女はおじけると同時に驚いていた。普通見放すか契約を取り消すだろう。
彼女は彼との忠誠の誓いを切っている。しかし彼は自ら鎖で繋がれようと一方的に契約を継続させているのは知らなかった。
彼の中で私は主人という立場だけなのだろうか。もっと深く複雑な感情が渦巻いているのではと彼女は考えていた。
「いい加減契約を切って私との縁を断ち切りなさい。」
彼にかつてないほどの冷酷な声色で言い放った。しかしこれでいいのだと、彼女は自身にそう言い聞かせた。彼はいい加減自由になるべきなのだ。
「、貴方との誓いを取り消すと俺の方が上の立場になりますよ?」
「ええ。そうよ。それがどうかしたのかしら。」
彼から溢れる不穏な雰囲気に気づかぬふりをして歩みを進める。
親愛なる両親の部屋に着いた。ガッドはまた無表情に直り部屋内へと案内した。
「お久しぶりでございます。お母様、お父様。」
「貴様の親になった覚えはない。汚らわしい。」
一切ステラの顔を見ず書斎の窓から外を眺めるアーマレッド侯爵。
「今回呼んだのは大きな仕事をぜひ貴様に任せたいと頼まれたのでな。仕方なく呼び寄せたまでだ。」
「光栄でございます。」
さらなる不幸が不幸を呼び寄せ、彼女の身に降りかかる。
「子を産め。」
「、、、は?」
「聞こえなかったのか。子を産めと言ったのだ。」
「、、、、。」
衝撃が走った。
彼女の顔から貼り付けていた笑みがみるみる剥がれ落ちていく。
目の前の男は何を言っている??唯その疑問しか思い浮かばなかった。
「貴様に任せた犯罪グループは良くも悪くも国を一つ破壊することは造作でもないほど力を持っている。そこで私は考えた。
近年立て続けに起こる戦争によって我軍は疲弊している。何とか可愛いい我軍を守り、使い捨てで強い兵力を得られないかと。。。ああ、ここに居たな。理想の存在が。」
要するに強大な力を持つ犯罪者共の遺伝子を利用し契約で支配下に置くつもりだ。使い捨ての軍。
このクソ野郎をどう殺してやろうか。いや、この糞野郎を操っているあの女をどう倒そうか。
その後も何かを捲し立てていたが只管それしか彼女は考えていなかった。
「……。」
「……。」
悲惨な人生である。
いや、彼女はそもそも生まれたときから希望はなかった。家にも外にも居場所がなく只管勉学の世界に逃げていた。
決まった婚約も蓋を開けてみれば権力の拡大を狙い60も年上の爺のハーレムに向か入れられる所だった。
絶望し親友のガッドに話していたらふしだらと義理の妹に罵られ傷物であると嘘を吐かれ犯罪者と仕立て上げられた。
「きゃっ、」
「っ。」
何もないところで躓いてしまった。
ガッドが支えようと手を伸ばしたが、つい払い除けてしまい無様に両手を地面につける形になってしまった。
誰にも頼りたくない気分だった。自身がさらにみじめになる気がした。
「は、ははは。あはははっはっはあ!!!!!」
「ステラ様?」
躓いた衝撃で彼女は憎悪が渦をまき身も心も巻かれていまう感覚に襲われ始める。
我慢の緒が切れてしまったのだ。
必死に理性を保とうとステラはガッドの胸ぐらを掴み、腹の底から湧き出る笑い声を抑えようとした。
「あっはっはっっっっひひ。子を産め??!傷物であると散々罵倒し子を生む資格はないと婚約を破棄したのはそちらでしょう?!犯罪者の子を産み兵力を育てろと!?子供をなんだと思っているのよ!!!!あっはっはっっはっは!!」
「ステラ様、・・・ステラっ!」
「五月蠅い!どこかに行って頂戴!私に構わないで!!!!貴方にはもう、関係ないことよ!!子を産めばいいのでしょう??意地汚く犯罪者に身体を許し娼婦まがいのことをすればいい??心を無にしドール人形なればいい??お好きにどうぞ、私は逃げないわ!逃げれないのよ!!」
一気に捲し立て一度深呼吸する。そしてポツリと本音が溢れた。
「…逃げれないのよ」
暫く沈黙が流れる。
「それが本心か」
「っ!?降ろして!!降ろしてよガッド!!!」
縋っていたガッドが突然彼女を肩にかつ上げて歩き出した。
とにかく彼から逃げたくて思いっ切り蹴り上げ顔を押したが動かない。只管何処かに向かう。
可笑しい。いつもならここでやめてくれる。いや、これは、、、
彼女は気づく。
「契約をようやく切ったわね?」
「……ああ。もう必要ない。」
聞いたことがないほど低く冷たい声が帰ってきた。
嗚呼、ついに誰もいなくなったのだ。私のそばには。
自身の願ったことであったが、やはり心では何処か否定しているのだと彼女は気づく。
「はっ、自分から突き放しておいてその表情はどうかと思うぞ?」
「、、、っ!」
彼は御年30。彼女はあと少しで19。年は一回り離れているが初めてあったときからまるで同い年と錯覚するほど仲が良くなった。
しかし年を重ねるごとに彼は年相応の態度や表情をみせはじめ、いつまでも子供な自身を恥ずかしく思ったのは懐かしい記憶だ。
そして年を重ねると見える身分差。どうしても対等な位置に立って話せないことにもどかしさを感じていたが、二人きりだと昔の方に話してくれる。
彼女は彼を気の合う親友であり、育ての親であり、兄弟であった。
ガチャリと扉の開く音が彼女の背後からした。どんどんと無遠慮に部屋の中へ進むと、ようやく彼は彼女を机におろした。
「ご主人!?だれそいつ!」
「……。」
「おいおいおいこりゃどういう状況だ?」
「嬢ちゃん?!」
見慣れたメンバーが部屋にいることに気づき、彼女はガッドが自身の仕事場まで運んできたことを理解した。
いかなる時も高飛車な態度を取り、弱みも一切見せてこなかった筈だが、今の彼女にはそのような態度をす余裕などない。
ただ只管ガッドがやろうとしていることを理解するのに精一杯であったため、決して見せまいとしていた泣き顔を犯罪者にじっくり見られていることに気づかなかった。
無気力で何も生気がともっていなかった瞳には、保護欲を掻き立てる何かが映っていた。うるんだ瞳と泣きはらして赤くなっている頬や鼻は彼女を女であると主張している。
普段であればかっちりと着こなすドレスも、ガッドとの争いがあったため着崩れ、人前には決して見せなかった白くやわらかな胸の谷間や太ももが見え隠れしていた。
普段の彼女からは想像できないほど魅惑的で刺激的な様子であったため、百戦錬磨の犯罪者たちでさえも目が離せない。本人は一切自覚していないだろうが、いざ本気を出せば彼女は国をも手元で遊ぶ傾国の女となれるほど魅力を持っていた。
「・・・エッロ。餓鬼のくせにイイ女だよなぁ。」
「ああ。珍しくあんたと同意見だ。」
「イライラする。俺めっちゃイラつくんだけど。」
「・・・。」
「リクー、鼻血でてんぞ。」
「・・・。」
彼らがそれぞれ空気を読まず感想を口にしていると、ガッドが制した。
「今までご苦労であった。今日から一週間休息を与えよう。女でも酒でもなんでもこの建物から出る以外自由にするがいい。それぞれ専属の使用人を用意した。好きに扱え。その代わり、、、この部屋には一週間近づくな。」
ステラは動揺を隠せなかった。ぐるぐると今までの彼と今の彼の姿が一致せず頭が混乱している。誰よりも生真面目で国を、自身を守ってきてくれた頼もしい騎士。
黒に近いが日に当たると蒼く光る珍しい髪は、自然と左右に分かれ彼の顔にかかる。年相応の色気を醸し出し手入れも適度にしているため清潔感がある。顔に恵まれさらに剣術にも彼の右に出る者はなかなかいない。
完璧に近しい彼のため女性からも男性からも支持が厚く、平民生まれにもかかわらず騎士団長にまで上り詰めていた。
その彼の姿がガラガラと崩れる。立場が上の彼の命令に逆らえないデヴィッド達はおとなしく部屋を出ていく。
ステラはすっかりおびえてしまった。なぜなら今まで彼からは感じてこなかった雄が彼の瞳に宿っていたためである。
なぜかしら。その疑問しか彼女には浮かばない。
監視者としての仕事をこなしていた机におろされた彼女は、動揺している間に足の間へと彼の侵入を許してしまった。彼女の人生の中でこれほど男性と密着したことはなかったため、自然と顔に熱が集まってしまう。どうにか彼との距離を取りたいがため胸板に両手をつき押しはがそうとしたが、ビクともしない。
当然のことだ。国の剣として訓練を怠らなかった男性と、監視者としてひたすら室内に閉じこもり書類作業をしていた女性とではあまりにも力の差がありすぎる。
「何する気?私をこれからどうするの?」
「・・・・いまから貴方を抱く。」
「だく・・?抱く?」
経験はないが令嬢としての基礎的な知識はある。
しかしどうにもシたいとは思ったことがなかった。一度興味本位で自慰行為をしたことがあるが痛くて何も良さが分からずすぐにやめた記憶がある。
初体験の話を親族がしているのを聞こえてしまったことがあるが、痛いという感想だった。血も出てしまうらしいとも聞いた。
勘弁してほしい。彼女はそう思った。
子を産むのは確かにそのような行為が必要だが、頭ではわかっていても体が受け付けない。
しかもこのままだと初体験の相手がほぼ自身の育ての親同然の存在の彼とだ。
何か超えてはいけない壁を感じ彼女は一層彼から離れようと暴れだした。
「いや!!絶対に嫌!!貴方だけにはそんなことされたくない!!!」
「・・・。」
酷く傷ついた表情を浮かべながらも彼は彼女の手をつかみ上へ上げた。
彼女のかさついた唇を愛おしそうに撫でると、自身の唇と重ねた。
「っ!・・・ステラ。」
「嫌って、いってるでしょ!」
唇を食いちぎる勢いで噛まれたため、彼の唇から血が滴った。
ステラにとっての初キスは血の味となり、今後も嫌でも思い出すことになる。
「俺は!っ貴方が思っているほど出来た人間ではない。貴方が侯爵から平民へと転落した時、うれしかったんだ。」
珍しく声を荒げる彼はステラの顔を大きな手で包み込み自身と向き合わせる。
こつんとおでこを合わせ彼の吐息が当たるくらいの距離。
眉間にしわを寄せ目を閉じているため、長いまつげが良く見えた。
「騎士と侯爵の令嬢ではあまりにも身分が違う。騎士団長であっても平民生まれの俺では、生粋の貴族をもらうことはできなかった。ましてや貴方を道具として考えている両親は俺に与えても利益がないと断った。」
「なに、それ。私を、もらう?」
「っ今更言っても受けいられないだろうな。」
再度彼女の唇へ自身を重ねた。今度は長く。最初はついばむようにしたが徐々に深く口づけを交わす。
「っは、貴方を、愛している。」
「・・・!]
ぱんっと乾いた音が部屋に響く。
「今更すぎるわよ・・・今更、それを言われて体を許すと思える貴方の頭が心配だわ。」
「ああ。俺も心配だ。年甲斐もなく11も年下の子に発情し、今から一生消えないものを刻もうとしている俺はどうかしている。ただな、命令には逆らえない。貴方はこれからあの狂い切ったいかれた犯罪者どもに身体を許さなければならない。」
彼女の両手はまたガッドによって動きを封じられてしまう。
それと同時に彼女の視界は反転しいつの間にか彼に見下ろされる状態になってしまった。
かちゃりと彼はベルトを外すと彼女の両手に巻き付け、足のベルトから抜き取った刃物で頭上に固定する。
「今まで貴方を守ってきたのに、非人道的な奴らに貴方の初めてを奪われてしまうのかと考えた時、はらわたが煮えくり返り後先もなく人を殺してしまうそうになった。それならば、嫌われてでもいいから、、、貴方の初めてを奪いたい。」
慣れた手つきでほどかれたドレスの紐。すぐにはだけた下着も難なくほどかれてしまう。
はだけた彼女の素肌をなめるように見る彼の姿は、ステラにとって何もかも初めてである。
彼の少し焼けた肌もやけに艶やかに見え、欲情にそまった彼はまさしく雄の顔であった。
「痛くはしない。絶対に。一週間あるから前戯にかける時間はたっぷりある。」
「っは?!!まって一週間?貴方の仕事はどうするのかしら?」
必死に彼の理性を取り戻そうと叫ぶ。しかしもう手遅れであった。彼の思いはねじりにねじれて誰も元には戻せなくなっている。
「安心してくれ。一週間の有休をとった。今まで使ってこなかった有休が沢山ある。一週間で足りなかったら一か月まで伸ばせる。絶対に優しくするよステラ。」
そういうと彼は愛しそうに彼女の太ももに口づけを落とし跡を残す。
さらりと蒼い髪の毛が肌に落ち、今から誰に抱かれるのかを体に覚えこませようとしている。
いまだ誰の色にも染まっていない秘部に押し当てた狂暴なモノ。
彼の狂気から彼女を救い出せるものは誰もいなかった。
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