異世界転生少女奮闘記

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第5章「新人傭兵」

第74話「最終試験8」

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 ヴァドの登場後、すぐさま炎でジン騎士団長と私たちの間に壁を作る。
 
「おいおいユウシャ、てめえのそんな弱った姿久しぶりに見たぜw」
「煩い。それよりなんでこんな遅くなったんだ。」
「女どもを振り払うのに手間取っちまった。乱暴なことしちゃダメなんだろう?何とか振り払ってなるべく急いできたんだぜこれでも。」
「偉い。成長してんじゃんヴァド。」

 会話を交わしながら呼吸を整える。
 ユウシャも先ほどよりわずかに傷が増えただけでそんな重症化しているわけでは無さそうだった。あの獣相手にここまで持ちこたえられる者はどれほどいるのだろうか。
 
 ふと顔を上げるとユウシャとヴァドが複雑そうな顔で私の方を見ていたのに気が付く。
 なんだ?

「・・・何?」
「なー、その顔。泣いていたんだろお前。」
「は?」

 そういえばジン騎士団長との交戦中自身の本音が急に飛び出してきて情緒不安定になった場面があった。その時に無意識にも泣いてしまったのだろうか。
 
「・・・。俺たちの場所に。」
「聴いてたの?僕の会話を。」
「あんな大声で話されてたら聞こえるだろう普通。」

 一位取れなかったら奴隷として扱うとか、普通に殴られたりとか最悪な扱いをされている場所のはずなのに帰りたいとかほざく私の姿を見られていたのだ。泣いていたというのもあって変に気恥しくなり顔に熱を集めてしまう。

「おう!帰ろうぜ!もうデータの写しは終わってっぽいぞ。色が変色していたから取っておいた。」

 ヴァドの手には白色から黒色に変色したICチップが乗っていた。

「あの、小学生男子が、、、ここまで成長するなんて。」
「驚いたよ。本当。」
「おいおい、俺の事どう思ってんだてめぇら。」

 ICチップを手に入れて安心した瞬間、二体の影が現れユウシャの肩とヴァドの足にそれぞれ噛みついた。
 例の獣が二体出現したのだ。

「ぐっ、、糞!」
「ぐあああっ痛てぇ!!何すんだてめえ!」

 二人はそれぞれの力で振り払ったが深く肉は抉られている。
 ヴァドが来た安心感で引いていた冷汗が再度吹き出てくる。

『・・・ふむ。確かに。』
『だろう?面白い者がこの世にまだいるとは意外。』
「ケテロ、べテロ。遊ばないでくれ。俺らの任務はそのデータが盗まれないよう守る役割だ。」

 炎を割って姿を現したジン騎士団長の瞳は黄金に輝く。
 禍々しく光に照らされた手の爪。二体の影の獣が彼のそばに行きニタニタと笑みを浮かべてこちらを観察してくる。

『おいジン。我らに命令するとはいい御身分だ。こんな面倒くさい命令をなぜ引き受けた。』
『・・・早く殺す。それで終わり。』
「黙れ。今は俺が主導権を握る時だ。・・・ノエルさん、そのICチップを渡してくれ。そうすれば痛い思いはさせないから。」
「絶対に嫌です。」
「・・・そうか。後ろ二人は見逃してやると言ってもか?」
「はい。」

 これも事前に決めていたことだ。
 味方の命と依頼物が等価交換を持ちかけられるのはよくあるケースだ。そのことを踏まえ私たちは事前に任務を優先にするという覚悟を決めてきたのだ。それが今役に立っている。

「迷いはないってことか。いい目をしている。後悔、するなよ。きっとあなたたちは俺たちに手も足も出ないだろう。」

 三つの影が私たちを襲った。
 そこからの流れは速かったように感じる。繰り出される攻撃が続き、初めに倒れたのは手負いが多かったユウシャだった。

「ぐはっ・・・。」
「「ユウシャ!!」」

 膝をついたユウシャにとどめを刺すべくとびかかった影。
 私は考えるよりも先に身体を動かしていた。

 気が付いた時には地面に倒れており、紅い液体が流れていた。
 少し時間が経ってようやくその赤い液体が私から流れ出ている血液だと理解する。

「おい、おいアス!」
「ユウ、シャは?」
「意識はないが無事だ!お前、なんでこんな危険なことしたんだよ!」
「、、一瞬の気の迷いが、生死を分ける。考えるより体を動かせ。ゲルド教官の、教えだよ。」
「糞、血が止まらねえ。教えなんか知るか!お前は絶対死ぬな!」

 見たことのないヴァドの焦り顔。
 しかし悠長に話しをしている場合ではない。

「ジン騎士団長!この騒ぎはいったいっ!」
「済まないが侵入者がいた。直ちに全体に伝えここに集合させろ。」
「はっ!」

 このままうかうかしていたら援軍を呼ばれ本格的に逃げれなくなる。

「ごめん、ヴァド。あとは、任せたよ。」

 ここで、、諦めるわけにはいかない・・・。

「っ貴様!何をやっている??」
 急な私の奇怪な行動にジン騎士団長がぎょっとした表情を浮かべた。

「手も足も出ないって?、、だして、やるわよ!」

 過剰出血のせいなのか痛覚も鈍くなっているのが幸いだ。ユウシャ君がいなければ私は殺されていた。ヴァドが来てくれるまで必死に私を守りながら戦ってくれた。気絶してそばで眠ている。
 帰らなくては。私たちの場所に。


 最後の望みを託す。

「ヴァド!!」
「アス・・・っ!まさかっ・・・。」
 首横をガラスで切った。
 予想以上に深く切ってしまい、再度貧血で意識が遠のいてきた。
 同じ血だとしても生命活動に近ければ近い場所ほど効力は発揮されるらしい。
 そしてすべてをヴァドに任せ、ゆっくり目を閉じた。


NO side

 ヴァドは気絶したアスを大事そうに抱えた。
 今回の最終試験、途中で離脱しても十分な成績は見込めたはずだった。しかしアスは辞退することはしなかった。
 彼女の境遇がそうせざるを終えなかった。このギルドは彼女にとって第三の故郷であり、守る対象となっていた。
泥水をすすろうと、手足をもげようと何とかギルドを守ろうとする。
そんな彼女に引き込まれ彼らも必死に最終試験を乗り越えようと動いた。

 彼女の覚悟を受け止めたヴァドは、首筋から垂れる深紅の血を掬い取るようにすすった。
酷く苦いはずだが彼にとって彼女の血は甘く感じていた。

 魔力は唾液、血液、精液と濃くなっていく。
 彼女のバフ効果をより多く受けるにはすでに唾液だけでは足りない。
 それをわかっていたのだ。

「ゆっくり休めよ。あとは俺に任せろ。」

 彼を中心に同心円上に獄炎が燃え盛った。
 深く深呼吸をした彼の口からは息ではなく火を吐く。
 目はぎらぎらと光り輝き目の前の敵を移していた。

 ゆっくりとアスの手を自身の額に当て横に滑らす。
 彼女の指を伝って血が三本の後を彼の額に残した。

「ンゴンドロ族次期族長、火の神の使いヴァド。己の額にかけて誓った。」

 割れ物を扱うように彼女の手を戻す。

「お前らを、ぶっ殺す!!」

 炎というのは高温になるにつれ赤、白、蒼と変色していく。彼の部族は扱える炎の温度で階級が決まった。
 そして族長の器しか扱えない炎がある。それは生命の輝きが見られる神秘的な蒼い炎。
 
 周囲に飛ぶ蒼い火の粉は周囲の本を燃やし、地面までもを溶かしていく。


「成る程。地上最強とまでも歌われた戦闘民族。消えた後継者は、貴方だったのか・・・。」

 踊る炎は止まらない。
 ただ自身の友人を傷つけた敵を殺そうと踊り狂う。





 のちにこの最終試験で起こったことは「蒼の事件」として語り繋がれた。
 ギルドの損害。死者零名。重傷者二名。三名を除き訓練生全員無傷の帰還を果たす。
 一方、敵国の損害は重大。のちに援護に来たものを含め死者42名、重傷者大多数であった。

 この事件をきっかけに、全国で今年の傭兵ギルド新人は強大な力を誇るとされ「凶悪な世代」として名を知らしめることになった。



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