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第5章「新人傭兵」
第64話「不穏な影」
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ゲルド教官の怒号が今日も訓練所に響く。
訓練を続ける私たちはすでに汗だく。暑い季節が近づいてきているこの時期、野外訓練ほど苦しいものはない。
「おいアス。へばってんのか?」
「うっさい。逆になんで君はそんなに元気そうなの?馬鹿なの?」
「彼はもとから馬鹿だよ。」
私たち三人はあの聖地奪還事件以降、なにかと一緒にいることが多くなってきた。腹黒と馬鹿と私。
有難いことにゲルド教官は私たち三人に注目し、追加課題を押し付けてくる。
放課後の訓練にもユウシャ君は参加するようになった。どうやら先を越されるのがよっぽど嫌らしい。ワトさんは快く彼を受け入れ、三人で居残り模擬戦闘を繰り広げる日々が習慣となってきた。
ようやく昼休憩になったため、訓練兵はそれぞれ木陰で休み昼食をとる時間になった。
「熱いくせになんで長袖なんて来てんだよ。」
「熱いからって上半身裸のあんたには言われたくないわ。」
「醜い争いしてないで早くどいてよ。俺の日陰がないじゃん。」
いつものように軽口をたたき合いながら午後の訓練に備えて休息をとる。
きゅわきゅわとこの国独特の獣声が耳に入ってくる。
「あー涼しい・・・。」
風が吹き、汗で張り付いていた長い前髪が後ろへ流れる。
今いる場所は地面が青々した草で囲われ、動植物が豊富にいる。
なんとなく寝っ転がり、木陰となってくれている木を見上げてみた。葉の隙間から見える光が地面にまだら模様をつくる光景は、疲れ切ったわたしの心を癒した。
そんな私の様子をじっと見つめていたらしいヴァドと目が合う。
「・・・まじでどっちだよ。お前って。」
「は?」
「なんで女じゃねえんだよ。」
「急にどうした?」
「いや別に。」
ヴァドの突拍子のない発言は毎度の事なので慣れてはいたが、今回はまた別だ。
まさか彼の口からこんな言葉が飛び出してくるとは思わなかった。
戸惑っている私の横にヴァドも横たわり、まぶしそうに手を上にかざす。ちょうど光が当たる場所だったようだ。
「初めて会った時から変な奴だと思ってた。発想はぶっ飛んでるし肝っ玉は据わってる。だけど何かひきつけられちまう。フードかぶってるから何考えてんのか分かんねえ時もあるけど、こうして顔を見てると分かりやすい。」
仰向けになって横にいる彼に顔を向けている状態のまま動けない。
上を見上げていたヴァドは私の方にから体を向け、肘に顎を乗せて見下ろしてきた。
「・・・欲求不満?裏通り行けば?」
「かもなwこうして野郎ばっかりの環境だと狂っちまうw」
彼が時々見せる鋭い目つきから逃れ、ホっと息をつく。
「なんの会話してるのかな?俺も混ぜてよ。」
腹黒スマイルを張り付けしゃがみ、私たちをのぞき込んでくるユウシャ君に感謝。
いいタイミングだ。
「だいだい彼が女性のはずがないよ。」
そして予想外の言葉。
「俺、女性アレルギーなんだ。万が一彼が女だとしたら・・・。」
ぐしゅっと頭をつかまれる。
「接触した瞬間蕁麻疹がでちゃうんだよね。」
「まじかよ!」
「女性アレルギー?」
「うん。ほら俺、顔いいでしょ?だから昔から女性に猛烈なアピールされちゃってさ。色々混ぜられたお菓子食べさせられそうになったりしてたらいつの間にか・・・。」
表情が死んでく。これほど悲しい自慢話ないって。
うまく話が逸れていったことに感謝しつつ、女と認定されていないことに安心を覚えた。
「それよりもゲルド教官戻るの遅くない?」
「確かに。」
「・・・・あれ誰だ?」
どれだよ。流石戦闘民族というか、、、ヴァドは視力がめちゃくちゃいい。
彼が指さす方向をよく観察してみると、見慣れない人影が見えた。
「あれは、、、隣国の次期後継者シオン様だ。なぜこんな辺境に隣国の王家が?」
「バロウ団長と言い合ってねぇか?」
嘘……でしょ?
冷汗と体の震えが始まる。前世で私を苦しめた張本人であり、今世もどうしてか同じ世界に生れ落ち、私からグラデウスを引きはがした男。彼はどこまでも私の人生を邪魔しようとしてくる。
前の二人の会話が耳に入ってこなくなる。
「っおい。どうしたアス。顔色が悪いぞ。」
ヴァドは私の異変に真っ先に気づき、様子をうかがってくるが、返事を返す気力はない。忘れたい記憶がフラッシュバックしてきたため思わず自分の体を抱きすくめ座り込んだ。
「おいしっかりしろ!」
「どうしたの?」
「・・・なんでもない。早くあっち行こうよ。体ひえちゃた。」
困惑の表情を浮かべた二人を置いて、自主練へ向かった。
思い出したくないってのになぜ私の視界にシオンという男が映ってくるのか。今でも彼の事は理解できない。
訓練を続ける私たちはすでに汗だく。暑い季節が近づいてきているこの時期、野外訓練ほど苦しいものはない。
「おいアス。へばってんのか?」
「うっさい。逆になんで君はそんなに元気そうなの?馬鹿なの?」
「彼はもとから馬鹿だよ。」
私たち三人はあの聖地奪還事件以降、なにかと一緒にいることが多くなってきた。腹黒と馬鹿と私。
有難いことにゲルド教官は私たち三人に注目し、追加課題を押し付けてくる。
放課後の訓練にもユウシャ君は参加するようになった。どうやら先を越されるのがよっぽど嫌らしい。ワトさんは快く彼を受け入れ、三人で居残り模擬戦闘を繰り広げる日々が習慣となってきた。
ようやく昼休憩になったため、訓練兵はそれぞれ木陰で休み昼食をとる時間になった。
「熱いくせになんで長袖なんて来てんだよ。」
「熱いからって上半身裸のあんたには言われたくないわ。」
「醜い争いしてないで早くどいてよ。俺の日陰がないじゃん。」
いつものように軽口をたたき合いながら午後の訓練に備えて休息をとる。
きゅわきゅわとこの国独特の獣声が耳に入ってくる。
「あー涼しい・・・。」
風が吹き、汗で張り付いていた長い前髪が後ろへ流れる。
今いる場所は地面が青々した草で囲われ、動植物が豊富にいる。
なんとなく寝っ転がり、木陰となってくれている木を見上げてみた。葉の隙間から見える光が地面にまだら模様をつくる光景は、疲れ切ったわたしの心を癒した。
そんな私の様子をじっと見つめていたらしいヴァドと目が合う。
「・・・まじでどっちだよ。お前って。」
「は?」
「なんで女じゃねえんだよ。」
「急にどうした?」
「いや別に。」
ヴァドの突拍子のない発言は毎度の事なので慣れてはいたが、今回はまた別だ。
まさか彼の口からこんな言葉が飛び出してくるとは思わなかった。
戸惑っている私の横にヴァドも横たわり、まぶしそうに手を上にかざす。ちょうど光が当たる場所だったようだ。
「初めて会った時から変な奴だと思ってた。発想はぶっ飛んでるし肝っ玉は据わってる。だけど何かひきつけられちまう。フードかぶってるから何考えてんのか分かんねえ時もあるけど、こうして顔を見てると分かりやすい。」
仰向けになって横にいる彼に顔を向けている状態のまま動けない。
上を見上げていたヴァドは私の方にから体を向け、肘に顎を乗せて見下ろしてきた。
「・・・欲求不満?裏通り行けば?」
「かもなwこうして野郎ばっかりの環境だと狂っちまうw」
彼が時々見せる鋭い目つきから逃れ、ホっと息をつく。
「なんの会話してるのかな?俺も混ぜてよ。」
腹黒スマイルを張り付けしゃがみ、私たちをのぞき込んでくるユウシャ君に感謝。
いいタイミングだ。
「だいだい彼が女性のはずがないよ。」
そして予想外の言葉。
「俺、女性アレルギーなんだ。万が一彼が女だとしたら・・・。」
ぐしゅっと頭をつかまれる。
「接触した瞬間蕁麻疹がでちゃうんだよね。」
「まじかよ!」
「女性アレルギー?」
「うん。ほら俺、顔いいでしょ?だから昔から女性に猛烈なアピールされちゃってさ。色々混ぜられたお菓子食べさせられそうになったりしてたらいつの間にか・・・。」
表情が死んでく。これほど悲しい自慢話ないって。
うまく話が逸れていったことに感謝しつつ、女と認定されていないことに安心を覚えた。
「それよりもゲルド教官戻るの遅くない?」
「確かに。」
「・・・・あれ誰だ?」
どれだよ。流石戦闘民族というか、、、ヴァドは視力がめちゃくちゃいい。
彼が指さす方向をよく観察してみると、見慣れない人影が見えた。
「あれは、、、隣国の次期後継者シオン様だ。なぜこんな辺境に隣国の王家が?」
「バロウ団長と言い合ってねぇか?」
嘘……でしょ?
冷汗と体の震えが始まる。前世で私を苦しめた張本人であり、今世もどうしてか同じ世界に生れ落ち、私からグラデウスを引きはがした男。彼はどこまでも私の人生を邪魔しようとしてくる。
前の二人の会話が耳に入ってこなくなる。
「っおい。どうしたアス。顔色が悪いぞ。」
ヴァドは私の異変に真っ先に気づき、様子をうかがってくるが、返事を返す気力はない。忘れたい記憶がフラッシュバックしてきたため思わず自分の体を抱きすくめ座り込んだ。
「おいしっかりしろ!」
「どうしたの?」
「・・・なんでもない。早くあっち行こうよ。体ひえちゃた。」
困惑の表情を浮かべた二人を置いて、自主練へ向かった。
思い出したくないってのになぜ私の視界にシオンという男が映ってくるのか。今でも彼の事は理解できない。
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