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第5章「新人傭兵」
第62話「新たな一歩」
しおりを挟むいやな浮遊感が終わり目を開けると、ゲルド教官が仁王立ちして出迎えてくれた。
「最下位だ愚図ども。」
無事に生還して一発目にかけられた言葉は罵倒。
くー、さっすがゲルド教官。
「任務は・・・成功しているようだな。捕虜は預かっておく。昼食を済ませておけ。俺が戻るまで休憩だ。」
私たちが任務にかかった時間は1時間であった。案外早い方だと思っていたが他の班は10分だの30分だの異常な時間で任務をクリアしていた。
まじかよ。あんな難しい任務そんな早めに遂行するとか。どんだけ優秀なの今年の訓練兵。
「あー疲れたああ。」
「飯だ飯。ワトー!」
「今までこんなに苦戦することはなかったかも。」
嫌味やんそれ。爽やかな笑みでごまかせると思うなよ。
腹黒君を無理やり連れ込みワトさんテントでご飯を食べることにした。
保護者のワトさんに任務中の出来事を全て話したのだった。
「で?なんで最後二人驚いてたの?」
「・・・あん時よ、なんかわかんねえけど力が暴走したっつーか、魔力の量が急に倍増したっつーか。」
「まるで強力なバフを掛けられたみたいだったんだ。最後。」
「ほう・・・興味深いですねそれは。」
「でも誰もそんなことできなくない?火事場の馬鹿力じゃない?」
「かじばのばかじから?」
「うーんと、崖っぷちに立たされたが故に、普段出せない力が湧き出てきちゃうみたいな感じ。」
「いや、それはない。確実にあの場で何かの力が働いた。」
しばらく黙っていたワトさんが顔を上げる。
「アス殿、一度立ち上がってくれませんか?」
「え、あ、はい。」
とりあえず指示に従うと、腕を引っ張られワトさんに倒れこんでしまう。
「ぎゃっ!急に何するんですか!!」
彼の首筋に顔を埋めているような格好になってしまい、慌てて立ち上がろうとする。しかし彼がそれを許さず力強く抑え込まれてしまう。
彼の耳飾りが頬をかすめ、耳元でしゃなりと音が鳴る。
あばばばば。背中の冷汗止まらない!
限界に近くなった時、ようやく彼のてが解放してくれた。
「・・・フッ。なるほど。ようやく見つけましたあなたの能力。」
「え?」
何がおかしいのか。突然の奇行と笑み。
他の二人もまさかあの冷静なワトさんがするような行動ではないと頭がフリーズ中。
「あなたのユニークな能力。それは触れる相手に強いバフ効果をもたらすものです。」
相手にバフ効果を与える?
「今まで確信が持てませんでしたが予想はしていました。ヴァド様がアス殿との訓練しているときだけ、彼はいつも以上に火力が強く狂暴でした。このことからアス殿という存在が彼に変化を与えているのだと考えておりました。彼アス殿の能力なのか、それともヴァド様の心情のせいか。どっちもありそうで判断しにくい。」
「俺の心情ってなんだよ。」
「黙ってください。そして今日の任務中。ヴァド様限らずユウシャ殿が最後に発動した異様に強力な魔法。その話からきっとヴァド様の火力が強くなる現象と同じ。アス殿の力のおかげです。」
「それで最終確認のため、さっきの行動にでたのか。」
「おっしゃる通りです。アス殿に触れながら感知魔法を発動させ、感知の性能に強力なバフがかかったためアス殿の能力に確信を持てました。正直バフがかかりすぎて膨大な情報が頭に流れ込んだため、頭に少々痛みが。」
「・・・初めからワトさんが確かめればよかったんじゃない?」
あ、言わなきゃよかった。
「それをしてしまったらあなたの目的は達成してしまいます。ヴァド様との訓練を続けてくださるとは限らなかった。貴方との訓練のおかげで競うようにヴァド様は積極的に強くなってくれましたし。貴方もどんどん成長していった。言わない方がお互いのためになっているでしょう?」
「はい。」
何も言い返せないのが悔しい。その通りだ。
自分のユニークな能力さえわかっちゃえばワトさんに今よりも恩なんて感じずヴァドとの訓練も付き合わなかった。
「なんだ・・・結局僕は根っからの戦闘不向きな人ってことか。」
「いえ、そうとも限りません。」
「・・・強いね。その能力。」
「え?」
「どこがだよ?」
ヴァドとともに首をかしげてしまう。
「今は生物には有効だと分かっています。では非生物には?」
「・・・・・あ!まさか、魔法道具にもバフを掛けられる可能性があるってこと?」
ワトさんはうなづく。正解だ。
ユウシャ君も悔しそうに眉を顰める。彼が素直に強いとほめたのだ。
「休憩は終わりだ糞虫ども!!集まれ!」
希望の光が見えてきたとき、ゲルド教官から招集がかかった。
「無事捕虜どもの拷問が終わった。侵入の理由も明確に分かったため依頼主も大喜びだ。」
さりげなく物騒な出来事起っとる・・。
「まず三番目に到着したチームは+10だ。まあまあだな。ついたのは早かったが捕虜にした野郎があまり情報を知らされていない使い捨ての兵だった。二番目に到着したチームは+15。同様の理由だ。一番目に到着したてめえら。」
ゲルド教官が指さしたチーム。めちゃくちゃ見覚えあるぞあの顔ぶれ。
「あいつら・・・俺らに敵を押し付けた野郎じゃねえか。」
「・・・あの人達ね。俺もしっかり覚えているよ。」
さっき丸出しのチームメイト。怖い怖い。しかし私も彼らを恨んでいるため何も言えない。このミーティングが終わったら殴りに行こう。
「-100だ。」
「ええ!?なぜですか教官!」
「むしろそれくらいで済んでありがたく思え。玉無し野郎ども。数えたらきりがねえくらい減点行為を繰り返していたな今回は。俺の訓練生を送り込む現場に責任者がいないとでも思っているのか?目立つ行動して敵に追っ掛けられ、他の班の野郎に押し付けるとはな。恐れ入ったぜ。本当に玉無しにしてやろうか。」
「そんなっ。」
「そして、さらに教官に向かって口答えとは。いつの間に偉くなったんだ?ああ?!」
「す、すいません!!」
ぷぷっ。ざまーみろ。
私が殴るまでもなかったわ。ゲルド教官がたっぷりやってくれるっぽい。
「ざまぁねぇな。」
「どうも頭に虫が湧いているみたいだね。」
「最後に。今回の任務で一番点数を稼いだのは最下位に到着したてめえらだ。」
「まじか!」
「ええ!」
「・・・。」
私たちが一位なの?
「+30だ。捕虜として捕まえた老人は、今回騒動を起こした中心人物の一人だった。敵に囲まれながらも冷静な判断に加え、例の石像までもを守った。依頼主からの絶賛も受けたためこの点数だ。」
つい感極まり二人に抱き着いてしまう。放心した腹黒と一緒に興奮して抱き着き返してくる小学生。自身の人生をつかむ一歩を確実に踏めた日だと感じた。
「「やったああああ!」」
「本当に・・・こんなで。」
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