異世界転生少女奮闘記

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第5章「新人傭兵」

第60話「爺さん」

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「・・・なんでこうなったんだっけ。」
「知らねえよ。」
「だから野蛮人は苦手なんだ。」
「ああ?」
「ちょっと静かにして!」

 何時代に作られたかもわからない荒れた遺跡の陰に隠れ、息を殺す三人の陰。
 一人は美しい金髪と、美しく通ったまっすぐな鼻筋。深い蒼の瞳が一層彼の美しさを引き立たせる役割を買っている。しかし今はその美しい顔立ちを歪め、不快感をあらわにしていた。
 一人は黒曜石のように黒い髪がに一束ごとにまとまってねじれ、よほど悔しいのか彼の特徴である分厚い唇で強く食いしばられ血が出ている。猛禽類のように鋭く光った眼光は、三人を囲む存在に向けられている。
 一人はフードを目深くかぶり、素性は謎に包まれている。この者は思いつく限りの脱出方法を頭を高速回転させながら練っているがいまだ完成してはいない様子。

 そう。ご存じの通りユウシャ君、小学生男子、私である。
 ごめんて。一回心を落ち着けるのはまず自分たちの状況を客観的に見る必要があったからさ。

 そもそもなぜこんな深い森の中で敵に囲まれてしまったのかを想い出した方が落ち着くのかも。














「喜べ糞虫ども。今年の訓練兵は糞虫以下の者共の人数が多かった分、糞虫なお前らは歴代のものより良質であると期待されている。」

 地獄の訓練の始まりは毎回ゲルド教官の罵倒を浴びせられる朝ミーティングがある。しかしこの日は少し様子が違った。
 毎日苦しめられる凶悪な教官スマイルに磨きがかかっており、何より最初言葉から私たちをほめるとは。何か裏があることは確実。

「例年より一か月早く実践的訓練を始めることにした。そしてなんとご都合がよろしいことに、今日。隣国の阿呆どもが国境を乗り越えこちらに侵入してきたという報告が入ってきた。依頼人からは侵入してきた理由さえわかれば後は好きにしていいという内容だ。」

 おっと。物騒。

「確か全体で奇数だったな。ユウシャ、アス、ヴァド。貴様らは三人だ。他の者は二人組を作れ。」

「なんつーチームだよこれ。」
「最悪だ。野蛮人と愚図が一緒になるとは。」
「ぎゃははw。こいつが野蛮人?マジかよww。」
「野蛮人はきっと君の事だよ。ヴァド。」
「見た目通りの脳みそしてて逆に安心したよ。」

 朝の事件以降ユウシャ君は私の前で本性を見せるようになった。
 だいぶ毒舌なんだね・・・きみ。

「今回の課題は侵入してきた理由を探れ・・・と言いたいところだがさすがに国家機密に触れる可能性がある。そのため今回は生きた捕虜を連れて帰ってこい。各チームに先ほど配ったテレポート用の魔法石で問題になっている所へ飛ぶ。危険を感じたり任務が完了したらその魔法石を使ってここへ戻ってくるように。チャンスは一回だ。総合順位三チームに多くのポイントを与える。」

 結構重要かもな。今回の課題。ここで差をつけると後から有利になってくるのか。

「先に忠告しておくが、敵方もあほじゃねえ。糞虫どもと同じ実力だと思うな。部隊編成の殆どは戦闘慣れしてねぇ者ばかりだが、数人だがプロも混ざっている。命の保証はねえぞ。」

 遠征の準備ができ次第テレポートせよ、と言い残し去っていった。



 その後は言われた通り荷物をまとめ、石でテレポートした。
 他の班は一週間寝泊まりするんですかってくらいの大きい荷物を背負っていく人が多かったが・・・。私たち三人ともほぼ武器以外は持って行かなかった。
 私の場合そもそも大きい荷物を抱えたまま素早く行動できるほど体力がない。またもう一つの理由として、今回向かう遠征先を調べたが、国境付近は資源豊富なジャングルである。アスチルベ時代のサバイバル知識を頼れば衣食住何とかなると判断し、道具類以外は持って行かないことにした。
 
 ユウシャ君も同様にまず遠征先の気候を調べ道具や軽食をそろえ小さくまとめたみたいだった。
 ヴァドはいつも荷物がなく身一つで行動しているため、体に身に着けられないものは全ておいていくつもりみたいだ。

「馬鹿だ。」
「野蛮すぎる。」
「現に今もそれで生きてるんだぜ?十分だ。」

 一抹の不安を抱えながら魔法石を握り移動魔法を発動させる。ぐにゃりと視界が曲がると体にきつい浮遊感が遅い、足元が抜け暗闇に投げ出された感覚が駆け巡った。
 思わず目を瞑り、浮遊感がなくなるまでおとなしくした。

 恐らくに三十秒も立っていないうちに、私の花を強い青臭さと、どこか独特な土のにおいがくすぐった。

「テレポート、成功だね。」
「なんだ今の?!面白れぇ!W」
「・・・気持ち悪い。」

 案の定小学生大興奮。腹黒は酔ったのか顔を青ざめ口元を抑えていた。
 私もよってはいないがなれない感覚だったので冷汗が止まらない。

 わちゃわちゃしていた私たちをすぐに現実に戻したのは、、、一つの爆発音であった。


「え、なんか段々近づいてきてない?」
「なんじゃありゃ」
「あれ私たちと同じ訓練生じゃない?大量の敵引き連れてきてるけど。」



 以降、爆発音を出した阿保は同じく訓練を受けていた訓練兵は、私たちに濡れ衣を着せて先に逃げてしまったのだった。激しい爆発音に敵方が集まってしまい、追い込まれる形で今の遺跡に隠れているのだ。
 
 
「あんの阿保どもめ。今回の課題が終わったら一発殴ってやるわ。」
「その時は俺も加勢する。」
「そんなことよりどうすんだよこれ。」
「小学生は黙ってて。今考えてるから。」
「野蛮人のできることは今ない。」


 十分自分たちの今の状況を客観視することができた。しかしここで一つの疑問が。
 結構な時間があるにもかかわらず、なぜ彼らは近づいてこなかったのか・・・である。
 
「この遺跡が何か関係ありそうだね。」
「やっぱりそう思う?」

 当時は円形状に立っていたであろう大きな石の柱はほとんどが倒れており、苔に覆われている。屋根らしきものはほぼ崩れ落ち石に。柱が作る円の中心にはひどく苔や蔓に覆われ原型が分からないが、確かに何かの石像が一つ存在していた。

 建物らしかった遺跡の床を突き破り何本もの木が生えているため、私たちも近くに車でこ子が遺跡であることを気づかなかった。見事にジャングル景色に溶け込んでいたのだ。

「ーーーっ!!ーーーーーー・!」

 他国の言語で何かを喚き散らしている老人が見えた。相当頭にきているらしく手に持っているつけを頭上で振り上げ声を荒げている。

「なんだあのじじい」
「この国の言語で話してください・・・。」
「・・・君たち急いで真ん中の石像のところ行って。」

 突然何を言い出すのか疑問だったがどんなに腹黒でもユウシャ君。一か月同じ屋根の下で過ごしてきたのだ。信頼を置ける人物であることには変わりない。
 反抗するそぶりを見せた小学生の手を引き石像のもとへ移動した。

「なんて言ってたの?あのおじいさん。」
「俺も正確には聞き取れなかったが、ビクトリア様・・・・・・から離れろと聞こえた。」
「ビクトリア・・・確か世界三大宗教のなかの一つのビクトリア教?」

 ユウシャ君は石像を覆い隠す蔦や苔をかき分け、顔の輪郭をあらわにした。
 
 ビクトリア教というのはアスチルベ時代と深くかかわった宗教だから嫌でも覚えている。
 黒龍を従えこの世界に魔法を創り出し、人間を解放した伝説の女神。
 この話のおかげでアスチルベ時代の私は世界から大注目を浴びることになり、傭兵ギルドしか居場所がなくなってしまったのだ。

 何かと縁があるビクトリア様がここにまで関わってくるとは。

「敵方の国ではビクトリア教が広く信仰されている。」
「まさか・・・聖地奪還のため?」
「その可能性が高いな。小さないざこざで済むといいが。」
「びくとりあきょう?せいちだっかん?なんの話だそれ??」

 阿保はほおっておこう。
 とりあえず捕虜にすべき対象はこれで定まった。

「「あの爺さんを攫う」」
「おう!」

 中心人物は多分あの爺さんだ。例えそうでなくても十分に情報は持ってそうだ。
今回の課題は侵入してきた理由を探ることを目的にしているため、情報をより多く持っている人を連れ去る方がいい。
 ユウシャ君と私の考えが合致した。何も理解しないままとりあえず従うヴァド。
 凸凹三人組、無事に生還できるだろうか。

    
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