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第5章「新人傭兵」
第52話「保護者と小学生男子」
しおりを挟む「二班時間通りに来たな。五人中三人のため-20点。この広場内では争いごとは一切禁止だ。たどり着けなかったチームメイトは後に回収する。それまで待機。」
黒いクリップボードのような物に何かを書き記した。
「よかった。一人着けばある程度は許してくれるっぽいね。」
「そうね。・・・予想以上に人が少ないわね。」
魔法使いちゃんのいう通りあたりを見渡すと明らかに人数が少ない。新人は全体で約500人いたはずだ。いや、集合場所がもしかしたら違うかもしれない。
「ゲルド教官。この集合場所はどのチームも共通していますか?」
「ああ。」
違うやん共通やん。じゃあさっきのドレッドヘア軍団だけじゃなくて別の場所でも同じような争いごとが起こり、その生き残りがこの広場についたのか。
数十分後に例のドレッドヘア集団が広間に来る。
多分リーダーの男の大事なところが収まるまで休憩していたのだろう。
こめかみに怒りの十字路を浮かべてこちらに近づいてきた。
「おいてめえ名を名乗れ‼」
しっかり私の方を指さす。
「アスです。さようなら。」
「待て待て!アスだな覚えたぜ・・・。カワイイ顔してやることがえげつねぇ。」
ドン引きしている彼の横で、身長が高く面長なドレッドヘアが真顔で発言する。
「リーダー好みの面でしたねそういえば。」
「うるせえ!!」
分かった。最初語尾にwつけるくらいニタニタしてたからキャラ読めなかったけど、ただ感情の起伏が激しい小学生男子だこのドレッド。完全に面長ドレッドヘアが保護者的存在でしょ。
「俺はヴァド。次期ンゴンドロ族族長だ。」
「はぁ。」
「リーダー。アスという者は権力で靡かないようです。」
「クッソ・・・、覚えとけよボケ‼」
捨て台詞を吐き広間の隅にチームメンバーを引き連れて行ってしまった。
「精神年齢低すぎでしょ。」
最初の課題が終了した。
結果、私たちのチームを含め全体の三分の一しか生き残りはいなかった。
回収した勇者君と戦士君は、擦り傷やあざだらけであったが息はある。
僧侶ちゃんの回復魔法やポーションを使用し、二人を治療。支給されたテントを建て、休養を取ることにした。
まだ午前中であるはずなのにあまりにもいろんなことが起こりすぎて疲れてしまった。
ほかの者も同じように考えているらしく、それぞれがテントの中で昼寝や持ってきた食料を口に含んでいる。
勇者たちが目を覚ました。
「この度は俺たちを助けてくれて本当にありがとう。」
そういって起き上がるやな否や頭を下げた青年。
「実は俺たち四人は同じ故郷から来たんだ。それなのに初対面の君にすべての責任を負わせてしまい本当に申し訳ないと思っている。」
「いいよ全然。お礼はまたいつかしてもらおうかな。」
「もちろんさ!俺たちにできることであれば協力するよ。」
よし。こういう風に恩を売っておけば損になることはないだろう。
賢く生きなきゃ賢く。
しばらく彼ら四人がいかにしてこの傭兵団に来ようとしたのかを聞かされていたがお互い眠気がひどく、いったん昼寝する時間を設けることにした。
恐らくその数十分後だと思う。
外から大きな爆発音が聞こえた。まるでミサイルが降ってきたような音で、テントが爆風で吹き飛ばされるかと思ったほどだ。
「え?え?ちょっと何よ!」
魔法使いちゃんの金切り声。外をのぞくと明らかに爆弾がそばで爆発したであろう痕跡が近くにあった。火薬独特の香りとえぐられた地面。続いて別の箇所でも爆発音が聞こえてきた。
「空から降ってきているぞ!!」
どこか他のチームの人が叫ぶ。
空を見ると宙に浮かんだゲルド教官と無数の黒い物体。
いち早く状況を読み込んだ勇者君は指示を飛ばし始める。
「マホウは防御魔法の展開!ソウリョも手伝って!センシと俺は地面を掘り下げて塹壕を作る!」
「僕は偵察に行ってもいい?この中で一番隠密に長けてると思うからさ。」
「わかった!頼んだそ。」
魔法は無理だし戦えもしないものは偵察役に回すほうがいい。
一番危険な役割だけど仕方ないね。
「・・・こりゃひどい」
最初の課題で負傷した者が休んでいたであろうテントが破壊され、血を流して倒れているものがいる。
ぴくぴくと手が動いているため死んではいない・・・が、時間の問題だ。
集合場所であったここは森に囲まれていたが、空から降り注いだ爆弾によって木々が倒れている。
「何してんだよ男女野郎!」
「げ、小学生男子。」
「ヴァドだよ!そして露骨に嫌そうな顔すんな!」
「とその保護者。」
「先程ぶりですアス殿。偵察ですか?」
「そのとーり。元凶のゲルド教官はまだ見てないけどね。」
先ほどから空を見ているがゲルド教官らしき人影は見当たらない。
相当の鬼畜だ。
あの地獄のような課題の後にこのような砲撃を食らうとは。
「これは次の課題・・・。」
「アス殿にも課題の詳細は知らされていない様子ですね。実は我々も同じく課題の内容を確認するためゲルド教官殿を探していました。」
「なんの話をしてんだ?ただの敵だろ?」
馬鹿は黙ってろ・・・。
彼の保護者も同じことを考えたのか、一瞥しただけでまた私に向き合った。
「あなたの仲間に害をなしたことはお詫びします。ここは一時休戦とし、協力し合いませんか?」
「うーん、裏切らない可能性は保証できるの?」
「おいおい俺を無視すんなよ!安心しろアス。俺たち一族は一度負けた相手に逆らいはしねぇよ。だかお前は弱ぇから俺たちが守ってやるよ。」
「結構です。」
分かりやすく肩を落としたヴァド。保護者は苦笑するとこちらに手を差し出してきた。
「手をお貸しして頂けませんか?」
「え?」
まだ何も言ってないのに勝手に手を取られた。
「私たち一族で額は神聖な場所とされています。神に誓って約束事をするときには相手に額を触らせるのがしきたりとなっています。」
吹き出物などこの世に存在していないのかと錯覚するほどきれいな褐色肌。身長が向こうの方が高いためひざまずき、私の手の甲を自身の額に当てている。
ゆっくりと長いまつげを震わせこちらを下から見上げてくる。
この保護者・・・手練れだ。女であろうが男であろうが惑わせるフェロモン。ろくに顔を見ていなかったが、一族共通に刻まれるタトゥーがさらなる色気を際立たせている。
恐らく今までこうやってほぼ強制的に自身の要求を相手に飲み込ませていたのだろう。
「別にそんなことしなくても協力するつもりだったのに。さっさとゲルド教官を探しに行こうよ。」
驚きを隠しきれないのか目を大きく見開き私を異質な人物であるように眺めてくる保護者。
こっちはマスターやグラデウス、ジャックにヨウタと顔が整った人物と多く関わってんだよ。イケメン耐性はバッチリじゃこんちくしょう。
さっさと二人を残して足早に移動し始めた。
「ぎゃはは‼お前の誘いに惑わされねえ奴はじめてみたww。やっぱあいつ、すげームカつくけどすげぇおもしれえやつww‼」
「・・・面白いですねまったく。彼、彼女、どちらでもいい。イイ人を見つけましたね。」
終始無表情であった保護者が薄っすらと目を細めた。口元を隠していたが笑みを浮かべているのは分かる。
「・・・お前の今の表情最高に不気味だぞ。」
「・・・。」
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