異世界転生少女奮闘記

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第3章「不幸の連続」

第43話「懐かしい」

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 うすぼんやりと夢を見た。

 四畳半の部屋と一つしかない窓。 
 
 外では雷が騒ぎ、大粒の雨が窓ガラスをたたく。


「ーーーちゃん。今日もかわいいね。髪の毛がさらさらで綺麗だ」

 甘ったるい猫なで声で私の髪を櫛でとかす一人の男。
 愛おしそうに髪の一束を掬い上げて唇を軽くあてる。

「・・・ねえ、返して。」
「どうして?」
「帰りたい。」
「・・・・・・・・・・・どこに?」

 先ほどまでの雰囲気と一変する。
 これ以上何かを言うとまた・・お仕置きされる。

 どれほど長い間ここにいるのだろう。
 私の世界はこの部屋だけだ。

 
「ねえ、ーーーちゃん。僕のこと好き?」
「・・・ええ、もちろんよ。」

 何度も繰り返された質問に、何度も返したであろう模範解答。
 向こうも私の気持ちなんてこもってないのを知っているのか満足していない。


「愛してる。・・・・・アスチルベちゃん。」











「・・・・・っは!!!!」

 意識は一瞬で戻された。やけに生々しい夢。
 背中に汗が伝わる。
 前髪が汗のせいでおでこに張り付く。

 雨の日は決まって気味の悪い夢を見る。そのたびにグラデウスが起こしてくれて抱きしめてくれる。
 ・・・・?
 ぐら、デウス?

 一気に記憶が戻ってきてまた汗がわきでてきた。


 慌てて周りを確認すると見覚えのある部屋。
 私の部屋だ。いつの間にか家に帰っていた。

 どこまでが夢だったのだろうか。まさかすべてが夢??



「・・リリーお姉ちゃん!お母さん!お父さん!」


 今は何日だ?何が起こったんだ?


「あ、いた。」


 リリーお姉ちゃんお気に入りの花柄ワンピース。
 お母さんが彼女へと作ってくれた。。
 お姉ちゃんはドアを開けて外にいる誰かとしゃべっている。
 そのお姉ちゃんのそばに両親が立っていた。

「お姉ちゃん、お父さん、お母さん!」

 

「・・・・っアスチルベ!来ちゃダメ!!!!」




 お姉ちゃんが叫ぶな否や大柄な騎士二人が両親を押しのけて入り込み腕を伸ばしてきた。

 視界の端ではお姉ちゃんもとらわれているのが見える。





「アマリリスおよびその妹アスチルベ。オージュ侯爵のご子息を暗殺した疑いで逮捕する。町までご同行願おう。」





 力づくで腕を引っ張られ、有無を言わせてくれる隙がない。
 ひたすら家族の名前を叫ぶことしかできず、無理やり馬車に乗せられた。
 町へと急ぐこの馬車を止められる者は誰もいなかった。

 

 着いた先は街の一番大きな裁判所であった。本来ならば私がオージュ侯爵の息子と戦う場所であったはずなのだが……。
 偉そうに踏ん反り返る裁判官の目の前に投げ出され、体の節々が痛い。
 慌てて辺を見渡すと、これからの裁判に興味津々で下卑た笑みを浮かべた人々が私達を囲むように並べられた席に座っている。
 リリーお姉ちゃんの美しい髪は騎士達に乱暴に引っ掴まされたせいか艶が少し曇っている。


「ああ、なんてことをしてくれたのかしら!!
私の愛しい夫を返して下さい。」

 地べたに転がされた私達の側に立って、大袈裟に嘆きを訴えている女性……アイリスさんだ。
 オージュ侯爵の息子への愛と殺害された苦しみをつらつらと並びたてている。
 言い返したかったが口を封じられていて声が出せない。グラデウスがそばに居ない私は唯の非力な少女だ。馬車の中で抵抗した瞬間に殺されお姉ちゃんにまで影響が及ぶので大人しくした。

「ふむ。つまりこのどちらか……はたまたどちらもがオージュ侯爵様のご子息を暗殺する計画に関わったと?」
「はい。」

はめられた。きっとすべてがグルだったんだ。
マスターも、アイリスさんも。
全てが嘘だったのだ。
 オージュ侯爵息子を殺害したのもアイリスさん達だと表情から分かる。



 濡れ衣を着せて私達を殺そうとしているのだ。



 僅かな希望を持って見覚えのある顔ぶれを探したが何処にも居なかった。
 村の人々も、マスターのお店の客も、両親でさえ……。誰も異論を訴えるために来てはくれなかった。見捨てられたのだ。

「成る程……。証拠はどこにあるのかね?」

 若干の棒読み感で喋る裁判官。

「私が保証しましょう」

「これはこれは。シオン様では御座いませんか!」

 背筋が凍る。

「僕が証明いたしましょう。数々の調査の結果犯人が特定いたしました。それは………。」

 彼の指先は明らかにお姉ちゃん・・・・・を指そうとしている。

 薄桜色した瞳を歪め、心の底から愉しんでいる表情。どこか懐かしい・・・・。直感的に分かった。間違いなくは、
 


「……私です。アマリリスの妹ことアスチルベが、オージュ侯爵のご子息を暗殺致しました。」

 




 あの男と前世・・で会ったことがある。


 
 
 今まで少しずつ前世の記憶に蓋をしていたが、それも無駄に終わってしまった。

 



 全て思い出した・・・・・・・


















ーーーとある男の目線ーーー
 

 薄暗くなった店内を見つめる。


 俺は、俺様は何をやっている?

「アシュレイよくやった。君なら最後まで僕を裏切らないと信じていたよ。」

 愉快そうに俺様を誉めたてる。先程の光景が頭に浮かび思わず目の前の男を睨みつけた。

「黒龍は手に入った。ついに僕の国ができるんだ。なんて素敵な話だろう!嗚呼、アシュレイも喜びたまえ!」
「・・・。」
「・・・・まだ引きずっているの?女なんて君にほいほい近づいてくる。すぐに忘れるよ。」
「ああ、そうだろうな。すぐに・・・。」

 上の空にしか返事が出来ねえことは自覚している。俺様は、あのクソガキに好意を寄せていんのは前から知っていた。だがそんな女は前にも何人もいたから違和感はない・・・はずだ。
 じゃあこの胸糞悪い気分はなんだ?

 異常なほどにあいつに執着してんのはこの男に言われなくても気づいていた。

 好意・・・どころじゃねえ。

 愛している。


 
 俺様は、人生で初めて愛した女を・・・・・・裏切った。





 
「こんなことになんだったら、やれることはやればよかった。」




 何かの鎖が外れる音がした。


 


 













 第一部 完







 










 

 
 





































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