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第4章「改めた新たな世界」
第44話「よろしく。」
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おはよう異世界。
さようなら前世。
初めまして知らない天井。
うっすらと瞼を上げ、知らない天井。うん。そこまではいい。
「……いや牢屋?!」
つい大声で突っ込んでしまった。
「え?ええ??」
独り言が寂しく牢屋に響く。
私、なんでこんなとこにいるの?
最後の記憶は有罪判決を言い渡された瞬間に後頭部に鋭い痛みが走って倒れたことだけは覚えてる。
多分そばにいた騎士に気絶させられてここにとりあえず突っ込まれた感じなのか?
取り敢えず現状把握しよ。
服は薄汚くボロボロの麻製を着ており、持ち物は全部ない。
手脚には逃亡防止の重くて頑丈な鎖が着けられており、手脚の皮が薄く剥けていて痛い。
暗い空間に目が慣れてきたため辺りを見渡す。ジメジメした岩肌に囲まれていて、テラテラと松明の火が牢屋の中を照らす。雰囲気的に地下牢であると予想できた。
「__っなので、ええ。いい商品を揃えていますよぉ?」
男の下卑た声が階段を降りてきた。
商品??
「はい。そうですね~この男はかの有名な獣人国出身で力が強い。いい労働力としていい奴隷になるでしょう!
この魅惑的な体つきした女は__。」
まさかまさかまさか!
嫌な予感はした。
町の牢屋じゃない。奴隷商に売られたんじゃね?
「この貧相なモノはつい先程辺境の地で拾いました。収穫から帰ってきたばかりなので性別はまだ調べていませんがまあ……好みであれば。」
おいこら紹介の仕方が雑やん。いや現実逃避してる場合じゃない!早くなんとかしないと売られちゃう!
売られたらどういった未来が待ち受けているのか予想できる。少なくともハッピーな人生は送れそうにもない。
どうしよう……。
取り敢えず女だとさらにひどい目にあわされる気がする。性別は偽ったほうがいいかもな。
毎日ちゃんと手入れされた髪の毛が目に入る。
何の悔いもないわ。
目の前にはかけた木のお椀や何処かの花瓶の破片が転がっている。
多分だけど私はそんな重要視されてはいないと思った。そうじゃなきゃ凶器となりそうなものとか放って置くはずがない。
破片を片手に髪の毛をバッサリ切り落とす。ベリーショート並の長さにし、なるべく目立たないように髪の毛をさらに汚しボサボサにする。
胸は不幸中の幸いに薄っぺらいため麻の裾を千切りサラシの代用品とした。
見事にモブ少年に変装したと思う。牢屋の隅にあった水たまりに姿を写し感動。
さて、気休めに変装したはいいが、もう少し現状把握したほうがいいな。
前世の私は「泡盛 奏子」。年齢は確か27。
平凡で小さな商品会社に務め、料理が大好きだった。
最後の記憶は横断歩道を走っていた時に見えた横からくる車のヘッドライト。
恐らく轢かれた。
そして今世のわたしは「アスチルベ」。貧しい農村生まれの女の子。
様々なことがあって殺人の罪の濡れ衣を着せられ気づいたらここに。
いや、今考えてもすっごいなわたし。
前世で生きた私と今世のわたしの記憶が混ざっていおり、少し違和感があるが支障はない。どちらであれ楽観的な思考であることは共通していたのだろう。
シオンという男は間違いなく私と前世で出会った。あの気味の悪い薄桜色の瞳には覚えがある。
いや、覚えざるを終えなかった。
シオンの前世の名前は漢字で「紫苑」。私を誘拐した張本人だ。
雨の日に必ず悪夢に出てきた男女とはつまり・・・・。
「私だったのか・・・っ。」
思い出したくもないはずだ。
日々壊れていく自身の精神に耐えられるはずもない。
必死に記憶に蓋をして抑え込んでいたのだ。
雨の日にふわふわするのは、本能的に痛みを和らげるためだったのだろう。
葛藤しているとまた上から誰かが下りてくる音が聞こえてきた。
「___っこいつは如何でしょう?貴方様にとって役立つのでは??」
「伝えたはずだ。俺に女は必要ねぇ。」
ぞくりと腰に来る低音ボイス。殺意があびらぎった商人に向けられていることは分かるが私まで命の危機を感じてしまった。
「ヒッ、大変失礼いたしました。」
「どいつもこいつも同じ目だなぁ……。」
「まあまぁバロウ団長落ち着いてください。そもそもこんな所で探すのも可笑しいですよ。」
そのような会話とともに先程のキモい商人がまた別のオキャクサン二人を連れてまた降りてきた。
色素が薄く白い髪を肩まで伸ばし、うざったそうに掻き上げる男はどうやらバロウというらしい。身長が190越えの巨体で鍛え上げられた体は彫刻のように深い堀を際立たせていた。シャツ一枚とラフな格好だが大きく胸をはだけ腕まくりをしている。体中に傷があるのがよくわかった。
左目の大きな傷跡、瞼は閉じられたまま。髭の手入れはせず寝起きのようで、不機嫌そうに眉を潜め深い影を落とす。
落ち着かせたいのか煽りたいのか分からない言葉を言ったもう一人の方は正反対にきちんとした格好をしている。
くすんだ紅い髪を坊主フェードにカットされ、垂れた目尻は抜け目なく商品を観察する。ニヒルな笑みを浮かべているのでますます怪しい人物である。彼もまた180越えと身長が高く、バロウという男ほどではないが細く無駄のない体つきをしている。
性格は絶対に皮肉れていると思う。喋るたびに見える舌ピアスをじっと観察。
目があってしまった。
「お!団長!あいつはどうですかい。」
「………いいな。こりゃあいい。」
上機嫌そうに唇の端を上に吊り上げてた。笑おうとしているのかもしれないが生憎不気味さが増しただけであった。
気のせいであって欲しい。
しかし怪しい二人がどんどんこっちに近づいてきて、鉄格子ごしに向き合った。
「見るからに貧弱そう。すぐ死ぬと思いますよ。」
「ああ。それでいい。そういう奴を求めていた。」
不気味に笑う男達。何が目的なのかもわからない。
「おい商人。こいつににする。」
「へ??これで御座いますか?!貴方様にとって何も利益にならなっ……畏まりました今すぐに契約を結びます。」
先ほどより数倍の威圧でバロウという男が商人に向けて放ったため、商人はすぐさま言葉を改めた。
「おい。お前は今日から俺の弟子だ。・・・・返事はどうした。」
「ひゃい。」
情けない返事をしてしまった。
バロウは愉快そうに体を揺らす。
そして恐怖で動けない私の体が勢いよく引き寄せられ、喉元に歯を突き立てられた。
「よろしく。」
痛みで顔をひどく歪めた私の耳元にそんな言葉がささやかれた。
さようなら前世。
初めまして知らない天井。
うっすらと瞼を上げ、知らない天井。うん。そこまではいい。
「……いや牢屋?!」
つい大声で突っ込んでしまった。
「え?ええ??」
独り言が寂しく牢屋に響く。
私、なんでこんなとこにいるの?
最後の記憶は有罪判決を言い渡された瞬間に後頭部に鋭い痛みが走って倒れたことだけは覚えてる。
多分そばにいた騎士に気絶させられてここにとりあえず突っ込まれた感じなのか?
取り敢えず現状把握しよ。
服は薄汚くボロボロの麻製を着ており、持ち物は全部ない。
手脚には逃亡防止の重くて頑丈な鎖が着けられており、手脚の皮が薄く剥けていて痛い。
暗い空間に目が慣れてきたため辺りを見渡す。ジメジメした岩肌に囲まれていて、テラテラと松明の火が牢屋の中を照らす。雰囲気的に地下牢であると予想できた。
「__っなので、ええ。いい商品を揃えていますよぉ?」
男の下卑た声が階段を降りてきた。
商品??
「はい。そうですね~この男はかの有名な獣人国出身で力が強い。いい労働力としていい奴隷になるでしょう!
この魅惑的な体つきした女は__。」
まさかまさかまさか!
嫌な予感はした。
町の牢屋じゃない。奴隷商に売られたんじゃね?
「この貧相なモノはつい先程辺境の地で拾いました。収穫から帰ってきたばかりなので性別はまだ調べていませんがまあ……好みであれば。」
おいこら紹介の仕方が雑やん。いや現実逃避してる場合じゃない!早くなんとかしないと売られちゃう!
売られたらどういった未来が待ち受けているのか予想できる。少なくともハッピーな人生は送れそうにもない。
どうしよう……。
取り敢えず女だとさらにひどい目にあわされる気がする。性別は偽ったほうがいいかもな。
毎日ちゃんと手入れされた髪の毛が目に入る。
何の悔いもないわ。
目の前にはかけた木のお椀や何処かの花瓶の破片が転がっている。
多分だけど私はそんな重要視されてはいないと思った。そうじゃなきゃ凶器となりそうなものとか放って置くはずがない。
破片を片手に髪の毛をバッサリ切り落とす。ベリーショート並の長さにし、なるべく目立たないように髪の毛をさらに汚しボサボサにする。
胸は不幸中の幸いに薄っぺらいため麻の裾を千切りサラシの代用品とした。
見事にモブ少年に変装したと思う。牢屋の隅にあった水たまりに姿を写し感動。
さて、気休めに変装したはいいが、もう少し現状把握したほうがいいな。
前世の私は「泡盛 奏子」。年齢は確か27。
平凡で小さな商品会社に務め、料理が大好きだった。
最後の記憶は横断歩道を走っていた時に見えた横からくる車のヘッドライト。
恐らく轢かれた。
そして今世のわたしは「アスチルベ」。貧しい農村生まれの女の子。
様々なことがあって殺人の罪の濡れ衣を着せられ気づいたらここに。
いや、今考えてもすっごいなわたし。
前世で生きた私と今世のわたしの記憶が混ざっていおり、少し違和感があるが支障はない。どちらであれ楽観的な思考であることは共通していたのだろう。
シオンという男は間違いなく私と前世で出会った。あの気味の悪い薄桜色の瞳には覚えがある。
いや、覚えざるを終えなかった。
シオンの前世の名前は漢字で「紫苑」。私を誘拐した張本人だ。
雨の日に必ず悪夢に出てきた男女とはつまり・・・・。
「私だったのか・・・っ。」
思い出したくもないはずだ。
日々壊れていく自身の精神に耐えられるはずもない。
必死に記憶に蓋をして抑え込んでいたのだ。
雨の日にふわふわするのは、本能的に痛みを和らげるためだったのだろう。
葛藤しているとまた上から誰かが下りてくる音が聞こえてきた。
「___っこいつは如何でしょう?貴方様にとって役立つのでは??」
「伝えたはずだ。俺に女は必要ねぇ。」
ぞくりと腰に来る低音ボイス。殺意があびらぎった商人に向けられていることは分かるが私まで命の危機を感じてしまった。
「ヒッ、大変失礼いたしました。」
「どいつもこいつも同じ目だなぁ……。」
「まあまぁバロウ団長落ち着いてください。そもそもこんな所で探すのも可笑しいですよ。」
そのような会話とともに先程のキモい商人がまた別のオキャクサン二人を連れてまた降りてきた。
色素が薄く白い髪を肩まで伸ばし、うざったそうに掻き上げる男はどうやらバロウというらしい。身長が190越えの巨体で鍛え上げられた体は彫刻のように深い堀を際立たせていた。シャツ一枚とラフな格好だが大きく胸をはだけ腕まくりをしている。体中に傷があるのがよくわかった。
左目の大きな傷跡、瞼は閉じられたまま。髭の手入れはせず寝起きのようで、不機嫌そうに眉を潜め深い影を落とす。
落ち着かせたいのか煽りたいのか分からない言葉を言ったもう一人の方は正反対にきちんとした格好をしている。
くすんだ紅い髪を坊主フェードにカットされ、垂れた目尻は抜け目なく商品を観察する。ニヒルな笑みを浮かべているのでますます怪しい人物である。彼もまた180越えと身長が高く、バロウという男ほどではないが細く無駄のない体つきをしている。
性格は絶対に皮肉れていると思う。喋るたびに見える舌ピアスをじっと観察。
目があってしまった。
「お!団長!あいつはどうですかい。」
「………いいな。こりゃあいい。」
上機嫌そうに唇の端を上に吊り上げてた。笑おうとしているのかもしれないが生憎不気味さが増しただけであった。
気のせいであって欲しい。
しかし怪しい二人がどんどんこっちに近づいてきて、鉄格子ごしに向き合った。
「見るからに貧弱そう。すぐ死ぬと思いますよ。」
「ああ。それでいい。そういう奴を求めていた。」
不気味に笑う男達。何が目的なのかもわからない。
「おい商人。こいつににする。」
「へ??これで御座いますか?!貴方様にとって何も利益にならなっ……畏まりました今すぐに契約を結びます。」
先ほどより数倍の威圧でバロウという男が商人に向けて放ったため、商人はすぐさま言葉を改めた。
「おい。お前は今日から俺の弟子だ。・・・・返事はどうした。」
「ひゃい。」
情けない返事をしてしまった。
バロウは愉快そうに体を揺らす。
そして恐怖で動けない私の体が勢いよく引き寄せられ、喉元に歯を突き立てられた。
「よろしく。」
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