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第3章「不幸の連続」
第36話「不幸との遭遇」
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アスチルベ目線
__________________
目が覚めると知っている天井。暫く意識は空を彷徨っていたが、まだ窓の外が土砂降りだとわかると頭痛のせいで寝込んでいたのを思い出す。
そばにはグラデウスの気配が無いことから恐らくマスターに捕まり私の代わりに働かされているのだと安易に予想出来た。
数刻前の頭痛や吐き気はすっかり良くなり、気分も普通。
……なんかこのままゆっくり遊ぶのもいいけど、流石にグラデウスに申し訳ない。
仕方なくマスターの元へ向かうために着替えると土砂降りの中へ飛び出した。
「……うん?」
いつもの道を歩いていると、茶色の布を被りボロボロな裾のスカートを身に着けた人が路地裏で倒れ込んでいる。恐らく女性なのだろう。
きっと美しかったブロンドの髪が泥でくすみ、かすかに見えた腕には沢山の痣が痛々しい。
声をかけずにはいられなかった。
「あの、大丈夫ですか?……いえ、どうしましたか?」
こういう時は大丈夫ですかと聞いてはだめだ。きっと相手は大丈夫です返答せざる負えない。
こういう場合は答える幅が広がるような質問を投げかけたほうがいい。
「……。」
暫く私を見つめたあと、彼女は倒れ込んでしまった。
「ええ?!」
慌てて雨の当たらない無人の家に避難させた。本当は不法侵入に当たるが、この家の大家とは顔見知りなので許してくれるはず!
「意識ありますか?!…駄目だ完全に気を失ってる。」
取り敢えず早く体を温めなくては……。
手頃の廃材を手に取り、乾いているかを確かめるとマスター直伝の魔法を使う。まあ、ポチっと押すと火が出てくるようにした魔法具なんですけどね。
えと、『ラウター』って名前つけたっけな。……何かを参考につけたけど、忘れちゃった。
まぁ忘れるくらいだしどうでもいいでしょ。
「乾け乾け乾け!」
生憎服を乾かす魔法具は持ってないので数少ない私自身が持っているマナを使って乾かす。
いや、補助がないとやっぱりキツイ……。
なんとか衣服を乾かした後、体を温めてあげるため火のそばに寝かす。
「…う……ん。」
「あ、起きましたか?」
「こ、こは?」
目を開けた女性は私の方を見ると目を見開いた。無理もない。
そして私はようやく確信を得た。
「初めましてアイリスさん。いつもマスター…いえアシュレイさんにお世話になっています。看板娘のアスチルベと申します。」
この女性はマスターの想い人であり、幼馴染みのアイリスさんだった。
向こうはちょくちょくとマスターの元へ来ているが、お互い対面したのはこれで初めて。
何の理由があってこんなに痣だらけになっていたのかは気になるけど、まずは彼女の気持ちを落ち着かせよう。
現在までに至った出来事を事細かに説明し、彼女が状況を整理するのを待った。
「成程……迷惑をかけてしまってごめんなさい。貴方はまだまだ若いのにしっかりしているのね。」
「いえ、そんなこと無いですよ。」
と言いつつ、胸をはる。
「アスチルベちゃんの事はアシュレイからたまに聞かせてもらっているわ。彼にしては珍しく貴方に興味あるみたい。」
優しく微笑まれて女の私でも頬が赤くなってしまう。これは魔性の美女だ。
「……どうか、今日の事はアシュレイに言わないで。きっと彼は私を心配する。彼の邪魔はしたくないのよ。」
そう言って目を伏せる彼女は綺麗で、何処か憂いを帯びている。
「あの、アスチルベちゃん。例えばの話なのだけど。
殺人などの罪を疑われたとき、貴方の大切な人と貴方が犯人を疑わた場合、アスチルベちゃんは罪を被る?それとも、大切な人に押し付ける?」
唐突の質問に戸惑う。しかも結構重い話だし……
「えーっと、多分被っちゃう……と信じたいですね。もしかしたら怯えている大切な人に押し付けちゃうかもしれないですけど、絶対にそんな自分は嫌です。最後までやっぱり、カッコつけたいですしね。」
凄く馬鹿な回答をしてしまったと自分でも分かる。でも、これは本音だからしょうが無い。
「そう……貴方は本当に綺麗ね。」
「え?そんなアイリスさんの方が絶対綺麗ですよ!割と本気で。」
「あら、有難う。」
フフっと大人の笑みを浮かべた所で、屋根に当たる雨音が消えたことに気づく。
壁の穴から外を覗くと厚い雲から青空が見え始めた。
「雨止みましたね。どうしますか?怪我の手当だけでも……。」
「いえ、大丈夫。迎えを呼んで医師の所へ向かうわ。」
流石貴族のお嫁さん。でも、本当に大丈夫なのだろうか。
実はアイリスさんの夫である『オージュ侯爵』は酒癖が悪く、女性関係もだらしないという噂を耳にした事がある。
もしかしたら……いや、アイリスさんの領域にまで関与する資格はない。
ここはマスターに任せよう。
……すいません見ないふりじゃないんです……。
こうしてアイリスさんの迎えがくるまで雑談を交わし、家路についた。
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目が覚めると知っている天井。暫く意識は空を彷徨っていたが、まだ窓の外が土砂降りだとわかると頭痛のせいで寝込んでいたのを思い出す。
そばにはグラデウスの気配が無いことから恐らくマスターに捕まり私の代わりに働かされているのだと安易に予想出来た。
数刻前の頭痛や吐き気はすっかり良くなり、気分も普通。
……なんかこのままゆっくり遊ぶのもいいけど、流石にグラデウスに申し訳ない。
仕方なくマスターの元へ向かうために着替えると土砂降りの中へ飛び出した。
「……うん?」
いつもの道を歩いていると、茶色の布を被りボロボロな裾のスカートを身に着けた人が路地裏で倒れ込んでいる。恐らく女性なのだろう。
きっと美しかったブロンドの髪が泥でくすみ、かすかに見えた腕には沢山の痣が痛々しい。
声をかけずにはいられなかった。
「あの、大丈夫ですか?……いえ、どうしましたか?」
こういう時は大丈夫ですかと聞いてはだめだ。きっと相手は大丈夫です返答せざる負えない。
こういう場合は答える幅が広がるような質問を投げかけたほうがいい。
「……。」
暫く私を見つめたあと、彼女は倒れ込んでしまった。
「ええ?!」
慌てて雨の当たらない無人の家に避難させた。本当は不法侵入に当たるが、この家の大家とは顔見知りなので許してくれるはず!
「意識ありますか?!…駄目だ完全に気を失ってる。」
取り敢えず早く体を温めなくては……。
手頃の廃材を手に取り、乾いているかを確かめるとマスター直伝の魔法を使う。まあ、ポチっと押すと火が出てくるようにした魔法具なんですけどね。
えと、『ラウター』って名前つけたっけな。……何かを参考につけたけど、忘れちゃった。
まぁ忘れるくらいだしどうでもいいでしょ。
「乾け乾け乾け!」
生憎服を乾かす魔法具は持ってないので数少ない私自身が持っているマナを使って乾かす。
いや、補助がないとやっぱりキツイ……。
なんとか衣服を乾かした後、体を温めてあげるため火のそばに寝かす。
「…う……ん。」
「あ、起きましたか?」
「こ、こは?」
目を開けた女性は私の方を見ると目を見開いた。無理もない。
そして私はようやく確信を得た。
「初めましてアイリスさん。いつもマスター…いえアシュレイさんにお世話になっています。看板娘のアスチルベと申します。」
この女性はマスターの想い人であり、幼馴染みのアイリスさんだった。
向こうはちょくちょくとマスターの元へ来ているが、お互い対面したのはこれで初めて。
何の理由があってこんなに痣だらけになっていたのかは気になるけど、まずは彼女の気持ちを落ち着かせよう。
現在までに至った出来事を事細かに説明し、彼女が状況を整理するのを待った。
「成程……迷惑をかけてしまってごめんなさい。貴方はまだまだ若いのにしっかりしているのね。」
「いえ、そんなこと無いですよ。」
と言いつつ、胸をはる。
「アスチルベちゃんの事はアシュレイからたまに聞かせてもらっているわ。彼にしては珍しく貴方に興味あるみたい。」
優しく微笑まれて女の私でも頬が赤くなってしまう。これは魔性の美女だ。
「……どうか、今日の事はアシュレイに言わないで。きっと彼は私を心配する。彼の邪魔はしたくないのよ。」
そう言って目を伏せる彼女は綺麗で、何処か憂いを帯びている。
「あの、アスチルベちゃん。例えばの話なのだけど。
殺人などの罪を疑われたとき、貴方の大切な人と貴方が犯人を疑わた場合、アスチルベちゃんは罪を被る?それとも、大切な人に押し付ける?」
唐突の質問に戸惑う。しかも結構重い話だし……
「えーっと、多分被っちゃう……と信じたいですね。もしかしたら怯えている大切な人に押し付けちゃうかもしれないですけど、絶対にそんな自分は嫌です。最後までやっぱり、カッコつけたいですしね。」
凄く馬鹿な回答をしてしまったと自分でも分かる。でも、これは本音だからしょうが無い。
「そう……貴方は本当に綺麗ね。」
「え?そんなアイリスさんの方が絶対綺麗ですよ!割と本気で。」
「あら、有難う。」
フフっと大人の笑みを浮かべた所で、屋根に当たる雨音が消えたことに気づく。
壁の穴から外を覗くと厚い雲から青空が見え始めた。
「雨止みましたね。どうしますか?怪我の手当だけでも……。」
「いえ、大丈夫。迎えを呼んで医師の所へ向かうわ。」
流石貴族のお嫁さん。でも、本当に大丈夫なのだろうか。
実はアイリスさんの夫である『オージュ侯爵』は酒癖が悪く、女性関係もだらしないという噂を耳にした事がある。
もしかしたら……いや、アイリスさんの領域にまで関与する資格はない。
ここはマスターに任せよう。
……すいません見ないふりじゃないんです……。
こうしてアイリスさんの迎えがくるまで雑談を交わし、家路についた。
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