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第2章「慌ただしい日常」
第28話「雪まつり③」
しおりを挟む脳が警戒音を鳴らす。彼と目をそらすとなにかヤバイ事が起こると錯覚させられる。
本能的に私は彼を警戒しているらしい。でも、思考は追いついていない。
「……だ、れですか貴方。」
ようやく乾いた喉で発声した声は掠れている。
「オヤ?そんな警戒されちゃうとオレも傷ついちゃうナァ。」
困ったように眉を下げ、心の底から傷ついたような顔をする。
_______っ!
「グラデウス!!」
「伏せていろ……。」
これ以上彼と話してたら負けていたのかもしれない。グラデウスが放った氷の塊は確実に氷像を壊した。
「あ、バレちゃった?」
彼はこの大会に参加してはいけない人物だ。ルールを無視して私達を倒す気だったのだ。
「貴方は殺気を隠すこともしないね。そのお陰でじっくり観察して分かった。『雪が溶けてない』ってことに。」
「……ありゃー、そりゃばれちゃうネ。失敗失敗。」
どんな獣であれ人間であれ、魔法を使わないと0度以下の体温にはならない。だから雪が肌に当たったら溶けるというのが普通だ。
しかし彼は例外であり、魔法が使われているというのに気づいた。
そしてグラデウスの視界を共用して、彼自身が魔法で出来た偽物であると分かったのだ。
「さすが私の相棒だね。」
「当然であろう。」
言わずとも自然とハイタッチを交わす。そしてシヴァルの声が聞こえた方向を見ると、顎に手をつき呑気に観客席に座っていた。
「さっすがコンビニネーションがいいねエ!でも、キミの氷像ちゃん達もどうなっているのかな?」
へ?まだ動かしてもいないはず……。
「粉々だ……どうして?」
「オレがわざわざ正体がバレるまで待っているとオモウカ?」
「「これは予想外ぃぃいい!!!なんと雪まつりが心理戦となってしまったぁ!お互いに裏をかきあったお陰で双方の氷像は再起不能!!」」
今まで静かに試合の行き先を見守っていたギャラリーがざわめき出した。
確かに一試合目なのにもう氷像が壊れてしまった。もう肉弾戦しかない。
「アスチルベ。来るぞ。」
グラデウスの声がけと共にを爆風が起こった。
会場に積もった雪が巻き上げられ、視界が開けたのはその数秒後であった。その先にあったのはグラデウスとシヴァルが互いの拳を受け止めている光景だった。
「さっきの突風は、この衝撃だったってこと?」
グラデウスはともかく、シヴァルという男はいったい何者なのだろうか。
「やっぱり………ねぇお兄サン。アンタ、黒龍ダロ?」
「だったらどうする?」
「アッハッハ!オレの目に狂いはなかっタ!」
グラデウスに振りかぶっている拳をミシミシと押していく。
「オレの夢は伝説級の魔物と戦い、勝利するコト!是非、お相手願オウ!!!」
「面倒くさい。さっさと終わらせる。」
「そうはさせないヨ。_______ね。お嬢チャン?」
目があった瞬間、物凄い重い衝撃が腹にぶつかり、肺の空気が全て外へ吐き出された。
「っゲハ!!な、にすんだこnっ_____!」
唇に柔らかいものが触れる。
慣れない南国のような香りが鼻孔を擽る。知らないこの香り。
マスターの葉巻の匂いじゃないし、グラデウスの独特な香水の香りでもない。
「っ___んっ…い、やっ…!!」
必死に知らない人の胸板を押し返すけど、ますます力強く腰を抱かれる。
「……っへぇー?お嬢チャン結構慣れてる気がしてたんだケド、以外とウブ??」
「やめて!変態!!!」
思いっ切り腕に力を込めてシヴァルの頬を叩こうとしたが軽々と避けられる。
「予想外にカワイイから、たっちゃった。」
「は?たっちゃった?何が?」
「何がって……ナニが?」
ポク、ポク、ポク、チーン!という効果音が頭の中で自動再生。
「本当にさいってい!!」
避けながら微妙にこすりつけてくる変態野郎。イケメンだからってやっていい事と駄目な事はある。
「グラデウス!!助けて!!」
いつも通り助けてくれるグラデウスを召喚しようと叫ぶ。
「……あれ?グラデウス?」
可笑しいな。いつもなら直ぐに止めてくれる筈なのに。
グラデウスのいる方向に目を向けると、、、戸惑った表情をしてこちらを眺めていた。
「え?ちょ、グラデウス?」
「どれもう一回。」
「巫山戯っ…っん!」
グラデウスも、ギャラリーも、皆が静かになっている。
え、どういう状況?何これ?
そしてグラデウスはなんで戸惑ってるの??
誰か、説明してくれ。
To be continue⇨
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