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【 第五話: 列車事故 】
しおりを挟むそんなとある日曜日に、私は久しぶりに女友達と一泊旅行をすることになっていた。
夫を残して、私だけ旅行に行くのは、ちょっと気が引けたけど、夫は「行ってきなよ。羽を伸ばしておいで」と言ってくれた。
そんなやさしいことを言ってくれる夫を持って、私は本当に幸せ者だ。
ネイビーの小さなキャリーケースを玄関まで引いて行き、私は後ろにいる彼の方を振り向く。
「それじゃあ、行って来るね」
「ああ、ゆっくりしておいで」
私は、彼に近づくと、つま先をピンと伸ばして、彼の高さに合わせ、行ってきますの口づけをした。
「うふふっ」
私は自分の唇を少し噛んで、笑う。
「いってらっしゃい」
玄関のドアを閉める時、彼は微笑みながら、胸の前で私に小さく手を振った。
――私は、マンションを出て、キャリーケースを引きながら、駅へと向かう。
近くの駅で友達と待ち合わせ、電車を乗り継ぎ、今回の旅行先である金沢への特急電車を待っていた。
すると、旅行会社から一本の連絡が入る。
電話に出ると、私たちの乗るはずだった専用の特急列車が事故で到着しないという連絡だった。
そして、旅行会社からの提案で、今回の旅行はキャンセルにして、また後日振り替えますということだった。
私は仕方なく、また電車を乗り継いで、近くの駅まで戻る。
友達とカフェでお茶をした後別れ、そのままひとり自宅のマンションへ戻った。
ちょっと彼の驚いた顔を見たくて、自宅マンションの玄関を音を立てずに静かに入る。
すると、何故だか玄関に見慣れない女性ものの赤い靴があった。
変だなと思いつつも、静かにリビングのドアを開ける。
彼の姿は、そこにはなかった。
どこにいるのか。
私は恐る恐る彼の書斎を覗いてみた。
そこにも、彼の姿はない。
すると、隣の寝室のドアの向こう側から、聞き覚えのない女性の愛し合う声が聞こえてきた……。
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