小鳥さんが死んだから

星野 未来

文字の大きさ
上 下
6 / 11

【 第五話: 列車事故 】

しおりを挟む

 そんなとある日曜日に、私は久しぶりに女友達と一泊旅行をすることになっていた。

 夫を残して、私だけ旅行に行くのは、ちょっと気が引けたけど、夫は「行ってきなよ。羽を伸ばしておいで」と言ってくれた。
 そんなやさしいことを言ってくれる夫を持って、私は本当に幸せ者だ。

 ネイビーの小さなキャリーケースを玄関まで引いて行き、私は後ろにいる彼の方を振り向く。

「それじゃあ、行って来るね」
「ああ、ゆっくりしておいで」

 私は、彼に近づくと、つま先をピンと伸ばして、彼の高さに合わせ、行ってきますの口づけをした。

「うふふっ」

 私は自分の唇を少し噛んで、笑う。

「いってらっしゃい」

 玄関のドアを閉める時、彼は微笑みながら、胸の前で私に小さく手を振った。


 ――私は、マンションを出て、キャリーケースを引きながら、駅へと向かう。
 近くの駅で友達と待ち合わせ、電車を乗り継ぎ、今回の旅行先である金沢への特急電車を待っていた。

 すると、旅行会社から一本の連絡が入る。
 電話に出ると、私たちの乗るはずだった専用の特急列車が事故で到着しないという連絡だった。
 そして、旅行会社からの提案で、今回の旅行はキャンセルにして、また後日振り替えますということだった。

 私は仕方なく、また電車を乗り継いで、近くの駅まで戻る。
 友達とカフェでお茶をした後別れ、そのままひとり自宅のマンションへ戻った。

 ちょっと彼の驚いた顔を見たくて、自宅マンションの玄関を音を立てずに静かに入る。
 すると、何故だか玄関に見慣れない女性ものの赤い靴があった。

 変だなと思いつつも、静かにリビングのドアを開ける。
 彼の姿は、そこにはなかった。

 どこにいるのか。
 私は恐る恐る彼の書斎を覗いてみた。
 そこにも、彼の姿はない。

 すると、隣の寝室のドアの向こう側から、聞き覚えのない女性の愛し合う声が聞こえてきた……。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

7つの選択

星野 未来
ミステリー
 主人公の女性『美琴(みこと)』は、小さい頃からいくつもの大きな選択をしてきた。1つ目は、小学校6年生の時の選択。それが、彼女の大きな選択の歴史の始まりだった……。  両親が離婚することとなり、父か母、どちらへついて行きたいかの選択を美琴は迫られた。まだ小さかった美琴は、母には経済力がないことを知っていたため、生きて行くために『父』を選んだ。  ここから彼女の人生の分岐、選択の人生が始まった……。  そして、最後の選択をした時、父の代わりに隣にいた男性……。  切なく、辛い彼女の人生がそこにあった。  人生は選択の連続の上に成り立っている……。  これは、全て彼女の決めた道……、彼女が決めた選択だ……。

執着

流風
ホラー
職場内での女同士の嫌がらせ。 鈴音は遥香へ嫌がらせを繰り返した。ついには、遥香の彼氏までも奪ってしまったのだ。怒った遥香は、鈴音の彼氏を寝取る事を考える。 鈴音の彼氏に、 「浮気された者同士、一緒に復讐しましょう」 と提案するも、それは断られてしまった。 あっさり寝取られた自分の彼氏。寝取れなかった鈴音の彼氏。 鈴音の彼氏を奪う事に執着していく遥香。それは死後も続いてしまう。 R15は保険です。

月影の約束

藤原遊
ホラー
――出会ったのは、呪いに囚われた美しい青年。救いたいと願った先に待つのは、愛か、別離か―― 呪われた廃屋。そこは20年前、不気味な儀式が行われた末に、人々が姿を消したという場所。大学生の澪は、廃屋に隠された真実を探るため足を踏み入れる。そこで彼女が出会ったのは、儚げな美貌を持つ青年・陸。彼は、「ここから出て行け」と警告するが、澪はその悲しげな瞳に心を動かされる。 鏡の中に広がる異世界、繰り返される呪い、陸が抱える過去の傷……。澪は陸を救うため、呪いの核に立ち向かうことを決意する。しかし、呪いを解くためには大きな「代償」が必要だった。それは、澪自身の大切な記憶。 愛する人を救うために、自分との思い出を捨てる覚悟ができますか?

敗者の街 Ⅱ ― Open the present road ―

譚月遊生季
ホラー
※この作品は「敗者の街 ― Requiem to the past ―」の続編になります。 第一部はこちら。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/33242583/99233521 イギリスの記者オリーヴ・サンダースは、友人ロデリック・アンダーソンの著書「敗者の街」を読み、強い関心を示していた。 死後の世界とも呼べる「敗者の街」……そこに行けば、死別した恋人に会えるかもしれない。その欲求に応えるかのように、閉ざされていた扉は開かれる。だが、「敗者の街」に辿り着いた途端、オリーヴの亡き恋人に関する記憶はごっそりと抜け落ちてしまった。 新たに迷い込んだ生者や、外に出ようと目論む死者。あらゆる思惑が再び絡み合い、交錯する。 オリーヴは脱出を目指しながらも、渦巻く謀略に巻き込まれていく…… ──これは、進むべき「現在」を切り拓く物語。 《注意書き》 ※記号の後の全角空白は私が個人的にWeb媒体では苦手に感じるので、半角にしております。 ※過激な描写あり。特に心がしんどい時は読む際注意してください。 ※現実世界のあらゆる物事とは一切関係がありません。ちなみに、迂闊に真似をしたら呪われる可能性があります。 ※この作品には暴力的・差別的な表現も含まれますが、差別を助長・肯定するような意図は一切ございません。場合によっては復讐されるような行為だと念頭に置いて、言動にはどうか気をつけて……。 ※特殊性癖も一般的でない性的嗜好も盛りだくさんです。キャラクターそれぞれの生き方、それぞれの愛の形を尊重しています。

最悪 ー 絶望・恐怖短篇集

MAGI
ホラー
超常的な恐怖 日常に潜む絶望 人間の裏を垣間見る残虐性 幾数多のエピソードをひとまとめに。 絶望、恐怖、妄執、嫉妬、怨恨・・・ 人間の“負の感情”を纏め上げた短篇集。 ※筆者MAGIが実際に見た悪夢が大半となります。作話によっては、暴力・流血・残虐描写が盛り込まれております…

魂(たま)抜き地蔵

Hiroko
ホラー
遠い過去の記憶の中にある五体の地蔵。 暗く濡れた山の中、私はなぜ母親にそこに連れて行かれたのか。 このお話は私の考えたものですが、これは本当にある場所で、このお地蔵さまは実在します。写真はそのお地蔵さまです。あまりアップで見ない方がいいかもしれません。 短編ホラーです。 ああ、原稿用紙十枚くらいに収めるつもりだったのに……。 どんどん長くなってしまいました。

闇の記憶:お墓の恐怖と勇気

O.K
ホラー
若者太陽はお墓での生配信中、恐ろしい光景を目撃し、恐怖に支配される。彼の物語は広がり、彼の死後、都市伝説となる。後に、別の若者響が太陽の体験を学び、同じ墓地で生配信を試みる。響も恐怖に襲われるが、勇気を持って幽霊と向き合い、過去の過ちに立ち向かう決意を示す。響の行動によって、恐怖の雰囲気が晴れ、人々は勇気を持って闘い抜く重要性を学び、お墓に敬意を示すようになる。物語は、闇に潜む過去の秘密と向き合う勇気に焦点を当てている。

小さな王

ツヨシ
ホラー
人が消えて、船だけが流れ着いた

処理中です...