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【 第三話: 彼からの告白 】
しおりを挟むその日の夜。
場所は、彼の車の中――。
「雛子さん、僕と付き合ってもらえませんか?」
私は、家の前まで送ってくれた助手席で、誠一さんから視線を逸らし、窓の外をぼんやりと見つめている。
彼はシートベルトを外し、私の方を向きながら、真剣な表情のよう。
「何度断られてもいい。僕は、君に会う度、何度でも言うよ。僕の気持ちは、本気なんだ。君のその心の傷を僕が埋めてあげたいんだ。君をその暗闇の中から、救ってあげたい」
彼の言葉が心に染みた。
思わず瞳から涙が溢れ出し、頬を伝って落ちてゆく。
その頬を伝う涙を、彼はやさしく左手の親指でそっと拭ってくれた。
まだ怖さもあった。
彼の大きな指に、私の体がピクリと反応する。
ひとりになった12月の寒くなった頃、彼の指先だけが唯一温もりを感じた。
少し考えてから、俯きながら一言、「うん……」と言って頷いた。
また涙が溢れてくる。
彼は、私の助手席のシートベルトをゆっくり外して、体を寄せる。
すると、彼のモカブラウンの少し巻いた前髪が、俯いている私のオリーブベージュの前髪にそっと触れる。
顔を上げると、彼の微笑んでいるやさしい顔が、10cmほどのすぐ近くに見えた。
彼は右手をそっとやさしく私の左の腰辺りに触れて、もう一度左手の親指で、私の頬の涙をゆっくりと拭う。
彼の綺麗な瞳の中に、涙顔の私が見えた。
彼の顔が少しずつ斜めに近づくと、私はそっと両目を閉じた。
やがて、彼の唇と、私の唇は、ゆっくりと流れる時の中で、一つに重なったんだ。
潤いを失っていた私の唇は、彼の柔らかい唇と何度も触れ合いながら、再びしっとりとした艶を取り戻してゆく。
寒い12月の風が吹く中で、私たちふたりの乗るこの車の中だけは、温かな空気に包まれていた。
この日、私は初めて彼の大きな胸の中に抱かれたんだ……。
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