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【 もう一つの無償の愛 】

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「どうして、こんな自殺しようなんて思ったの?」

 彼は私の背中に手をやりながら、やさしく語りかける。

「私、日本にどうしても馴染めなくて……」

 こらえ切れなくなった涙が溢れ出し、右手で顔を覆った。

「そりゃあ、君の国に比べたらそうかもしれない。でも、日本にもいいところはいっぱいあるし、いい人もいっぱいいる」

 私は、その彼の言った言葉に『ハッ』とした。

「君みたいに美しい人が亡くなるなんて、僕は決して望まないよ」
「う、美しい……」

 顔の前を覆っていた右手が、自然と少し緩んだ……。

「ああ、君は綺麗だ。僕はそんな君が死ぬなんてことを見過ごすわけにはいかない」

「私の肌は、あなたほど白くないよ……」

 顔を少しだけ、彼の方へ向けた。

「何を言ってるんだ。肌の色なんて、そんなの関係ないよ。だから、死ぬなんて言わないで」

 私は、彼の言葉に一瞬、時が止まったように感じた。
 流れている涙も、その時だけは動きを止めているようだった。

 彼はやさしく、その頬の涙を親指で拭うと、温かな大きな手の平で、私の頬を包み込んでくれる。

「あ、ありがとう……」

 そう言いながら、頬を包み込む彼の手に、自分の手を重ね合わせた……。

「もう、死ぬなんて言わないでね」
「う、うん……」

 私は一度小さく頷くと、自然と彼の胸に吸い寄せられるように、ゆっくりと体を預けた。
 そして、彼の背中に腕を回して、彼の服をギュッと力強く握り締め、再び流れ出す涙を止めることが出来なかった……。


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