上 下
8 / 15

【 無償の愛 】

しおりを挟む

 それから、タマラは本当にワシに尽くしてくれたんじゃ。
 ワシは、いつの間にか、そんな献身的なタマラに恋をしておった。
 タマラも、ワシのことを好きになり始めていたと思う。

 数日後、ワシは何とか歩けるまでに回復しておった。
 あの不思議な塗り薬と葉っぱ、そして、タマラの献身的な介護によって、ワシの容態は見る見る良くなっていったんじゃ。

 ワシは、タマラの家族から献身的な無償むしょうの愛をもらった。
 タマラの家は貧しかったが、彼らは、決して対価を求めるためにやっている訳ではない。
 とても心が純粋で、何も代償など必要としていなかったんじゃ。

 ワシは何かこの家族に恩返しがしたかった。
 そこで、日本で学んだ農業をしようと土地を開拓し、農地を整えた。
 そして、そこで色々な野菜やお米などを育て、それを売って収入を得られるようになったんじゃ。

 すると、タマラ一家も徐々に貧困から抜け出していったんじゃ。

 それからしばらくし、日本では終戦を迎える。
 ワシは、助けてくれたタマラたちを見捨てて、祖国日本へ帰るなんてことは出来なかった。
 ここでワシは、タマラ家族を支えていく決心をしたんじゃ。

 タマラは、年齢を重ね、とても魅力的な女性に成長しておった。
 ワシは、そんなタマラを愛してしまったんじゃ。

「タマラ……、ユー、グッペラメリー。ミー、ライキム、ユー。(タマラ、君はとても素敵な女性だ。私は君を愛している)」
「オオ……、トオル。テンキュー、トゥルー。ミー、ライキム、ユー。(ああ、トオル。ありがとう。私もあなたを愛してる)」
「タマラ、ユー、タソール……。(タマラ、君だけだよ)」

 タマラは、ワシの胸で泣いていた……。
 そんなタマラを、ワシは強く抱きしめて、この女性を絶対に幸せにすると神に誓ったんじゃ。

 そして、ワシは、その後タマラと結婚をした。
 ワシは、今まで以上に働き、タマラ一家の大黒柱として一生懸命に彼らに尽くした。
 決して対価を求めない彼らに対し、ワシの中で、どうしても恩返しをする必要があったんじゃ。

 それから1年後、タマラとの間に、子供ができた。
 日本人のワシと、現地のタマラとの混血じゃ。
 でも、目に入れても痛くないくらい、本当にかわいらしい男の子が生まれたんじゃ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

虹ノ像

おくむらなをし
歴史・時代
明治中期、商家の娘トモと、大火で住処を失ったハルは出逢う。 おっちょこちょいなハルと、どこか冷めているトモは、次第に心を通わせていく。 ふたりの大切なひとときのお話。 ◇この物語はフィクションです。全21話、完結済み。

朱元璋

片山洋一
歴史・時代
明を建国した太祖洪武帝・朱元璋と、その妻・馬皇后の物語。 紅巾の乱から始まる動乱の中、朱元璋と馬皇后・鈴陶の波乱に満ちた物語。全二十話。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

家事と喧嘩は江戸の花、医者も歩けば棒に当たる。

水鳴諒
歴史・時代
叔父から漢方医学を学び、長崎で蘭方医学を身につけた柴崎椋之助は、江戸の七星堂で町医者の仕事を任せられる。その際、斗北藩家老の父が心配し、食事や身の回りの世話をする小者の伊八を寄越したのだが――?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

蘭癖高家

八島唯
歴史・時代
 一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。  遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。  時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。  大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを―― ※挿絵はAI作成です。

処理中です...