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9.魔の森で
しおりを挟むジルの背に乗り、ツヤツヤでふわっふわの毛並みを時間いっぱい楽しみつつ空を移動する事、僅か数分。
エリーゼとジルは目的地、魔の森の上空へと来ていた。
真面目な表情で地図と森を見比べ、場所を照らし合わせていくエリーゼ。
普通の冒険者なら目的地を見つけ、辿り着くまでで時間と気力を消費してしまう事だろう。
しかし、私にはジルがいる。
上空から覗き見る事が出来るならば、目的の場所を特定する難易度はぐっと簡単になるのだ。
「…この下が目的地点、よね?」
印されていた場所は魔の森の奥地の方。
余程の事がないと冒険者も立ち入らない場所だ。
この異常を発見した冒険者は、この辺りにしか咲かないクリーゼの花の採集へと来ていたらしい。
探し歩いてもう少し進もうとした所、進めなくなった上に気分が悪くなってパーティーの仲間に回復して貰ったのだと言う。
普通に上から見た感じだと普通の魔の森にしか見えない。
けれどそれは額面通り、“普通に見た”場合の話だ。
目に見えはしないけれど、この下からは確かに魔力の流れを感覚的に感じる事が出来た。
『エリーゼ様、これは…』
使い魔であるジルは魔力の扱いにとても長けている。
だから私よりも魔力の流れを正確に感じ取る事が可能なのである。
そんなジルはじっとそこから視線を離さずに、何かを確信した様子で呟く。
『…結界、ですね』
「やっぱり…そうなのね」
私も何となくではあったがそう感じていた。
入れない場所が出来たという情報、そして魔力の流れが直径約50メートル程のドーム状になっていたからである。
___けれど、
「……何日もこんな強固な結界を張れる魔物が居るってこと?」
『いえ、エリーゼ様。これを見て下さい』
「え?」
ジルが結界の膜へと更に近づくと、黒いモヤの様なモノが外側からびっしりと膜を覆い隠すかの様に存在していた。
「まさか、これって……呪い?」
実際触れているわけではないのに…この距離でさえ、とても嫌な気分になる。
こんなモノに長時間、蝕まれていたとしたら…心の内側から壊れていってしまいそうな程の妬み、憎しみ…そんな感情の集合体。
「…もしそうだとしたら、結界は…この呪いから身を守る為で。この呪いは人間によるものだとしたら…中に居るのは人間の可能性も?」
『はい。ですがこの呪いを先ずは解かなければいけませんね…』
この呪いを解く方法。
…うーん、私も解呪の魔法は使えるけれどさすがにこの規模は難しい。
何か良い案はないかと思考を巡らせているとある一つの解決策に辿り着く。
ジルの炎には何種類か種類があり、その中に呪いなどに対抗出来る聖属性の炎があるのだ。これを使わない手はない。
「…ねぇ、ジル。ジルの聖属性の炎でならこの呪いを燃やし消し去る事は可能よね?」
『はい、可能かと。ただいくら聖属性の炎と言っても木々が燃えないわけではないので…』
「それなら、私の氷魔法で木々の高さまで覆って森に燃え移るのを防ぐからジル、お願い出来る?」
『確かにエリーゼ様の魔力量ならば可能ですね…分かりました、その方法で行きましょう』
こくりと頷き了承してくれるジル。
ちなみに我がアクリエッタ家の人々は魔力の量が多く、もちろん私も例外なく魔力量には自信がある。
まぁ、魔力量が多ければ多い程、完璧に魔力を制御するのは困難を極めるけれど……って危ない危ない、つい幼い頃のスパルタレッスンの日々を思い出してしまっていた。
ぺちぺちと気を引き締める意味を込めて私は両頬を軽く叩くと、精神を研ぎ澄ませ集中する。
すると、空気中の温度がみるみると下がって行ったと思った瞬間、思い描いた通りの分厚い氷の壁が結界を囲う形で存在していたのである。
「ふぅ…、これなら氷の高さも厚さも問題なさそうね…」
『はい、さすがエリーゼ様…!無駄のない魔力操作でした!』
「ふふ、ありがとう。それじゃあ、ジル。頼んだわ」
『お任せ下さい…!』
ぐるぅ、と喉で一鳴きしたジルの口から白い炎が放たれると、あっという間に呪いを燃やし尽くして行く。
___やっぱり私のジルは最強で、最高の使い魔である。
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