ガラス、シリウス、沼の底〜ベテラン悪役女優は知らない乙女ゲームで道を探している〜

タケミヤタツミ

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花街編

44:隕石*

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泡風呂の水面に揺れていた甘い香りの真白はクリームを思わせる。
シャワーで流してあらかた消えてしまったが。
バスルームに霧が立ち込めて満ちる中、渦を描きながら排水口へ。

「あ……ふぁ、う、ンン……っ」

降り注ぐ湯に打たれながら互いに唇を貪り合うと、雨の中に居る錯覚。
息継ぎの合間から甘い声が漏れても水音で聴こえない。

不意にレピドが蛇口のハンドルを捻って止めた頃にはすっかりずぶ濡れ。
キスで痺れた頭に薔薇の香りは媚薬。
裸で抱き合っていたら隠し事一つ出来やしない。
先程からリヴィアンの腹に押し当たっている存在感。
"ここ"に入りたいと、凶暴な肉塊が脈打っている。


それでも頰に触れてくるレピドの手は相変わらず優しい。
額に張り付くレモンブロンドの前髪も上げてくれて、睨むような呆れるような目で溜息を吐く。

「リヴィ、あんま煽んな……チンポが馬鹿になるわ……」
「あらまぁ……胸で挟むのそんなに良かったですか」
「俺のこと好きじゃねぇクセにこんなことしてくるのは……何か、心が痛い」
「申し訳ありません……私の心は、奈落にありますので」

瞼を軽く落とした真っ暗な視線を返す。

我ながら酷いことをと思う。
もしくは、レピドにチャンスを与えているつもり。
踏み留まるなら今のうちだと。


しかしここに居るのもまた「魔獣」と呼ばれた男。
動じる様も見せずに正面からリヴィの言葉を受け止めてから、その冷えた態度を溶かそうと熱を与えてくる。

「全身甘いのな、リヴィ……堪んねぇ……」

そばかすの浮いた色白の素肌は湯上がりに染まって仄かな朱色。
流れ落ちる無数の水滴を舐め取られ、時折甘噛され、本当に食べられている気分。
バスルームは声が響く。
口を抑えようとしたリヴィアンの掌はレピドに剥がされて、指先に牙を立てられた。

至近距離に、初めて逢った時と同じ鋭い双眸。
こんなに綺麗なマゼンタだとは知らなかったけれど。


引っくり返され、後ろ向きでバスタブの縁に両手を着く格好。
髪を纏め上げて剥き出しになっているリヴィアンのうなじにキスを落としながら、レピドは掬い上げる形の大きな掌で重い乳房を揉みしだく。
リップ音と息遣いがまた淫ら。
そうして肩から背中、腰へと徐々に下がってくる。

訝しげに思っていると的中。
レピドの両手で尻を押し広げられ、蕾も花弁も露わ。
昨夜も見せたとはいえ流石に頰が熱くなる。


「レピド様……あの、これ、恥ずかしいです……」
「自分じゃ分かんねぇか……凄ぇエロい尻してんなぁ、お前」

欲情の色濃い声で囁かれ、ますます熱が上がる。
括れた腰に続く、剥き身の白桃に似た双丘。
丸く張りがありながら指が沈み込む柔らかさ。

「ひっ……や、あぁ……ッ」

突き出す形に腰を引かれて、片足を持ち上げられた。
まるで放尿する犬のような格好。
戸惑っている様がレピドの加虐心を滾らせてしまい、更に過激な行動。
そのまま背後から顔を埋められて、もう蜜で開いていた花弁に男の舌が這う。


こんなの羞恥を超えて、ほとんど屈辱に近い。
わざと音を立てて搔き混ぜられる蜜と唾液、バスルームにいやらしく響いて耳まで侵される。

脚が疲れてきても大きな手に掴まれていては碌に動けず、腰が逃げようとしても吸い付くように喰い付いてきて、却ってレピドが愉しそうな気配。
拒絶する意思は最初の絶頂に呑み込まれてしまった。


バスタブの縁に爪を立てても滑って耐えられない。
やがて花弁が泥々に蕩ける頃、膝から下は力が抜けてバスタブの底に残った泡塗れ。

「もう無理か、腰立たねぇ?」

指の根元まで濡らす蜜を舐め取り、レピドが嘲笑う。
発情しきったリヴィアンにこの声は毒。
被虐心で腹の奥が物欲しげに疼く。


最初レピドとしては本当に入浴するだけのつもりだったらしいが、もうベッドまで待てない。
花街のホテルは用意が良いことで避妊具もローションも洗面台の戸棚にあった。
あちらも準備を済ませると、花弁に屹立が擦り付けられる。

ただ、このままでは交わるに不都合。
リヴィアンがバスタブの縁に腰か膝を乗せる方法もあるが、もう身体が支えられない上に泡で滑るので危ない。


「後ろからガン突きしてぇ気分だけどよ、腰の高さ違うから無理だよなぁ……んじゃまぁ、こうか」

独り言の意味を考える間も無くリヴィアンが小さく悲鳴を上げる。
ベッドから運ばれたのと同じ要領で、再び身体が浮く。

「ふぁ……ッ、や、あ、あぁ……っ」

竜の腕が膝裏に回されて、後ろから抱き上げられた状態で繋がったまま揺さぶられる。
意思を無視して無慈悲に上下する、宙に浮いた爪先つまさき

リヴィアンの体重を支えているのは脚だけでない。
下腹部に深々と突き刺さった肉塊の杭。
大人と子供のような体格の違いでもやはり受け入れ可能。
またも隙間無く奥まで圧迫されて、腰を突き上げられては蜜が零れ落ちる。


「……ほらリヴィ、鏡見てみろ」

耳元の低い声に促されて顔を上げた。
霧の晴れてきたバスルームの鏡は現実を映す。
大きく足を開いて雄を咥え込み、涎を垂らす雌の表情。
恥ずかしいことばかりされてきたので半ば麻痺していたが、今度こそ動揺してしまった。

けれど、これはきっと気付かれない。
負担を物ともせず意地悪に笑うレピドに見惚れたこと。





二度目のシャワーに打たれながら、揃って座り込んだバスタブの中。
大きな身体に抱き着くと安心感で包まれる。
今度こそ情欲を洗い流して、穏やかな疲労が心地良い。

ふと見ればレピドの頬に雫が伝う瞬間。
滴ってしまうのは何となく勿体なくて、伸ばした舌先で受け止めた。
そういえば情交の時、身体を舐められながら「甘い」と言われたことを思い出す。

「ん……レピド様も甘いですね」

染み付いた薔薇の香りは華やか。
そう呟くリヴィアンに対し、レピドといえば苦々しく顔を顰めた。


「あー……俺ばっかり惚れてんの、本当にキツい……」
「レピド様のことは良い男だと思ってますけど」

目元の鋭い精悍な顔立ちとピアスだらけの耳、筋骨隆々とした身体に立派な刺青の巨漢。
そんな彼が小娘一人のことで落ち込んでいるなんて、おかしな図。

昨日までとは完全に変わってしまった関係。
一晩きりでも良かったのに。
好意を持たれているとは知らず、あんな誘い方をしたのは無神経だったかもしれないが今更。
そうでなければ縁を結ぶことはなかったかもしれないし、お互いに大人。

さて、そろそろ正直になろうか。


「ハッキリ言やぁ、確かにお前のことは得体の知れない女だと思ってる。今も何考えてるか分かんねぇし」
「まぁ、沼みたいな目とか言われましたしね……」

別に、そう言われても腹など立たず。
最初からリヴィアンを魔物だと知っていた上で口説いただろうに。
自覚もあれば、それが悪役としての誇り。

そしてレピドの言葉はまだ終わらず、続きがあった。


「そうだな……だから、俺は沼の底まで知りたい。
お前の心が奈落にあっても、こうやって抱き合ってたら見えるかもしんねぇから腕掴んで引き上げてやる」

不敵な表情でまた格好良いことを。


ああ、やはり、レピドは舞台の中心に立つ素質がある。
堂々とした振る舞いで人を惹き付ける星。
世界が違えば主人公にすらなれたかもしれない。

奈落の住人はかつての古い星々。
同じ輝きで並び立てない。

光がその目に届く頃には、もう星そのものは消滅した後。

今の"私"は舞台下へ墜ちた欠片。
知っても尚、こちらに手を伸ばそうとするのか。
その砕けた残骸すら欲しがるというのならば。


「……私は、あなたのこと穢し尽くしたいわ」

決してヒロインが吐かない台詞を返した。
ここに居るのは悪役であり、そして対する彼もまたそちら側。


そもそもの話、レピドがリヴィアンに興味を持ったのは魔物の本性を晒した仄暗い笑みだという。
簡単に手折られる花でなく、棘や毒のある花でいなければきっと退屈。

経験豊富で技巧にも長けて、荒っぽいようで優しい男。
きっと初心なヒロインなら身を任せるのだろうが、すぐ終わってしまう恋。
裏社会は危険だからと安全なところに遠ざけようとしたり、殺伐とした日常に癒しを求める役割だったり、無垢な女じゃレピドのつがいは務まらない。

悪女のままで居てほしいならお望み通り。
駆け引きの果てになら、素顔を見せても良い。

沼だという通り魔物の欲望は底無し。
レピドなら満たしてくれるかもしれないけれど、それよりも。


「レピド様も経験積んだ大人みたいですから、安心して私も欲望ぶつけさせてもらいますね……
もっと悪いことも気持ち良いことも教えてあげますし、沢山愉しいことしましょうか」

あの時のように、微笑むリヴィアンの双眸はブリリアントカットのスモーキークォーツ。

これこそがレピドの焦がれたもの。
顎を掴んででも自分に向けてほしいと求めていた。
俄にあちらも艶めいた表情、色付いた嘆息が一つ落ちる。

魔獣じみた欲望と人としての理性で揺れる様は愛らしかった。
溺愛なんて望まないのだ、むしろこちらが可愛がってあげたいとすら。


それでは賭けをしましょう。
こちらが引き上げられるのか、あちらが溺れるのか。
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