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花街編
43:泡
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欲求不満の時、不可抗力で淫夢を見てしまうというのはよくある話。
それならこれは何なのだろうか。
人並みに自慰はしてきたので発散なら出来ていた筈なのに。
別れてから行為に及んだのはレピドが初めてとはいえ、今日だってあれだけ滅茶苦茶にされたのに。
「そりゃ……リヴィ先輩、ちゃんと愉しめてなかったからなんよ」
床に引き倒された半裸のリヴィアンを見下ろしながら、ロキが冷めた声で告げる。
事実、そうかもしれない。
壮絶ではあったが快楽なのか苦しさなのかよく分からないまま何度も意識を飛ばしてしまったので、却って感じる余裕が無かった。
この夢はあの時の再演。
剥き出しの屹立が花弁に突き付けられて水音が一つ。
今度も抵抗出来ないまま犯される。
半年間重ねてきた情交の記憶は消えず、馴染む感覚には抗えない。
侵入してくる形も突き方も現実感を伴って身体に刻まれた快楽が蘇る。
それこそ熱から匂いまで鮮やかに。
「……ねぇ、僕の方が気持ち良いって言いなね」
薄闇に鈍く光る銀髪と妖艶な濃藍の目。
幼さ故に加減も知らず、牙を立てる時の表情が好きだった。
確かに愛していた、大切にしていた頃の亡霊。
だからこそ別れ際に堪えた涙がここでは止められない。
いっそ本物のロキだったら本音なんて見せず大人ぶれたのに。
女優ならば取り繕うこと偽ることには長けており、外的要因には強い。
しかしこれは内側から蝕んでくるもの。
眠りによって浮き上がってきた、沈んでいた痛み。
そうして散々苦しめられても達することは出来ない。
夢から醒める直前、耳朶を噛んで「またね」と言い残された。
カーテンの向こうにはもう太陽が照っているようで、閉め切った部屋にも朝が来ている。
リヴィアンが瞼を開けた時は俯せ状態。
泣いていたことは現実、頬から枕が濡れていた。
レピドに抱き潰されて、好意を示され、曲がりなりにも付き合うことになった筈なのだが。
そんな初夜が明けたというのに目覚めが悪過ぎる。
夢の中では声が出ないが、果たして現実ではどうだか。
寝言でロキの名前を呼んだりしていたら気まずいにも程があった。
目を擦った時、スプリングがゆっくり軋んで感傷は一時停止。
反射的に目を向けてみれば、丁度ベッドから抜け出ようとしていたレピドの所為。
ホテルに備え付けのナイトガウンも羽織らず、分厚くて広い背中を無防備に晒していた。
「悪ィ、起こしたか……」
「いえ……おはようございます」
挨拶の後に少し考え込むような無言、赤い目のリヴィアンを一人きりで置いていくのは気が咎めたらしい。
こちらの目を塞ぐような、涙を拭うような形で添えられたレピドの手。
大きな影が近付くと再びスプリングが軋んだ。
目隠しが外された時にはすぐ隣。
同じく俯せでレピドがリヴィアンの顔を覗き込む。
「苦しそうな顔で眠るんだな、お前」
今はこのマゼンタの目が直視出来ずにいた。
裸なのはお互い様として、ただでさえ髪も乱れて化粧も落ちてしまっているのだから。
それは言い訳、本当の理由など訊かないでほしい。
「違ったら悪ィんだが……リヴィ、前の男まだ引き摺ってんだろ」
居心地の悪さに小さく身動ぎしていると、レピドの言葉に胸を刺された。
動揺を隠しつつリヴィアンは静かに深呼吸。
やはりロキの名を呼んだりしていたのだろうか。
そう思っても、ここで馬鹿正直に言ってしまうのは墓穴を掘る間抜け。
とりあえず黙ったままで出方を待つ。
「色恋沙汰で学園を離れたってのは聞いてたし……
お前が誘ってきた時、ああこれ自傷代わりとか上書きしたくて言ってんなぁ……とは思った。
花街にそういう奴は沢山居て、俺は見てきたから」
昨夜の「優しくしたかった」という本当の意味。
元々そういう触れ方をする男だったのかもしれないが。
しかし結局はリヴィアンの方が苛立ちを見せて、レピドもまた盛ってしまった。
それで良い、気遣いなど要らないと何度も言ったのだ。
「……そこまで分かっている上で乗ったんですか」
もう降参、認めざるを得ない。
こんなのレピドを利用しようとしただけなのに。
「放っておいたら適当な奴とヤッちまいそうだったから、その前に付け込んででも俺のこと見て欲しかったんだよ……
とりあえず興味持ってくれるのは後でも良いから」
「惚れさせる」とまで宣言しただけあって、飽くまでも好意は真っ直ぐ伝えてくる。
照れもせずに余裕すらある笑みのまま。
リヴィアンの欲望も傷心も丸ごと受け入れようとは、やはり度量が広いことで。
まだ胸の奥にはロキの存在が刺さったまま。
とはいえ確かに、もうレピドは懐に入り込みかけていた。
私は魔物、奈落の魔物、全てを許すつもりなど無いが。
それに、呑まれてしまうのはやはり性に合わない。
今度こそ感傷はここまでにしておこうか。
「……慰めてくれるつもりなら、もう一度します?」
腕を伸ばして、シーツに伏せたレピドの下腹部に指先を滑り込ませた。
先程リヴィアンに目隠ししたのも俯せになったのも、生硬い雄の部分を見せない為と知っている。
乙女ではありませんので。
何しろ起き抜けの上、こうして素肌を晒したままでは生理現象くらい自然なこと。
欲望など全て吐き出したような夜が明けても巨漢のレピドは体力も桁外れ、回復も早い。
「だから見られないうちに風呂行こうとしたら、リヴィが起きちまったんだよ……」
「あらまぁ……でも、オムツ穿いてる赤ちゃんでもなりますし」
情交の時は獰猛でも、そういう空気でない時には格好が付かない。
腰が逃げようとするので指先で摘んでみせた。
流石にレピドも顔を顰めて、今度は恥ずかしげになる。
「何だったら、お口でご奉仕して毎朝起こしましょうか……情婦らしく」
「お前、変な官能小説とか読んでんだろ……」
そこは否定しないでおいた。
口許だけで笑って、そろそろ戯れ合いは終わり。
そういえば、風呂と言っていたか。
お互い汗を始めとして体液を流した後なのだ、確かに粘着きや匂いが全身に染み込んでいる気がする。
リヴィアンも賛成して一緒に入ることを提案したら、言うが早いかベッドから急に身体が浮く。
先程の仕返しのつもりか、黒い竜が巻き付くレピドの腕に抱き上げられた所為。
「いや、私、重いので……」
「全盛期には体重三桁近かった俺にそれ言うか?」
舐めるなとばかりに余裕で笑い飛ばされる。
背中と膝裏に竜の腕が回され、宙ぶらりの爪先が心許ない。
遠慮して降りようとするのも危ないので大人しく運ばれることにした。
数歩先、ドアを開けたら到着。
ここは1900年代初頭のヨーロッパを模した乙女ゲーム。
その割に水場の清潔感などは現代日本並みであり、確かに作り物の世界だと感じてしまう。
この国では泡風呂で全身を洗って、最後に湯で流すスタイルの入浴法がメイン。
バスルームはタイル張りの空間に猫足バスタブとシャワー、洗面所。
良いホテルだけに比較的広く造られている筈なのだが、巨漢のレピドと入るにはどうしても狭い。
寝癖で乱れていたレモンブロンドは手櫛で直し、無造作に一纏め。
リヴィアンが備え付けのボトルを傾けてバスタブの縁に腰掛けて湯が溜まるのを待つ間、レピドは一人で鏡と睨み合い。
そういえば抱き上げられて顔を寄せ合った時、ちくちくしているとは思ったのだ。
泡立てた白い頰、器用に剃刀の刃を滑らせて髭を剃っている。
貴族なら身の回りの世話なんて執事に任せるものだろうに、なるべく自分のことは自分でやりたいからと変わり者の返答。
それにしても明るい場所ではお互い新たな発見。
昨夜は竜の刺青にばかり気を取られたが、裏社会の人間だけに男の全身には大小の傷跡。
傍目には痛々しくも勲章として刻まれていた。
魔法使いとは決して万能でなく、この身体つきと裏腹にレピドは精神操作系。
側近のサポートがあっても荒事の際には体を張ることになる。
そうして顔を洗って泡を流し、濡れた黒髪を上げるとまた艶っぽい。
適当に雫を拭うとリヴィアンと一緒に溜まってきた湯の中へ腰を下ろした。
リヴィアン一人なら脚が伸ばせる広さのバスタブ。
レピドが入る場合、どうしても膝を立てねばいけない。
その腿を背もたれにする形で収まった。
まだ浅いが、二人分の体積で泡が胸元まで隠れる。
バスルームに豪奢な薔薇の香りが咲いて、鼻先が何となくくすぐったい。
「頬柔らけぇな」
不意に大きな手が伸びて、柔らかく指先に摘まれた。
子供扱いかと思いきやレピドが溜息一つ。
「お前、まだ18だもんなぁ……」
リヴィアンも成人しているので問題は無いが、罪悪感で苛まれているらしい。
深い仲になって早々、無茶をさせたので余計に。
日頃から雰囲気や立ち振舞いが大人びているリヴィアンが昨夜は目一杯の背伸びで装い、ベッドでは蕩けるように淫らになった。
しかし本来は癖っ毛のレモンブロンドにそばかすの浮いたベビーフェイス。
明るいバスルームでこうして見ればエプロンドレスの方が似合うあどけない少女である。
対するレピドは二十代半ば。
ああ、ロキとは10歳も違う訳か。
そんなことより、やはりどうしても気になる点。
湯の中でリヴィアンが手を動かすと、レピドが小さく反応した。
ずっと押し当たっている存在感。
「まぁ、レピド様もお若いですよ……治まりませんし」
「あー、駄目だ……抱き心地が良すぎる……」
腰や足首は括れていても、筋肉の張りの上に適度な脂肪がついたリヴィアンの身体は吸い付くように柔らか。
滑らかな泡風呂の中なら尚更。
レピドの膝に抱かれているので密着せざるを得ない。
だからこそ男としては悩ましいところか。
ベッドでリヴィアンが問い掛けた「もう一度するか」は聞かない振りをされた。
レピドとしては今日こそ優しくしたいらしいが、身体に残っているのは疲労より余韻が勝っているくらいなので別に大丈夫なのに。
それでは、こちらから仕掛けるか。
「そっち座ってもらえますか?」
「ん?あぁ、悪ィ、やっぱり狭いよな……」
バスタブの縁に座るよう促してみると、訝しげながらもレピドは従った。
泡塗れの屹立が丸見えになるので居心地の悪そうな顔ながら。
そこからリヴィアンが両膝を掴んで開いたら動揺の気配がしたが、それだけでは終わらない。
大きめの林檎二つ分ほどある柔らかな乳房を寄せて、正面から谷間に屹立を埋め込んだ。
かなりの大きさなので流石に縦全部は無理だが、横幅はすっぽり包めてしまう。
「レピド様……こういうの、したことあります?」
薄っすらと笑う表情と声には息を呑むような艶。
ここに居るのはもう少女でなく、魔物。
泡だらけの乳房に挟まれると極上の滑らかさと柔らかさ。
そのまま揺らすと白い半球体が重みを伴って弾み、バスルームの灯りに照らされて艶々といやらしい。
リヴィアンの眼前には谷間から突き出た切っ先。
舐めてあげたいところだが、泡は不味いか。
それならばと濃桃の舌だけ伸ばして唾液を垂らした。
滴りが点々と落ちて、独りでに震えている様が何だか可愛らしい。
「リヴィ……おい、悪戯も大概にしろ……っ」
これは感触と視覚にあまりにも毒。
レピドも戸惑いから欲情にスイッチが切り替わる。
それならこれは何なのだろうか。
人並みに自慰はしてきたので発散なら出来ていた筈なのに。
別れてから行為に及んだのはレピドが初めてとはいえ、今日だってあれだけ滅茶苦茶にされたのに。
「そりゃ……リヴィ先輩、ちゃんと愉しめてなかったからなんよ」
床に引き倒された半裸のリヴィアンを見下ろしながら、ロキが冷めた声で告げる。
事実、そうかもしれない。
壮絶ではあったが快楽なのか苦しさなのかよく分からないまま何度も意識を飛ばしてしまったので、却って感じる余裕が無かった。
この夢はあの時の再演。
剥き出しの屹立が花弁に突き付けられて水音が一つ。
今度も抵抗出来ないまま犯される。
半年間重ねてきた情交の記憶は消えず、馴染む感覚には抗えない。
侵入してくる形も突き方も現実感を伴って身体に刻まれた快楽が蘇る。
それこそ熱から匂いまで鮮やかに。
「……ねぇ、僕の方が気持ち良いって言いなね」
薄闇に鈍く光る銀髪と妖艶な濃藍の目。
幼さ故に加減も知らず、牙を立てる時の表情が好きだった。
確かに愛していた、大切にしていた頃の亡霊。
だからこそ別れ際に堪えた涙がここでは止められない。
いっそ本物のロキだったら本音なんて見せず大人ぶれたのに。
女優ならば取り繕うこと偽ることには長けており、外的要因には強い。
しかしこれは内側から蝕んでくるもの。
眠りによって浮き上がってきた、沈んでいた痛み。
そうして散々苦しめられても達することは出来ない。
夢から醒める直前、耳朶を噛んで「またね」と言い残された。
カーテンの向こうにはもう太陽が照っているようで、閉め切った部屋にも朝が来ている。
リヴィアンが瞼を開けた時は俯せ状態。
泣いていたことは現実、頬から枕が濡れていた。
レピドに抱き潰されて、好意を示され、曲がりなりにも付き合うことになった筈なのだが。
そんな初夜が明けたというのに目覚めが悪過ぎる。
夢の中では声が出ないが、果たして現実ではどうだか。
寝言でロキの名前を呼んだりしていたら気まずいにも程があった。
目を擦った時、スプリングがゆっくり軋んで感傷は一時停止。
反射的に目を向けてみれば、丁度ベッドから抜け出ようとしていたレピドの所為。
ホテルに備え付けのナイトガウンも羽織らず、分厚くて広い背中を無防備に晒していた。
「悪ィ、起こしたか……」
「いえ……おはようございます」
挨拶の後に少し考え込むような無言、赤い目のリヴィアンを一人きりで置いていくのは気が咎めたらしい。
こちらの目を塞ぐような、涙を拭うような形で添えられたレピドの手。
大きな影が近付くと再びスプリングが軋んだ。
目隠しが外された時にはすぐ隣。
同じく俯せでレピドがリヴィアンの顔を覗き込む。
「苦しそうな顔で眠るんだな、お前」
今はこのマゼンタの目が直視出来ずにいた。
裸なのはお互い様として、ただでさえ髪も乱れて化粧も落ちてしまっているのだから。
それは言い訳、本当の理由など訊かないでほしい。
「違ったら悪ィんだが……リヴィ、前の男まだ引き摺ってんだろ」
居心地の悪さに小さく身動ぎしていると、レピドの言葉に胸を刺された。
動揺を隠しつつリヴィアンは静かに深呼吸。
やはりロキの名を呼んだりしていたのだろうか。
そう思っても、ここで馬鹿正直に言ってしまうのは墓穴を掘る間抜け。
とりあえず黙ったままで出方を待つ。
「色恋沙汰で学園を離れたってのは聞いてたし……
お前が誘ってきた時、ああこれ自傷代わりとか上書きしたくて言ってんなぁ……とは思った。
花街にそういう奴は沢山居て、俺は見てきたから」
昨夜の「優しくしたかった」という本当の意味。
元々そういう触れ方をする男だったのかもしれないが。
しかし結局はリヴィアンの方が苛立ちを見せて、レピドもまた盛ってしまった。
それで良い、気遣いなど要らないと何度も言ったのだ。
「……そこまで分かっている上で乗ったんですか」
もう降参、認めざるを得ない。
こんなのレピドを利用しようとしただけなのに。
「放っておいたら適当な奴とヤッちまいそうだったから、その前に付け込んででも俺のこと見て欲しかったんだよ……
とりあえず興味持ってくれるのは後でも良いから」
「惚れさせる」とまで宣言しただけあって、飽くまでも好意は真っ直ぐ伝えてくる。
照れもせずに余裕すらある笑みのまま。
リヴィアンの欲望も傷心も丸ごと受け入れようとは、やはり度量が広いことで。
まだ胸の奥にはロキの存在が刺さったまま。
とはいえ確かに、もうレピドは懐に入り込みかけていた。
私は魔物、奈落の魔物、全てを許すつもりなど無いが。
それに、呑まれてしまうのはやはり性に合わない。
今度こそ感傷はここまでにしておこうか。
「……慰めてくれるつもりなら、もう一度します?」
腕を伸ばして、シーツに伏せたレピドの下腹部に指先を滑り込ませた。
先程リヴィアンに目隠ししたのも俯せになったのも、生硬い雄の部分を見せない為と知っている。
乙女ではありませんので。
何しろ起き抜けの上、こうして素肌を晒したままでは生理現象くらい自然なこと。
欲望など全て吐き出したような夜が明けても巨漢のレピドは体力も桁外れ、回復も早い。
「だから見られないうちに風呂行こうとしたら、リヴィが起きちまったんだよ……」
「あらまぁ……でも、オムツ穿いてる赤ちゃんでもなりますし」
情交の時は獰猛でも、そういう空気でない時には格好が付かない。
腰が逃げようとするので指先で摘んでみせた。
流石にレピドも顔を顰めて、今度は恥ずかしげになる。
「何だったら、お口でご奉仕して毎朝起こしましょうか……情婦らしく」
「お前、変な官能小説とか読んでんだろ……」
そこは否定しないでおいた。
口許だけで笑って、そろそろ戯れ合いは終わり。
そういえば、風呂と言っていたか。
お互い汗を始めとして体液を流した後なのだ、確かに粘着きや匂いが全身に染み込んでいる気がする。
リヴィアンも賛成して一緒に入ることを提案したら、言うが早いかベッドから急に身体が浮く。
先程の仕返しのつもりか、黒い竜が巻き付くレピドの腕に抱き上げられた所為。
「いや、私、重いので……」
「全盛期には体重三桁近かった俺にそれ言うか?」
舐めるなとばかりに余裕で笑い飛ばされる。
背中と膝裏に竜の腕が回され、宙ぶらりの爪先が心許ない。
遠慮して降りようとするのも危ないので大人しく運ばれることにした。
数歩先、ドアを開けたら到着。
ここは1900年代初頭のヨーロッパを模した乙女ゲーム。
その割に水場の清潔感などは現代日本並みであり、確かに作り物の世界だと感じてしまう。
この国では泡風呂で全身を洗って、最後に湯で流すスタイルの入浴法がメイン。
バスルームはタイル張りの空間に猫足バスタブとシャワー、洗面所。
良いホテルだけに比較的広く造られている筈なのだが、巨漢のレピドと入るにはどうしても狭い。
寝癖で乱れていたレモンブロンドは手櫛で直し、無造作に一纏め。
リヴィアンが備え付けのボトルを傾けてバスタブの縁に腰掛けて湯が溜まるのを待つ間、レピドは一人で鏡と睨み合い。
そういえば抱き上げられて顔を寄せ合った時、ちくちくしているとは思ったのだ。
泡立てた白い頰、器用に剃刀の刃を滑らせて髭を剃っている。
貴族なら身の回りの世話なんて執事に任せるものだろうに、なるべく自分のことは自分でやりたいからと変わり者の返答。
それにしても明るい場所ではお互い新たな発見。
昨夜は竜の刺青にばかり気を取られたが、裏社会の人間だけに男の全身には大小の傷跡。
傍目には痛々しくも勲章として刻まれていた。
魔法使いとは決して万能でなく、この身体つきと裏腹にレピドは精神操作系。
側近のサポートがあっても荒事の際には体を張ることになる。
そうして顔を洗って泡を流し、濡れた黒髪を上げるとまた艶っぽい。
適当に雫を拭うとリヴィアンと一緒に溜まってきた湯の中へ腰を下ろした。
リヴィアン一人なら脚が伸ばせる広さのバスタブ。
レピドが入る場合、どうしても膝を立てねばいけない。
その腿を背もたれにする形で収まった。
まだ浅いが、二人分の体積で泡が胸元まで隠れる。
バスルームに豪奢な薔薇の香りが咲いて、鼻先が何となくくすぐったい。
「頬柔らけぇな」
不意に大きな手が伸びて、柔らかく指先に摘まれた。
子供扱いかと思いきやレピドが溜息一つ。
「お前、まだ18だもんなぁ……」
リヴィアンも成人しているので問題は無いが、罪悪感で苛まれているらしい。
深い仲になって早々、無茶をさせたので余計に。
日頃から雰囲気や立ち振舞いが大人びているリヴィアンが昨夜は目一杯の背伸びで装い、ベッドでは蕩けるように淫らになった。
しかし本来は癖っ毛のレモンブロンドにそばかすの浮いたベビーフェイス。
明るいバスルームでこうして見ればエプロンドレスの方が似合うあどけない少女である。
対するレピドは二十代半ば。
ああ、ロキとは10歳も違う訳か。
そんなことより、やはりどうしても気になる点。
湯の中でリヴィアンが手を動かすと、レピドが小さく反応した。
ずっと押し当たっている存在感。
「まぁ、レピド様もお若いですよ……治まりませんし」
「あー、駄目だ……抱き心地が良すぎる……」
腰や足首は括れていても、筋肉の張りの上に適度な脂肪がついたリヴィアンの身体は吸い付くように柔らか。
滑らかな泡風呂の中なら尚更。
レピドの膝に抱かれているので密着せざるを得ない。
だからこそ男としては悩ましいところか。
ベッドでリヴィアンが問い掛けた「もう一度するか」は聞かない振りをされた。
レピドとしては今日こそ優しくしたいらしいが、身体に残っているのは疲労より余韻が勝っているくらいなので別に大丈夫なのに。
それでは、こちらから仕掛けるか。
「そっち座ってもらえますか?」
「ん?あぁ、悪ィ、やっぱり狭いよな……」
バスタブの縁に座るよう促してみると、訝しげながらもレピドは従った。
泡塗れの屹立が丸見えになるので居心地の悪そうな顔ながら。
そこからリヴィアンが両膝を掴んで開いたら動揺の気配がしたが、それだけでは終わらない。
大きめの林檎二つ分ほどある柔らかな乳房を寄せて、正面から谷間に屹立を埋め込んだ。
かなりの大きさなので流石に縦全部は無理だが、横幅はすっぽり包めてしまう。
「レピド様……こういうの、したことあります?」
薄っすらと笑う表情と声には息を呑むような艶。
ここに居るのはもう少女でなく、魔物。
泡だらけの乳房に挟まれると極上の滑らかさと柔らかさ。
そのまま揺らすと白い半球体が重みを伴って弾み、バスルームの灯りに照らされて艶々といやらしい。
リヴィアンの眼前には谷間から突き出た切っ先。
舐めてあげたいところだが、泡は不味いか。
それならばと濃桃の舌だけ伸ばして唾液を垂らした。
滴りが点々と落ちて、独りでに震えている様が何だか可愛らしい。
「リヴィ……おい、悪戯も大概にしろ……っ」
これは感触と視覚にあまりにも毒。
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