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学園編

25:夜這*

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室内のリヴィアンとベランダのロキを隔てている物はガラス一枚のみ。
鍵を外して開けば、来客は呆気なく境界を踏み越えてきた。
昼よりも夜にこそ銀髪は更に美しくなる。
テーブルサイドで点けっぱなしのランプが妖精じみた小綺麗な顔に影を落とし、微笑に仄かな空恐ろしさを混ぜて。


リヴィアンと同じく、ロキも寝間着の軽装にスリッパを突っ掛けた足。
当然の話、この格好で三階まで登って来るのは物理的に不可能。

魔法で移動してきたことだけは確かであり、まだロキからは薄っすら魔力の名残。
例えるなら火が消えた後の淡い煙に似ていた。
一般人には分からずとも、この世界の定義によれば魔女であるリヴィアンの目には捉えられる。

「恥ずかしい」という言葉に従ってカーテンを開けず待っているので、ロキが魔法を使っているところ自体は一度たりとも見ていないが。

窓に面した方向には学園で育てている畑や花壇が広がるだけの裏庭。
その向こうに高い壁、薮と川を隔ててから最寄りの街が見える。
なのでこちら側だけなら目撃者の心配も少ないとはいえ、誰にも気付かれずここまで毎回どうやって来たのだろうか。
様々な魔法のパターンを考えてみているが、実際には一体どんな能力なのやら。


「というか、こんなことに魔法なんて使うもんじゃないわよ……」
「えっ、リヴィ先輩から呼んだんに」
「お仕置きされたいなら、って言ったのよ私」
「あぁ、そうだったんねぇ……」

正確にはリヴィアンが呼び出したのでなく、ロキは好き好んで叱られに来た訳だ。
素っ気なく指摘されて、改めて恥じらう仕草。


ピアノの鍵盤を叩くように少年の首筋に触れてみると、声を立てずに息が乱れた。
滑り落とした指先で寝間着のボタンを一つ二つ外せば平たい裸の胸。
更にその下、加速する心音が響く。

ここまでならまだ子供の着替えを手伝うようなもの、もしくは恋人らしい戯れ合い。

不意のこと、甘い空気は色を変えた。
リヴィアンの手で完全に開いたシャツは床に捨てられたりせず、そのままロキの後ろ手に絡める。
長袖は手首を縛ることに最適。


「あっ、ちょっ、リヴィ先輩……?」

それだけでは終わらず寝間着も下着も纏めて引っ張り、ゴムのウエストはすぐ膝辺りまで落ちる。
手足に布が絡み付いたままでは、故意でなくとも少し動くだけで足が縺れて倒れてしまう。

今のロキは上半身のみがベッドの縁に俯せ状態。

もう反応が始まっている下腹部を始め、ほとんど剥き出しになった少年の身体。
流石に戸惑い、恥ずかしげながらも無抵抗。
それどころか期待の光が濃藍の目に揺れている。
何をされるのかという興奮が滲む。


小振りな尻を差し出す形なので、お仕置きらしく叩くならお誂え向き。
今ならどんな命令でも従うし、何をされても許すだろう。
しかし、悦ばせるだけでも駄目。

幾ら罰だとしても禁止行為をするつもりは無いが。
ロキの場合、息苦しいことと性器を舐められることはリヴィアン相手でも嫌がる。
そこは守らねば信頼が揺らいでしまう。

だったら。


「ロキ君は寝てるだけで良いわよ」

ベッドに上半身だけ倒れたロキの背後。
屈んで密着しながら、リヴィアンが吐息混じりに耳元へ囁く。

こうして乳房が背に乗れば流石に彼も気付いたか。
薄手のシャツ一枚越しの感触、ビスチェを外した膨らみは柔らかさが全く違う。
身体を起こして密やかに衣擦れの音。
こちらも寝間着の下をショーツごと脱ぎ捨てた。

「私の好きにやるから」


肘を中心に布が絡まっているので、手首だけ出ている状態。
強く縛り過ぎて痛んだり、血流が悪くなっているということも無い。
強引に捻ったりしなければ大丈夫か。

リヴィアンが顔を寄せ、ロキの指先にキス一つ。
それを合図に舌を伸ばして舐め始める。

小柄で華奢な少年に見えても手はもう一丁前の男。
骨張った細い指、血管が浮いた甲。
根本まで咥え込みながら甘噛みして、歯でも形を確かめる。
唇から離すと、溜まっていた唾液が伝い落ちてきた。


「あ、ふふっ……くすぐった……ッ、え、先輩……?」

口腔に包まれる甘い生温かさ。
まだ悪戯としては可愛いものだったが、急に違う物が押し当たったことでロキが明らかに動揺した。
弾力があって柔らかく、湿った感触。
確実に知っている熱。

ここまでくれば背中に目が無くとも察しただろう。
何の為にリヴィアンが下着まで脱いだか。
触れているのは、夜気に晒されていた足の付根。


背後からの拘束状態ではロキも手の可動域が狭い上に、何が起きているのか目で確認出来ず。
振り返ろうとしても首を痛めるだけ。
そうなるとリヴィアンが腰を動かすしかあるまい。

自分よりも小さな少年が硬くて大きな手をしているアンバランスさで、舐めている間に欲情してきたのは事実。
身動き取れない相手に跨がって秘部を擦り付け、かなり端ない格好という自覚が火の出そうな羞恥。
しかし建前はお仕置きなので、決して悟られる訳にはいかず。


開きかけの花弁が蜜で潤んできた頃合い。
こちらからも支えて角度を定め、落としていく腰。
ゆっくりと長い指が突き刺さる。

「んッ……うぅ……」

自分では奥まで届かないのだ。
夏からずっと慣らされた、この指でなければ。


指を咥えている時、擦り付けている時よりも粘着く水音。
蜜で滑る大きな掌を強く握りながら腰を揺らす。
当人のロキすらも見ていないので、形振り構う必要もない。
ひたすら絶頂へ駆け上がる為に。

「ふ……あぁ……ッ、は、あぅ……」

そうして骨張った指を蕩ける熱で締め付け、しならせた背が大きく一つ震え上がる。
情交の際、リヴィアンはあまり甲高く喘がない。
相手を誑し込む時ならばまだしも。
むしろロキが啼いてしまう時があるくらいだった。

そして、今回も音を上げたのは少年の方。


「もぉ……僕、先輩の顔、見たい……ちゃんと、中に入りたいです……」

束縛されながら何をされるのかとで待っていたら、寝ているだけで良いとは却って酷なこと。
何だかんだでお仕置きとして最も効くのは放置。

背後に明らかな痴態を感じつつも、愉しむのはリヴィアンだけ。
何も出来ないまま裸で捨てられる感覚に、ロキは堪らず泣きそうになりながら欲求を口にする。
この辺りでもう良いか。
一度満たされたので、抱き起こして体勢を入れ替える。


今度はお互いベッドに座り込んだ向かい合わせ。
ロキの足枷になっていた寝間着は解いてあげたが、まだ腕の方は後ろで拘束されたまま。

どういうことかとまだ涙が残った目、困惑する様が可愛らしい。
腕を回すリヴィアンに抱き寄せられ、軽く倒れ込む。
受け止めれば布を押し上げる乳房に顔を埋める形。
前開きの寝間着、目の前に深い谷間。

シャツ一枚に押し込められた乳房。
ずっと見たくて触れたくて堪らずにいたのだ。
器用なことにそのまま首だけ動かし、口で先端を探り当てる。

実のところ、こちらもベッドに入った時からビスチェをしていないので擦れてむず痒かった。
隔てる寝間着にも構わず甘噛みまでされれば、唾液で濡れた乳首が疼く。
布が張り付くと固くなっていることまで丸見え。


「……吸いたいなら、口でボタン外してみせて」

リヴィアンとしても布越しの刺激がもどかしく、もっとして欲しいのは山々。
そこを抑えて今度はロキに明確な命令を下す。
だとしても、これまた難題である。

「えぇ……まだお仕置き続いてるん?」
「別に、趣向を凝らしてみようと思っただけよ」

相変わらず無表情のようでも、熱を帯びて気怠げ。
素っ気ない返事も同様。
寝間着のボタンは大きめの四つ。
そのうち開いている方が一つ、閉まっている方が三つ。

「頑張ってね」

額にキスを落としてリヴィアンが艶めいた声。
骨が折れるが、ロキとしては放ったらかしにされるよりはまだ良い。
やる気は出たようで、素直に一つ目のボタンを口へ含む。


悪戦苦闘しつつ、一つ二つとコツを掴んでからは早い。
既に寝間着は唾液で泥々。
糸を引きながら、とうとう最後のボタンを吐いた。

「あー……舌攣りそぉ……」
「お疲れ様」

顎を酷使したもので、語尾が少々不明瞭。
溜息を吐くロキの髪をリヴィアンが両手で包むように撫でる。
何だか銀色の獣じみていて小さく笑ってしまう。

必死に舌を使う少年の熱が伝染したもので、こちらまで汗ばんできた。
開かれた寝間着を脱ぎ捨てるとラベンダーが匂い立つ。


もうそろそろ腕の拘束を解いてあげようとしたのだが。
首を横に振った後、ロキからキスを重ねてきた。
舌が疲れているので今日はぎこちない。
それでも吸って、転がして、リヴィアンの唇を味わおうとする。

えよ、今日はこのままで」

溢れた唾液を名残惜しげに舐め取る距離で告げられた。
自由を奪われているにも関わらず、随分と強気。

「これも趣向を凝らしてるうちなら、なんか悪くないんなぁって」
「あらまぁ……」

はて、最初はお仕置きだった筈なのだが。

確かに放置は効果あっても、どうやら縛られる方は悦ばせてしまったらしい。
そういうつもりは無かったなんて、これだけ好きにしておきながら信じてくれないだろうけれど。


とはいえ、どうやらロキも限界が近そうだ。
これまで指一本も触れられず苦しそうな下腹部。
どうやら残りは繋がる時間に使うことになる。
拘束された腕の代わりに手早く避妊具を着けてあげてから、リヴィアンが腰を持ち上げた。

ベッドに座り込んだ少年の膝の上、向かい合わせで乗る形。
まだ細い撫肩に手を着き、少しずつ腰を落として切っ先に刺される。

「うぅ……ッ、あっ、はぁ……」

一度は指で達した後でも性器とは圧迫感が違う。
加えて突き立てられる直後はどうしても痛むものなので、押し出される声は苦みを伴う。


根本まで杭が打ち込まれ、引き締まった太腿に冷えた丸い尻が密着する。

ロキが腕を使えないので座位になってしまったが、またも上なのでリヴィアン主導の訳か。
確かに、傍から見れば少年を弄んでいるような光景。
汗で更に煌めく銀髪を見下ろし、コーラルピンクの唇から色付いた吐息一つ。


本来ならキスしやすい体勢。
しかし、こちらの方が背丈もあるので両者が頭を動かさねば届かない。

ただ、乳房を吸うには程良い高さ。
口でボタンを外せたら、の約束を勿論ロキは忘れてない。
不意に噛み付かれてリヴィアンに甘い痛みが走る。
柔らかな重みを物ともせず下から腰を突き上げ、抱き寄せることが出来ない代わり歯や舌はいつもより凶暴に。

それから、いつぞや教えた通り接吻痕も。
ゼリーの揺れ方をする胸元に赤い花を咲かせた。





あのまま幾度となく搾り取った後、やっと腕を解放してあげた。
痛みや痺れも無いようで何より。
とりあえず二人共シャツと下着だけの格好になる。

拘束に使われていたロキの寝間着はもう汗を吸って皺だらけで洗濯機行き。
細身の少年にはやや大きいかもしれないが、クローゼットから出したリヴィアンの服を貸してあげた。
こういう時の為にユニセックスなデザインの着替えも用意してある。
普段は自分でも袖を通すので無駄にならない。


不自由自体は構わなくとも、それはそれとして体温を求めてくる。
先程までロキの膝に乗っていたが今は反対。
座り込んだリヴィアンの太腿に頭を預けて、仔犬の甘え方。

このまま仮眠くらいする時もあるが、いつも夜が明ける前にはまたベランダから出て行ってしまう。
帰りも魔法を使うので、一般人には見えずともなるべく闇に紛れていたいと。

二人暮らしのようだった別荘とは違う。
学園で過ごす以上は集団生活、人目を気にせねば。

だからこそ、昼間の悪戯は質が悪い。


「どういうつもりだったのよ?」
「あぁ、やっぱり覚えてたんねぇ……」

視線を落とせば誤魔化すように笑うロキの顔と、ふくらはぎの赤い花。
そもそもの話であり事の発端。
有耶無耶になった訳でも忘れていた訳でもない。

秘密の関係とは双方納得の上で決めたこと。
高等部と中等部、十代のうちには大きい年の差。

そうでなくとも明かせば色々と面倒なことになってしまうのに。


「でも時々、皆に見てほしくなるんよ……リヴィ先輩は僕の恋人ってこと」

別に最初から怒ってないので、こうして切なげに訴えられると弱い。
独占欲だか自己顕示欲だか。
初恋が実っただけに浮かれるのも仕方ないことであり、少年としては可愛らしい願望。

けれど、それは危うさでもある。

まだ本来のヒロインに出逢っていないだけ。
リヴィアンとロキが繋がれているのはその赤い糸にあらず、きっと毎朝生まれる蝶々結びのようなリボン。
空は飛べずとも大変愛らしく、どこか幼い色。


だからこそ、愛でるつもりでも下手に触り過ぎれば弱ってしまう儚い命。

その少年の"可愛らしい願望"こそが一度は縁のリボンを解いてしまう原因になる。
これはまだ何も知らずに、無邪気に戯れ合っていた夜の話。
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