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学園編

18:砂糖菓子*

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ベッドに並んで腰掛けると、ロキが一緒に持ち込んでいたジャム瓶をサイドテーブルへ。
そうして蓋を開けて戯れに薬指で掬い、リヴィアンの唇に塗り付け始めた。
少年の指先で紅を引く様は妙に艶やか。
嫌がる必要もなく、抵抗せずされるがままでいた。
裏漉しした滑らかな木苺は伸びが良い。

「うん、可愛いわぁ」

自分のパーソナルカラーは大体把握しているのでバーガンディの口紅なんて似合わない筈、鏡を見なくても分かる。
だというのに随分とロキは満足げ。


それだけで終わらずに、これは飽くまでもキスの前振り。
もともと近かった顔が息の掛かる距離。
思った通り重なれば、体温でジャムが溶け出して二人とも染まる。
互いの唇が熟れた果実のように柔らかで甘い。

香りで満たされ気持ち良い浮遊感の中、牙を立てられて痛みも少々。
息継ぎしようとしても吸い付いかれるものだから随分と長いキスになってしまった。
木苺で酔ったのか、ロキが熱っぽく微笑んだ。
あの妖艶な目で舌舐めずり一つ。

「今日はリヴィ先輩のこと舐め回したい気分なんよ」


昨日まで童貞だった少年とは思えぬ声。
危うさすら含んで掠れ、匂い立つような色香で。

初心なヒロインなら赤面して「馬鹿」とでも返すところだろうが、悪役は怯まない。
かといって気丈に笑い飛ばすのは嘘吐きのやること。
静かに受け止めて、心音を隠した。

それに、ロキからすればこれは御奉仕。

「なんかリヴィ先輩、昨日あんまり良くなかったみたいだから」
「別に、気持ち良くなかった訳じゃないわよ……」
「苦しそうな顔めちゃめちゃ可愛くて、僕は興奮してもうたけど……今度はトロトロになったとこも見てみたいわぁ」
「あらまぁ……それはロキ君の腕次第じゃない?」

営みを思い出して甘い溜息を吐くロキに、飽くまでもリヴィアンは隙を見せずに返す。

甚振って満足したから、優しくする余裕が出来ただけなのでは。
なんて訝しみつつも、繋がるまでの触れ方が飽くまでも丁寧なことも分かっているので文句は無い。
それと、実のところお互い様。
牙を立てて求めてくるロキの表情に見惚れていた。


この身体は経験が浅いのでまだ未開発。
学園で戯れ合った時、指や舌の方がまだ快楽を感じやすかったのも事実である。

昨日は弄り合いで身体も開いていたがまだ不十分。
射精一回分の生気よりも破瓜の痛みの方が強く、ロキが全てを吐き出すまで受け入れるには確かに苦しかった。
傷口を何度も抜き差しされる灼熱。
そういうのを愉しむ趣味もあるのでマゾヒストとして精神的には満足したが。
「愛があるから痛みも嬉しい」なんて言うつもりはない、夢見る乙女じゃあるまいし。

ちなみに夜空を眺めた後もう一回だけ身体を重ねた。
同じベッドで安眠するには、その前に寝付けの軽い運動代わりが必要で。

キスで再び生気を補給することが可能でも、合意での情交で勝手に奪うのは申し訳なくて止めておいた。
今までロキから頂いたのは、あの時のみ。
若さも体力もあろうと下手すれば命にも関わることもあるだけに。


リヴィアンが息を整えた後も終わらず、頬や首筋、耳や髪にもロキがキスの雨を降らせてくる。
くすぐったさと気恥ずかしさで笑いを堪えながら身動ぎしていると、いつの間にか後ろから抱き竦められる格好。
エプロンドレスの隙間に片手が忍び込んで、布越しの乳房を優しく包む。
もう片手は腰回りのリボンを指先で撫でて伝っていき、その端を摘み上げる。

エプロンドレスは腰のリボンこそが肝心要である。
少女性を象徴する大きな蝶々。
男の手で捕われ散らされたら、もう大人になる時。


「いただきます」

ベッドに俯せで押し倒されて耳朶を噛みながら囁かれた。
背後からなのでこちらからは見えずとも、きっと悪い子の顔で笑っているのだろう。


「ふぅ……っ、あ……」

大袈裟でも何でもなく、宣言通り全身に丹念な舌が這わされる。
顔を背けると引き戻されたり、不意に抱き起こされたりと体勢を入れ替えながら。
有無を言わせずリヴィアンの身体を芯から柔らかくする優しい快感。

緩められていた衣服では守りが薄く、包み紙のように全て剥がされてしまった。
まるで砂糖菓子にでもなった気分である。
そこから溶け始め、やがて正体を失いそうな怖さも。


肘や膝、関節の裏側は皮膚が薄い。
意外と感じやすい場所だと知ってか知らずか、そこは特に長々と。
爪先つまさきまで口に含みたがるものだから困った。
そういえば洗濯の時に溢れた泡でうっかり足が濡れてしまったので、ちょうど軽く洗った後とはいえ。

顔を近付けられるので、銀色の髪も素肌に掛かってくすぐったい。
そうやって美味そうな表情をされると複雑。

初めて深いキスを交わした時から何となく気付いていたが、ロキは唾液の量が多い気がする。
どこか一箇所、例えば耳を舐めるだけでも途中で舌が渇いてくるものだろうに。

おしゃぶりが離せない赤ん坊なんだか。
愛情表現を示す仔犬なんだか。

とはいえまだ性器にだけは口を付けてこない辺り、最後まで焦らすつもりなのかもしれない。
強請る言葉が欲しいのだとしたら乗ってやるべきか。


そういえばリヴィアンは下着まで奪われた後なのだが、片やロキの方はほとんど脱いでおらず。
ジャムが跳ねたエプロンすらしたまま。
裸を恥ずかしがるのも今更ではあるが、一人だけというのは不公平のような。

既に男の声ではあるのだがどちらかといえば高い方。
やはり何度触れてみても喉仏があまり無い。
水色のシャツの襟を緩めてあげたら、またも手を取られて咥えられた。

「あぁ……やっぱり、甘いんねぇ」

とびきり上等なお菓子でも味わうかのように恍惚と。
舐めながら喋られると吐息まで加わって耐え難く、背筋が甘く痺れる。

性器を別として敏感な場所といえば口と手。
舐められるリヴィアンの方は勿論、ロキも高揚感で堪らなくなった様子。
木苺で染まった細い指先をどこよりも執拗に貪る。
テーブル越しでも同じことをしておいて、沁み込んだ紅色を欠片も逃さぬつもりか。


しゃぶられて、桃色の飴のように艶々となった爪。
塗れた唾液が指の股まで流れ落ちてきて、それを舐め取るついでに牙が立てられた。
掌に走った三本線まで一つずつ舌先で辿られる。

台所では煮詰めた木苺の湯気が満ちていたが、寝室は二人分の匂いが混じり合う。
リヴィアンが服の下に吹き付けていたラベンダー。
「堪らなくなる」なんて言うロキこそ、シャンプーだか石鹸だかで仄かにシトラスを纏っていた。
抱き合わなければ気付かなかった密やかな果実。

そこに汗や唾液、発情の湿度が加わって噎せ返りそうになる。
こんな妖精じみた美しい少年でも分泌物はあるのだ。


時間を掛けて細部までも丁寧な一周。
舐め回された白い肌は薔薇色に染まって、まるで端から雫が溶け落ちそうな体感温度。
そろそろ頃合い。
緩んできたリヴィアンの膝を割って、ロキが沈むように身を屈める。

もう蜜で潤み切っている自覚はあった。
高まるのは羞恥よりも期待。

濡れた場所に舌が這うと水音は一際淫らに。
昂ぶった吐息の後、指を舐めていた時と同じくすぐ夢中。
昨日の激しさと打って変わって労る手厚さ。
花弁に深くキスして、蜜を啜りながら自ら溺れていく。


「あの……それ、ダメ、痛いだけだから」
「そうなん?ごめん」

"彼女"は嫌な時に決して我慢しない。
下腹部に顔を埋める仔犬の額を優しく押して制した。

花弁の奥までも舐められたらさぞ強い快感とよく思われがちなのだが、実は間違い。
突き込む際につい硬くなってしまう上、ただでさえ表面がザラついている舌。
柔らかな内側をブラシで擦られるように痛む。

「そうじゃなくって……えっと、上の方を吸うの……」

流石に囁やき声でなければ言えない、こんなこと。
恥じらいながらも花弁の合わせ目を示す。
蜜と唾液で泥々になり、莢を開いて小さく膨らむ珠。


そうか、ロキには女の触れ方までも一から教える必要がある訳だ。

経験豊富な年上が何も知らない年下に閨事の手解きをする、なんてのはよくある話。
時と場合によっては伝統ということすらあるとも分かっているが、まさか自分がその立場になるとは。
本当に初物喰いの趣味など無かったのに。
それどころか、相手の経験人数を気にしたことすら。

未経験者と行為に及ぶのは初めてなので失念していたが、しかも教材はリヴィアン自身の肌。
こんなにも火が出そうなことがあろうか。
確かに前世で娼婦の経験もあるが、恥じらいを失くしたら終わり。

「うぅ……ッ、ひぁ……」
「あはっ……本当にえんね、腰浮いてる……」

唇で挟んで逃さず、舌先で可愛がりながら。
濡れた声で指摘して追い打ち。
繊細な部分なので飽くまでも優しく。
不躾に触れても痛むので、刺激する時は莢で包まねばならないこともある。

「んやぁ……ッ、あ、んん……!」

シーツの上で背を反らし、間もなく星が散った。
達することは出来たがまだ満たされず。
まだ今日は何にも侵されてない下腹部の奥、飢餓感も増してしまったことに気付く。


このまま目眩に浸っていたいが、ただ好き勝手にされているだけでは年上の面目が立たず。
ゆっくり上体を起こすと、小首を傾げてみせた。

「私も、ロキ君の舐めたいんだけどな……」
「えっ……いや、それはちょっと」

リヴィアンから口にしたら、意外な反応。
動揺の後、遠慮でなく拒絶。
はて、普通の男ならば自分から下着を脱ぎそうなものを。
今なら喉奥まで使っても良いのに。


「なんか、こう……リヴィ先輩には"そういうこと"してほしくないんよ」
「ロキ君、自分は散々"そういうこと"しておいて何なの……」

リヴィアンを裸に剝いて舐め回した口で何を言うか。
ただし共感はしないが、理解なら出来る。

これは飽くまでも提案、無理強いなんてしない。
他人に性器を任せるのは抵抗があるのか、単に恥ずかしいだけか。
経験が無いだろうから何とも言えず。
未知は怖い、当然の話。
勝手に触ったりしたことも何度かあったので、悪かったと今更ながら思う。

許容出来ないことは人による。
性的なことなら尚更。


「えっと、されるのが嫌とかじゃなくて、リヴィ先輩が汚れるのが嫌なんよ」
「汚れるって何よ……だから、ロキ君の方は良いの?」
「僕はリヴィ先輩の味全部知りたいから」
「あぁ、そう……」

妙に真面目な顔でおかしなことを言う。
リヴィアンの方こそ反論したいことはある筈なのだが駄目だ。
まだ余韻で頭が回らない。

それなら、もう何も考えずに欲しがることにしよう。


「……じゃあ、そろそろ二人で気持ち良いことしましょうか」

無防備に両手を広げて強請った。
こちらは拒絶されず、ロキも腕を回して応じる。
キスを交わしても流石にもうジャムは消え去っていて、欲望の後味のみ。


ロキもエプロンの蝶々を散らそうとしたが、リヴィアンが手を重ねて止めた。
何だか可愛らしいから、そのままで。

下着とスラックスを膝まで脱いでも、まだ正面からは肌が見えない。
攻め側がエプロンを身に着けたままでは少し邪魔。
ロキは困った様子だったが工夫次第。
スカートの要領でたくし上げて端を口で咥えながら、屹立に避妊具を付けた。

ベッドの上で抱き合ったら、そのまま突き刺さる。

今度はリヴィアンの方がロキをしゃぶるような形。
物欲しげに涎を垂らしながら花弁は待っていた。
既に蕩け切っていたので奥まで一息で呑み込み、離すものかと深く吸い付く。


「あぁ……リヴィ先輩、その顔すっごく可愛いわぁ……っ」

リヴィアンの頬に片手を当て、恍惚と見下ろしてロキが囁く。
望み通りの物が得られて大変満足そうに。

初めて女を知ってから間もないというのに、少年は日に日に凄まじい速度で艶を増していく。
少し恐ろしさすら感じる程。
妖精と思っていたら、とんでもない魔性を目覚めさせてしまったのかもしれない。

もう確実に魅せられているだけにリヴィアンも手遅れか。
その表情を見せられる度、甘く溶けてしまう。
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