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36.危機回避

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 ウィズから出た言葉は緊急事態。焦った声色から余程のことだとは思うが、何があったんだ?

『詳しく教えて』
『冒険者らしき者達が熊型の魔獣の群れに襲われている。全部で4体。クローベアにしては大きすぎる個体が居るな。おそらくキラーグリズリーだろう』
『キラーグリズリーだって!?』

 思わず念話だけでなく普通に声に出してしまったため、全員から注目を浴びる羽目になってしまった。
 手を振り口パクで「何でもない」と伝えると、再びウィズとの念話に集中した。

『クローベアはともかくキラーグリズリーはもっと森の奥のほうを住処すみかにしてたはずだよね? 何でこんな所に…。そうだ、その冒険者は強そう?』

 クローベアはCランク、キラーグリズリーはBランクの魔獣だ。
 さすがに冒険者になりたての新人がこの森に来ることは無いだろうが、中堅クラスだってこの数は厳しいだろう。

『あまり強そうには見えないな』
『ん~、自分で確認したいから全体を見渡せる場所に移動してくれる? 着いたら教えて。『目』を繋げるから』
『承知した』

 ウィズから返事をもらったところで、一旦説明しておいたほうが良いかもしれない。
 何が起こってるのか分からないと不安だよね。

「えっと…今、僕の従魔から念話があって、トラブル発生したみたいなんだよね。もうちょっとかかるから、ちょっと待っててくれる?」
「トラブルってなんですか? 何が…」
「皆には直接関係することじゃないよ」
『ルー、着いたぞ』

 そこでウィズから念話が届いたことで一旦会話は中断して、さっさと確認しますか。

「【感覚共有】」

 目を閉じてスキルを発動させて再び目を開ければ片目だけウィズの視界が映し出された。
 両目にしなかったのは念の為だね。万が一、自分の身体に何かあっても気付けるように。
 ちなみにコレ、自分では分からないけど魔法陣が出てるらしいんだよね。
 そうして片目の視界でクローベア達とキラーグリズリーに囲まれている冒険者数名が見える。
 男女も種族も関係なくパーティを組んだようだが、連携がまるでなっていない。個々の実力は分からないがパーティとしては…無いな。
 依頼を受ける為に組んだ臨時パーティの可能性もあるけど…。
 剣士が射手の邪魔になるような場所に居るし、魔法師も回復役らしき人も魔力切れ、重戦士らしき人は魔力切れの人達の護衛で、斥候役なのか身軽な人も攻撃が効かなくて身動き取れず…。
 パーティのバランスは良いんだけどな~、惜しいね。

『ウィズ、このままじゃ全滅も有り得るから、彼らが逃げられるように隙を作って。刺激し過ぎて怒らせない程度に牽制けんせいして、距離を稼げたら離脱するように』
『厳しいがやってみよう』

 確かに厳しいんだよな~。
 ガーディアンオウルはDランクだからクローベアよりもランクが低いため、力では到底かなわない。一度でも攻撃を食らえば致命傷になるだろう。
 そこは空を自由に飛べるってところで攻撃の届かない上空から狙い撃ちするとかね。

『そらっ!』

 ウィズは翼を素早く羽ばたかせ真空刃を飛ばして魔獣達と冒険者の間を狙う。あえて攻撃は当てず、あくまで注意をこちらに引き付けるのが目的だ。
 まさか他の魔獣に援護に入られると思って無かったのか、冒険者達は揃って驚いた顔をしているが重戦士の男はいち早く立ち直り、パーティメンバーに声をかけている。
 ウィズのほうには敵意を向けてないので、おそらくこちらの思惑に気付いたのだろう、攻撃されなくて良かった。

『ウィズ、冒険者達は気付いたみたいだ。もう少し引き付けてくれないか』
『むぅ…仕方ないな』

 そう言うともう一度真空刃をすれすれに飛ばせば、魔獣達は冒険者達に背を向けてこちらに寄って来た。
 その隙を狙って冒険者達は一気に走り去って行った。魔力切れで動けない2人は剣士と重戦士に抱えられている。
 取り敢えず仲間を見捨てるような連中じゃなくて良かったよ。

『ウィズ、もう良いから離脱して』
『ふ~…。寿命が縮むかと思ったぞ』
『ごめん、ありがとう』

 ウィズにその場を離れるように伝えると【感覚共有】も解除して念話だけにする。
 いつまでも視覚を繋いだままだと鳥の飛ぶ速度に目が慣れなくて酔いそうになるんだよね…。

『ところで調べたいことって終わったの?』
『いや、まだかかりそうだが…どうかしたのか?』

 そもそもウィズは調べたいことがあるから、と別行動していたのだ。
 なのに緊急事態だと念話が来たためにこうなってる訳だが。

『どうって訳じゃないけど、天気が崩れなければ森を出ようかと思ってさ』
『今日は雨が降りそうだから止めておいたほうが良いと思うが…』

 小屋の中からでは分からないが雲の動きが怪しいのかもしれないな。
 だとしたら今日は小屋の中で過ごすことになりそうだね。

『え、そうなの? …ん~~、じゃあ少し待ってみようかな。雨止む頃に調べもの終わってたら一緒に行こう』
『ああ。………ん? 一緒、とは町に入っても、という意味か?』
『そうだよ。ちなみにテトとゼファーも一緒に行く予定なんだ、首輪も付けたし。ウィズも足輪付ければ良いんじゃないかな』
『そういうことなら一緒に行こう』
『分かった。じゃあ、また後で』
『ああ、またな』

 そうしてウィズとの念話は切れた。
 心なしか嬉しそうな声だった気がしたけど、やっぱりウィズも本音では町の中でも一緒に居たかったってことなのかな?
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