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35.朝食の時間です

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 なんとなく昨夜と同じように暖炉の近くに集まってきたところで、既に何人かに確認したことを他の皆にも聞くことにした。
 いやだってさ…せっかくの弁当、食べないと勿体ないじゃん。

「あのさ、弁当って持ってる人、いる? 無ければスープ配るけど…」
「弁当?」
「うん。昨日、鞄ごとアイテムボックスに入ってるってイツキが言ってたろ? だから弁当も入ってない? あるんだったら先に食べないと腐るよ~」
「あ! そかそか、えっと~……あ、あった!」

 最初に取り出したのは智貴だった。それに倣うように他の皆もアイテムボックスから弁当を取り出している。
 結局、弁当を持っていたのは…朔弥、樹、剛磨、智貴の他に沙貴、雅、皐月、亮輔、香菜の9人だった。
 拓人と里砂と賢士の3人は無かったのでスープ一択だが、弁当を持っていた皆にもスープが必要か聞いたら、量の違いはあれど全員に欲しいと言われた。

「飲み物いる人~? 温かいのと冷たいの両方あるから好きなほう選んで。ちなみにセルフだから」
「僕が手伝うよ」

 竹の器にスープを取り分けながら聞けば、朔弥が手伝いを申し出てくれた。
 正直助かる。

「ありがとう」
「で、どれがどれだか分かんないんだけどさ」
「えっと、温かいのはガラスジャーに柚子の蜂蜜漬けがあるから、お湯で割って飲むタイプ。お湯は暖炉にあるから持つ時に気を付けて。で、ティーポットには林檎と柚子と葡萄とクランベリーが入ってるから好きなの選んで」 
「結構種類あるんだね」
「選べたほうが良いかなって。本当はジャムも作っておきたかったけど、時間的に厳しかった」

 苦笑しながら返事をすれば朔弥は「そんなことない」と手を振ってくれた。

「むしろ充分なくらいじゃないかな? 朝食に飲み物までバリエーション豊富でさ。ところで、肉なんてあったの? というよりも、これは何の肉なのかな?」
「ちょ、朔弥…だっけ? 聞かないほうが…――」
「あぁ、それはビッグボアだよ」
「ビッグ…ボア?」
「遅かったか」
「うん」
「って…あの~、昨日の巨大猪、かな?」
「そう」

 朔弥に肉の正体を聞かれた時に拓人が止めに入ろうとしたが、僕はそれに構わず淡々とバラした。
 彼女は驚いて動きが止まっているし、先に食べていた皆もスープをジッと見つめている。
 食べ終わってから言ったほうが良かったのかもしれないな~。でも今ここで言わなくても、いずれ必ず知ることなんだし、だったら早めに知っていたほうが良いかと思ったんだけどな。
 傷は浅いほうが良いって言うか、覚悟を決めておいたほうが良いと言うか…さ。

「……意外と美味しいのね」
「ジビエって獣臭が強いって聞くけど、そんなこと無いんだな」

 あれ? …思ったよりもショックが少ないと言うか、意外と受け入れられているのか?

「獣臭は血抜きがしっかり出来てないと強くなるんだ。それに肉を冷やす工程が大事でね」
「へ~……、ん?」
「どうかした?」
「いや…。なぁ、昨日の猪が今朝この状態ってことは、その…解体作業って誰がやったんだ? まさか、ゲームみたく塊肉の状態で出るわけじゃないだろ?」
「まさか。僕が解体したよ」
「「「え!?」」」

 これには夜中に話した樹と朔弥以外の全員が目を見開いて驚いて僕を凝視してきた。
 なにコレ。ちょっと怖い。
 視線からのがれるようにテトとゼファー用にスープと果実水を平らな皿に取り分けて置いてやると、2体とも美味しそうに黙々と食べている。

「早く食べないと冷めちゃうよ」
「あ、あぁ。そう、だな」
「そうね、せっかくの温かい料理が冷めたら勿体ないわ」

 それを合図にしたかのように食事が再開されたが、どこか思うところがあるようで様子がおかしい。
 まぁ理由はなんとなく想像が付くんだけどね~、仕方ないか。

「ふぅ…。聞きたいことがあるなら後で答えるから、早く食べちゃって。僕も教えなきゃいけないこと、たくさんあるしね」
「分かった」

 やっと普通に食べ始まったところで、僕もスプーンを口に運ぶ。うん、中々の出来じゃないかな。調味料が無かったことを考えれば合格点だろう。
 皆は元の世界のことを話しながら、穏やかに朝食の時間は過ぎていく。
 時々僕のほうに話を振るが、日本で暮らしていたことは秘密なので知らないフリをして、適当に相槌を打ちながらはぐらかした返事をする。
 女性陣の話にはついていけない時もあったけど、楽しんでるなって思った。

「ごちそうさま~」
「あ~腹いっぱい。も~入んないわ」
「美味しかった…です」
「ルーティスって料理上手なんだな」
「それほどでもないと思うけど、口に合ったようで何より」

 食後の後片付けを手分けしてやりながら、感想を言われて鍋を見ると、良く分かる。
 中身が半分以下になっているから、気に入ってくれたのは事実だろう。半数以上が弁当持ちだったのにも関わらず、スープの残りが少ないんだからな。
 洗った食器と一緒に鍋ごと《無限収納》へとしまって後片付けは終了だ。
 さて、僕としては取り敢えず森を出たいんだけど…、さっき教えるって言っちゃったしなぁ。

『ルー! 聞こえるか?』
『ウィズ?』

 いつも落ち着いたウィズとは思えないような慌てた声で念話が届いてきた。
 なにか異常事態が起きたのか、それとも何かしら情報を掴んだのか…どっちだろ?

『ルー! 緊急事態だ!!』 
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