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26.年相応と王道と単純

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 剛磨はからかうと面白い。でもやり過ぎると後が面倒そうだし、ここらへんで止めておこう。

「じゃあ改めて。ゴウマ、おはよう」
「………はよ」

 そっぽを向いたままだったが、今日のところはこれで勘弁してやるか…なんてね。にしても、耳が赤くなってるよ~。
 何にしても挨拶を返しただけでも進歩したと思わないとね。

「で、鍛練。付き合えよ」
「嫌だよ」
「なんで?」
「僕は今忙しい。ゴウマこそ、急に鍛練に付き合え、なんて…どうして?」

 鍛練なんて一人で筋トレでもなんでもしてたら良いのに、どうして僕を相手にしたいのか。
 第一、僕は朝食の準備中だもの。やらないよ。

「さっき言っただろ、体鈍りそうだから」
「なら、どうして僕?」
「お前、オレのことを簡単にあしらっただろ。余計な動きは一切しないで、最低限のちからで。そういう奴は強いってのが、オレの経験則だからな!」

 自慢気に話す剛磨を横目に鍋が焦げないようにかき混ぜつつ、灰汁あくを掬いとっていく。
 腕っぷしは強そうだもんなぁ…。きっと今までも結構絡まれたりしたんだろうな。そしてその度に蹴散らしていたんだろう。

「だからオレの相手をしてくれ」
「今は忙しいと僕は言っただろう。やらない」
「ちょっとくらい付き合えよ。減らないだろ」
「時間が減る」
「あー言えば、こー言う!」
「どっちが!」

 相手をしないように冷たく突き放す言い方をしても全くこたえてないようで、剛磨は諦める気配がない。
 これじゃあ子供の喧嘩だ、もういい加減にして欲しい。

「チッ。…………じゃあ、いつならできる?」
「え~~……」
「なんだよ」
「諦めてよ」
「やなこった。お前が折れるまでしつこく付きまとってやる」
「うわ、迷惑」

 ニヤリと口角を上げて、何となく剛磨は楽しそうだな。こういうやり取りやったこと無いのかな? あ~、やる相手がいなかったのか。

「な~、いつなら良いんだよ?」
「そのうち、気が向いたらね」
「相手してくれんのか!?」
「してあげても良いよ?」
「おっし! 約束破んなよ!」
「はいはい」

 お~笑った。白い歯を見せてニカッと笑うこの笑顔は年相応って感じだな~。
 そういう顔をもう少し見せれば、皆とも打ち解けられるだろうに……。勿体無いな。

「なぁ、ところでさ。さっきから気になってたんだけどよ」
「ん?」
「両肩に乗ってんの、なに? 昨日はいなかったよな?」
「この子達の事は皆が起きたら話すよ」
「ふーん…」

 急にフレンドリーになって逆に気味が悪いよ。
 あれ…なんか興味持ってる? 肩に視線を感じる。
 ん~これはもしや……。

『テト、ゼファー。もしゴウマが触りたいって言ったら、触らせても良い?』
『え~、アタシは嫌なのよ』
『ボクはちょっとだけなら良いよ』
『分かった』

 一応、念の為に確認をとっておかないとね。
 いきなり触らせて反撃されたら危ないしさ。

「ゴウマ、もしかして…触りたい?」
「はぁっ!? い…いぃ、いや、別にっ……そんなことは…」

 とか言いながらも視線はバッチリ感じてるよ、肩に。正確には肩に乗ってる2体に。
 素直じゃないなぁ、本当にひねくれた性格してるよ。

「猫のほうだったら触っても良いって。でも優しくね」
「そ、そこまで言うなら触ってやっても…」

 強面男子のツンデレは要りませーん。
 不良は小動物に優しいって漫画みたいな設定だよね~。ほら、捨て猫に餌をあげたり、雨降った日には傘を置いたりするタイプ。
 なんてことを考えてる間に、剛磨は恐る恐るといった感じで手を伸ばしてゼファーの背中を撫でている。
 そうか、人間だけじゃなくて動物にも怖がられていたのかもしれない。だから触り方も分からないのかも。

「そうそう。上手いよ、その感じ」
「そ、そうか」

 ちらりと横目で剛磨の顔を盗み見ると、初めて見る穏やかな優しい顔をしている。
 本当に勿体無い。今なら怖がられないのに。
 不意に顔を上げた剛磨としっかり目が合ってしまい、驚いた後に思いっ切り顔を背けられた。
 でもこれは単なる照れ隠しだな、だって耳が赤いもの。

「ふふっ」
「…なんだよ」
「なんでも無いから気にしないで良いよ」
「なんかムカつく」

 付き合い難いと思っていたけれど、案外話しやすいのかもしれないな。

「お前、ホントに19歳か?」
「急に何?」
「19っつったらオレより年下だろ。でもお前は年下っぽくない」
「へ~…?」

 意外と鋭いね。直感かな?

「それに年下がオレより強そうとか気に食わない」
「ふはっ、なんだよそれ」

 思ったより単純な理由に思わず笑ってしまった。
 2人で顔を見合わせて耐えきれずに、同時にまた笑う。

「は~、久しぶりに笑ったわ」
「ゴウマはいつもしかめっ面してるからだよ。どうせ元の世界でもそうだったんだろ」
「お前ってホント、ムカつく」
「そりゃどーも」
「マジでムカつくわ、お前」

 他愛のない言葉のやり取りを繰り返すが、どうしても気になる事がひとつ。

「お前じゃないよ」
「あ?」
「僕はお前じゃない。名前がある」
「あ~……」

 そう言うと気まずそうに頭を掻いて視線をさまよわせている。
 剛磨はまだ一度も僕の名前を呼んでいない。
 これから一緒に行動することが多いのに、お前呼びを続けさせるつもりなんて更々無い。

「ゴウマ、僕の名前、教えただろう?」
「あぁ」
「じゃあ名前で呼んでくれない?」
「はいよ。………ルーティス」

 今度は真っ直ぐ目を合わせてきた。
 少しずつ剛磨の事が分かってきた気がする。
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