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22.一緒に行きたい

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 ほどなくして2人の規則正しい寝息が聞こえてきた。
 ちょっと煩かったかもしれないな。これからは僕も念話で返事をしよう。

『ねぇルー、さっきの誰かな?』
『さっき? なにかあったの?』
『あー、野営してる冒険者じゃないかな? 見張りとか火の番とか』
『さっきってなにがあったのー?』
『ちょっ、叩かないで。地味に痛い』
『ルー! さっきってなにー?』

 肩乗り状態から頬を小さな前足でペチペチと叩き続けるテトに、手のひらを差し込んで身体を離す。すると今度は指に噛みついてきた。

『痛いってば』
『さっきってなに?』
『誰かに見られてた。獣と人の匂いが混じってたから多分、獣人。それに高い木の枝にいたみたいだから、人族だと難しいかも』

 ゼファーが僕の代わりに答えてくれた。
 さすがゼファー、かなり離れていたのに匂いを嗅ぎ分けたのか。それに夜目が利くから目視できたんだな。

『どんな人だとかは?』
『そこまでは分かんない』

 まぁ、獣人だと分かっただけでも収穫かな~。

『テトとゼファーはこのまま朝までいる? イツキとサクヤにはバレちゃったし、他の皆にも紹介しようと思うけど、一旦戻る?』
『アタシ、いるー!』
『ボクもいる』
『じゃあゼファーは小さくなって。んー…さっきよりも小さく、子猫サイズくらい』

 さっきは中型の成犬サイズくらいだったけど、更に小さくなるようにお願いした。

『いいよ。―――これくらいでどう?』
『うん、良い感じ。可愛い』

 ゼファーは快く承諾すると身体がだんだんと縮んでいって、腕に抱けるくらいに小さくなった。いや、むしろ手乗りサイズだ。両手でお椀のようにすると、すっぽり収まるサイズ感が丁度良い。

『ルー』
『ん?』

 首を伸ばして頬にすり寄ってゴロゴロと喉を鳴らしているのが、またすっごく可愛い!

『これなら街でも一緒にいて良い?』
『このくらいなら怖がられないし、従魔用の首輪を着けたら大丈夫。一緒にいられるよ』
『やった。じゃあ首輪つける! つけてー?』

 今まで僕は従魔を連れて街に入ったことが無い。いつでも喚べるからか、何も一般人の多い街中にまで連れて行こうとは思わなかったからだ。
 人々の奇異の視線は従魔達にとってストレス要因にしかならないから、わざわざ嫌な思いをさせる必要は無いと思っていた。
 街の外では普通に連れていたけれど、その時しか首輪は着けてなかったんだよね。準備はしていたけれど使う機会が少なかったから、《無限収納》に入っていることが多かった物だ。

『わかった。ちょっと待ってね』
『うん』
『ルー、アタシも! アタシもつける! 一緒が良いの~』
『わかったからちょっと待って』

 僕は《無限収納》から首輪を2つ取り出して2体の首に取り付ける。
 この首輪はサイズ自動調整付きの優れもの。だから身体の大きさを変える魔獣でも問題なく使える。

『ムフー』
『どうしたの?』
『これで街に入っても一緒にいられるんだよね?』
『うん』
『ルーと一緒。嬉しい』
『……そっか』

 気が回らなかった。ストレスを感じたら嫌だと思って街には連れて行かなかった。
 でも本当はずっと一緒にいたかったんだ。寂しいから一緒にいたかっただけなんだ。

『これは他の子達もたまには連れて行ったほうが良いかな~』
『他のみんなは別に良いの!』
『なんで?』
『小型や縮小化できるボクらの特権』
『それだと他の小型や縮小化できる従魔も連れて行くってことだよ』

 テトとゼファーは未だにぶーぶー文句を言っているが、可愛いわがまま…おねだりだと思う。
 自分を特別扱いして欲しいっていう誰にでもある欲求だよね。
 僕にとっては皆、大切なかけがえのない家族だ。
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