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19.竹で食器を作ります

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 このまま皆に並んで暖炉にあたっていると本当に寝ちゃいそうだし、眠気覚ましに食器作りをしたほうが良いかも。
 薪を追加してから毛布を取り出して背もたれにして、竹を食器に加工するために手頃なサイズを自分の前に並べていく。

「じゃ、作るか。と言っても風魔法でササッと切って内側を洗って終わりなんだけどね」

 宣言通り、竹を縦や横に切って皿やスープ用に深めの器にマグカップ等を何種類か作り、内側は生活魔法で綺麗にする。
 切った時に出た端材はざいを細長く切って表面を滑らかにすればはしの完成。

「ん~…手抜きかな? でも数が必要だしな~。気に入らないなら街に着いたら買えば良いか」

 こういうのは本来、職人が作った物のほうが断然良いしね。今はその場凌ぎって感じで我慢してもらおう。

『ルー? もう小屋に入ったー?』

 竹の加工に集中しているとテトから念話が届いた。近くまで来たのかな?

『うん。テトはどこにいるの?』
『あのねー、窓開けてー?』
『窓?』
『早く早くー!』
『え? え? テト、今どこ?』

 僕からの問いかけには一切答えず、一方的に早くと急かすテトに言われるがままに立ち上がる。窓へと近付いて開けて顔を出して外を見回すけど、どこにいるんだ?

『テト?』
『ただいまー!』
「ぶふっ!? …ったぁ!!」

 正面を向いたところでテトは目前まで迫っていて、ビタンッと音がするほどに僕の顔面に衝突してきた。――正確には毛皮でモフモフだから音がしたのはテトに預けた魔法の鞄マジックバッグのほうだけど――。
 くぐもった呻き声が漏れて、その衝撃に思わず仰け反ってしまう。耐えきれずに尻餅をついて仰向けに倒れて先程よりも大きな声が出てしまった。
 今の物音と声で皆が起きてないか心配になって耳をすましてみる。何も音が聞こえないから起きなかったみたいで一安心した。
 そしてこんな状態を作った張本人であるテトといえば、動く気配が無いどころか貼りついたままびくともしない。

『ルー、ただいま~?』
ふぇほテトおふぁえりおかえり
『ルー、変なの~。なに言ってるかわかんないよ~?』

 顔に貼り付いているせいで上手く話せないのをアピールするために、わざと念話じゃなくて普通に会話したのに…気付いてくれない!
 投げ出された状態の腕を動かして床に肘を立てて起き上がろうとした時に、首に電流が流れるように鋭い痛みが走った。
 テトがぶつかってきた時に首の筋を痛めたかもしれないな。首を擦りながら上半身を起こす間も顔に貼りついたまま離れない。

『ルーってば~』
『テト、顔から離れてくれる?』

 仕方ないので念話で伝えると笑って誤魔化しながら、顔から肩に移動していく。

『はい、ルー。魔法の鞄、返すね』
「ありがとう、お疲れ様」

 立ち上がって窓を閉めているとテトが魔法の鞄を差し出してきたので、手のひらを差し出すとその上にポトンと落としてきた。空いている反対の手で頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めている。
 中に手を入れると予想以上の量が入っていたので、その中からひとつ取り出してテトに渡す。ご褒美としておやつをあげると早速、カリカリと食べている。

『ルーはどこに行ってたの?』
「竹を探しに行ってた」
『竹? なんに使うの?』
「食器の代用品に良いかな~と思って」
『ふ~ん』

 床に散らばった竹をひとつ取ってテトに見せると興味無かったようだ。

『あのね、ウィズとゼファーを見たよ』
「どこで?」
『うーんと、ウィズはどっか遠くに行っちゃった。ゼファーは小さくなって走ってたよ』
「…そう」

 僕はどこで見たか聞いたんだけど、まぁ良いか。
 ウィズはきっと飛び回ってるうちに何か気付いて、知っていそうな相手の所にでも向かっているんだろう。
 ゼファーはアドバイス通りにやってるみたいだけど、成果が分からないな…。

「テト、ゼファーは何か捕まえたみたいだった?」
『ん~? …わかんない!』
「はは、だよね」

 ゼファーには魔法の鞄を渡してないから咥えてくるとか、引き摺ってくるとかしないと持ってこれないと思うんだけど…。
 あれ以来ゼファーから念話は来ない。よほど熱中してるのか、それともまだ捕れないなら意地になってるのか…どっちかな?
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