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11.回想〜神域〜 5/20追記

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 神域はまるで雲の上にいるかのように眼下には青空が広がっている。
 あれだ、日本なら展望台の床がガラス張りになっているところで下を見てる風景。それが見渡す限り続いていると言えば解りやすいだろうか。
 それと水鏡があり、そこから地上の様子を見ることができるのだ。
 余計な物は一切無い――と言うか、神様が望めば出てくるので必要無いんだよね。

「初めましてじゃな、地球の者達よ。儂はお前さん達からすれば異世界の神じゃよ」
「…………はぁ」

 あらわれたのは白髪を腰まで伸ばした立派なひげのある好好爺こうこうや風の老人の姿をしたグランディオ様。
 まぁそうなるよね。いきなりそんなこと言われても、反応に困るだろうね。

「お前さん達は時空に歪みが生じたことで出来た裂け目に巻き込まれて、時空の狭間に放り出されてしまってのう。そのまま朽ち果てるのも可哀想でな~、儂が拾い上げたのじゃ」
「………はい?」
「ふむ。いきなりのことで混乱するのも仕方のない話じゃな」
「………え、えぇ、そう…です、ね?」

 あ~あ、あれ、絶対パニクってる。頭の上にクエスチョンマークが大量に出てるよ、きっと。
 助け船出そうにも、変にしゃしゃり出ると説明が面倒だし……ちょうど一番後ろなんだし気配消しとこっと。
 薄情だなんて言ってくれるなよ、僕の今の姿は日本で過ごした時のままなんだから知ってるのは可笑おかしいからね。

「まあ早い話が…お前さん達、儂の管理する世界で生きてみんかの?」
「……え、あの、俺…いや、私達は死んでしまったのですか…?」
「あぁ、誤解させてしまったようですまんの」
「誤解……ですか?」

 そりゃ誤解するでしょうよ、異世界で生きないか? ――なんて聞かれたら。
 神様にツッコミ入れてどうすんだって言うか何様って言う話だけど、声に出してないから。思ってるだけだからセーフなんです~。
 とにかく、もっと解りやすく説明してあげないと通じないよね~。

「お前さん達の魂は既に変質してしまっていての~、地球に還ることは出来なくなってしまっておるのじゃ」
「………帰れない、んですか」
「残念じゃがな。儂が拾い上げたのが原因じゃが……恨むなら儂を恨むがよい」

 グランディオ様が助けてくれなかったら、最悪の場合、僕達は死ぬまであんな場所にいるしかなかったんだから恨むのは筋違いだと思うけど…。
 そう……住んでいた世界から離れて時空の狭間に放り出されると、自力では出てこられない。
 それこそ、今回のように神様が助けてくれない限りは。
 地球の神様が助けてくれたなら地球に還れたかもしれないが、今回は僕の事もあってグランディオ様の方が早かったのだろう。
 そう考えると、皆が地球に還れないのは僕にも責任があるってことだよね。

「そんな! 異世界とは言え、神様を恨むなんて…そんなこと、できません!」
「ほっほっほっ。優しいのう」

 でも、つらいだろうな。感情をどこにぶつければ良いのか分からないのは。
 もう皆は日本にいる家族にも友達にも一生会えないのだ。
 親の葬式にも立ち会うことができない。要は親よりも早く先立つのと同じと言っても良いだろう。

「それで先程の続きじゃが…転移させるんじゃよ」
「転移ですか?」
「そう、転移じゃ。お前さん達は死んだわけじゃなく、時空の歪みに巻き込まれただけじゃ。地球ではお前さん達全員、事故で死んだ――という風に事後処理されておるじゃろ」
「事故死、ですか」
「そうじゃ、一昔前ならば神隠しだのあやかしの仕業だので済んだかもしれぬが……。現代ではそうもいかんからのう。じゃから、不謹慎ではあるが多くの人が亡くなっても不自然ではない、事故や自然災害で…という訳じゃな」
「なるほど?」

 あらら~、ちゃんと理解できてるのかね?
 突然のことで頭が追いついてないのまるわかりだよ。

「そこで儂の管理する世界に全員転移させると言うわけじゃ。転生ではないので姿はそのままじゃが、中身もそのままでは生きていくのは厳しいじゃろう」

 平和な日本で育った皆にとっては魔獣のいる世界で剣や魔法も無しに生き抜くのは苛酷かこくでしょうね。
 僕だってスキル無しに生きろって言われたら反論するぞ。

「じゃから、儂の加護とスキルをいくつか与えよう」
「どんなスキルを?」 
「ふむ。……言語理解、アイテムボックス、生活魔法、鑑定、地図。取り敢えずこれがあれば困らんじゃろ」

 困らないどころじゃないよ。平民なら充分過ぎるくらいだと思うけど。
 て言うか切り替え早いな。
 さっきまでショック受けてたのに、その素早さには感心するよ。

「あの! 神様にお願いがあります!」
「なんじゃ? 申してみい」

 あれは……沙貴?
 何を願うつもりだろう?

「あの、これから行く世界でもスマホを使うことはできませんか?」
「ふむ。スマホとな?」
「スマホの中には家族や友達の写真がたくさん入ってます。もう会えないなら、せめて写真だけでも!」
「ふむ……」

 なるほどね。いくら親しい相手でも何十年と顔を見なければ、だんだんと記憶は薄れていくもの。
 次第に家族ですら顔を思い出せなくなるかもしれない。そんなのは悲しすぎるよな。

「仕方がないのう。ならば、その写真だけは見られるようにしておこう。しかし、その他は一切使えんからのう? そのスマホを通じて地球の人に連絡を取ることはできぬぞ」
「はい! ありがとうございます!」
「ただし取り扱いには注意するようにな。ついでじゃ、使用者権限で他の者には使えんようにしておこう」
「あ…ありがっ、ありがとう…ございますっ!」

 あらら、泣き笑いして喜んでるよ。
 沙貴のところは家族仲が良いし友達も多いから、不安だったんだろうな。
 
「それから一般常識は魂に刷り込ませておくからの。知らないと困るじゃろ」
「ありがとうございます」
「ついでに案内人も付けてやろうかの。そこの若者と同じ年頃で見目麗しく頼りになる青年じゃ」
「本当ですか? 助かります!」

 ……ん? 今、グランディオ様、案内人って言った?
 あ、僕に向かってアイコンタクトしてきたよ。これは僕に任せたと認識して良いのかな?

「それでは、詳しいことは案内人に聞くがよい。新しい人生に幸あらんことを願っておるぞ」
「はい」
「ならば目を閉じるのじゃ、次に目を開ける時は新しい世界となるからのう」
「はい、ありがとうござ――」

 お礼を言い切る前に皆の姿がだんだんと透けていって、とうとう見えなくなった。
 後にはグランディオ様と気配を消して皆の様子を傍観していた僕だけが残されていた。

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最初はスマホの件を入れないで書いてましたが、アイテムボックスの話で持っていた鞄がそのまま入ってると書いたので…。
だったらスマホも持ってるはずなのに話題に出ないのもなぁ~と。
制限付きで使用可能にしました。

※追記
神様の名前をグラウディオ→グランディオに変更します。
入れたいエピソードがあるので、そのためです。
話筋は変わりません。
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