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10.回想〜時空の狭間〜

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 つい先程まで駅のホームで地下鉄を待っていたはずなのに、気付けばあの時ホームにいた大勢の人達は真っ暗闇の中に放り出されていた。
 僕を苦しめていた耳障りな音も、その原因だった時空の歪みも既に無いようなので、今はもう聞こえない。
 現象が無くなったことで吐き気も治まったけれど、それどころじゃないよな。まだ少し気分が優れないが、このくらいなら問題ない。
 光も音も無い、天井や床もあるのか分からない、右を見ても左を見ても何も変わらない。
 少なくとも呼吸は出来るので空気はあるようだが、何も解らず漂うだけしかできない。
 光が無いので目を開けても閉じても代わり映えしないし、他の人達の安否確認も出来やしない。
 けれど、僕の近くにいた人達の気配はかろうじて感じ取ることが出来たので一安心だけど……。

「ここ、いったいどこなんだ?」
「何にも見えないよ!?」
「嫌だ! 帰りたい!」
「ここから出してぇ!!」

 遠くからパニックになった人達のざわめきが聞こえてきた。こんな状況なんだから当然だ。

「お兄ちゃん! 近くにいるの!?」
「沙貴!? 見えないけど近くにいると思う」
「皆、近くにいますか?」
「先生、ボクここにいるよ」
「俺もいる」

 あの時に僕の近くにいた皆の声が聞けて良かった。パニックになっていないから思ったより落ち着いているみたいだ。
 残念ながら…お互い安否確認できたところで結局のところ、何の解決にもなっていないんだけどね。
 多分ここは時空の狭間といったところだろうか。
 さすがにこのままの状態が続くと正気を保てなくなるだろうな。光が無いというのは時間の感覚すら狂わせてしまうものだから。
 だからといって僕にはどうしようも無いのだから手に負えなくて困るんだよな~。
 ここが僕が元いた世界なら魔法でなんとか出来るけど、ここじゃあ何も出来ない。
 せめて光だけでも…と思って試しているけれど何の効果もないところを見るに、まだ世界を渡ってはいないだろう。
 でもどう考えても地球じゃない…だから世界と世界の間にある「時空の狭間」ではないかと結論に至った訳だけど。

「…………」

 不安や焦りや恐怖といった負の感情が渦巻いているようだ。
 どうにかしてこの状況から脱け出したいけれど、どうすればいいのか解決策がまったく思いつかない…。
 思考を巡らせど考えがまとまらずいらつき始めてしまう始末だ。
 考えあぐねていると暖かくて心地良い、柔らかい光が射し込んできた。誰もがその光に釘付けになってしまう。
 それと同時に僕の周りに覚えのある神気を感じ取り、護るように包み込んでいく。
 この神気を僕はよく知っている。いや…むしろ忘れるはずが無いんだ。
 だって……こんなに安心できるんだから。
 いつの間にか強張っていた顔は自然と緩んで、口角が上がっていることに気付いて更に笑みが深くなる。ちょっと単純だったかな?
 身体が浮くようなふわりとした浮遊感の後に、僕の周囲にいた人達も巻き込んで眩しい光に包まれていく。
 射し込んできた光とは比べものにならないほどの眩しい光に目を開けていられず、光が弱まるのを目を閉じてじっと待つ。
 次に目を開けるとそこは、神様の御座おわす所――神域だった。
 さっきのはやっぱり、あの方だったんだ。
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