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第12話 第3章 助力③

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 酒のニオイと人々が踊り狂う声が、地下空間の中を隙間なく埋め尽くしている。
 天井に埋め込まれている巨大な光源石によって明かりは確保されているが、バスケットコート二面分ほどの空間は薄暗く、人の顔は上手く判別できない。
「おい、こっちじゃ」
 ペドロ・ホドリゲスを手を挙げて待ち人を呼ぶ。
 待ち人は、フードを被った男だ。男は目の前を横切った千鳥足の女を忌々しげに躱すと、ペドロの座る席の対面に座った。
「貴様、気は確かか? 密談にこのような場所を選ぶとはな」
「そう怒るな。良いか、周りを見てみよ。誰が我らに注目をしておるのじゃ。皆、酒と女に目がくらんでおるわ」
 ペドロは、部屋の中央にあるステージで扇情的な服で踊る女性を、舐めるような視線で眺めた。
「クフフ、良い店だろう。ここなら、頭の固い城の連中は来ぬし、酒を飲める。ほれ、何か飲むか。おごりじゃ」
「いらん。さっさと用件を済ませるぞ」
 ペドロはアルコールで茹で上がった頬を撫でると、男に聞こえるギリギリの声で本題に入った。
「実はな、一つ気がかりなことがあるんじゃ」
「気がかりだと?」
「ああ。よいか、エイトールめが、前に話した計画を実行に移しよったんじゃ。まあ、そりゃあどうでも良いわ。問題は、女王の側に狂乱の殺戮事件の英雄どもがおることだ」
「英雄?」
 男は眉をひそめた。狂乱の殺戮事件の話は知っているが、裁判とどう関係があるというのか。
 ペドロは、グラスの酒を一気に飲み干すと、ボトルから並々とおかわりを注ぎ込んだ。
「ヒック、そう厄介な英雄様よ。男と女の二人組じゃ。女は、あーたまらんほどええ女じゃ。そのうち、楽しませてもらうとしようぞ」
「貴様の欲望などどうでも良い。酒を飲む前にとっとと詳細を話せ」
 男はペドロのグラスを奪い取る。酒に酔った騎士団隊長は、不満をぶつけるようにテーブルをぺたぺたと叩くと、豪快なゲップを吐き出した。
「詳細といっても女王が話したがらんので、ワシもよくは知らん。が、狂乱の殺戮事件の首謀者を倒したらしいのう」
 ピクリと男は、フードの下に隠れた眉を動かした。
 ペドロは男の微妙な変化には気付かず、腹をさすった。
「あやつら二人は、ウトバルクにとって光の存在じゃ。民には知られておらぬが、一部の人間は知っておる。やれ素晴らしい方々だ、やれ神々しくもあるだと、大げさに言いふらす輩もおる有様じゃよ。
 そんな大層な奴らが、人気の女王陛下の傍にいるとなれば、後々わしらの計画に支障が出る恐れもある」
 男は、手で顎をさすり、思考する。……やがて、感情のない冷たい声で言った。
「俺が何とかしよう。お前は、これまで通り準備を進めておくと良い」
 ペドロは、腹をさらに強くさすった。
(こやつ、やはり得体が知れぬわ)
 ペドロの恐れを帯びた瞳を、男は思考の外に外す。
 色香とアルコールに酔いしれる空間でただ一人、狩りに臨む狩人の目で男は虚空を睨んだ。
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