25 / 32
第五章 水の守護者の願い⑨
しおりを挟む
手を伸ばし、黒羽の手を軽く握ってから彼女は眠りに落ちた。黒羽はそれを見届けてからアクア・ポセイドラゴンに尋ねてみた。
「彼女は、どうしてこんなにも辛い目に遭ったのに、人と寄りそう道を選ぶのでしょうか?」
アクア・ポセイドラゴンはすぐには答えず、よく考えた上で答えた。
「人が好きだからだろう。人は善と悪が入り混じっている。それを知っているからこそ、人の善なる心を信じ、兄とは違う道を選んだのかもしれぬ。さっきあやつは言っておったよ。永い眠りの間に、一時的に目を覚ます時があったと。その時、人の優しさに触れる機会も沢山あったようだ。サンクトゥスが選ぶ道が正しいのか、我には分からぬ。だがな、人はこの星に暮らす命の一つだ。我にとっては大切な命の同胞だ。それを皆殺しにしようとするカリムのやり方は見過ごせん。我はこやつの選択を喜ばしく思うよ」
「命の同胞……」
腹の底からジンとした感覚がした。種ではなく、生き物全ては仲間だという考え方なのだろう。(素晴らしい考えだな)と黒羽は思う。だが、
「では、あなたにとって、食べ物として口に含んだ生き物はどういう扱いなんですか?」
「フム。当然、命の同胞だ。生き物は他の生き物を犠牲にせんと生きられん。だが、カリムのように憎悪で殺しているのではない。自身が生き残るために、敬意を払って仕留め、そして食べているのだ。感謝し、自身の人生に責任をもって生きる。それが、血肉となった生き物に対する最大の弔いであり、生き物としてのあるべき姿だ。生きるための殺しと、感情で行う殺しは、結果は同じようであっても意味が大いに異なる」
黒羽は深く頷いた。
「食べ物に感謝して、責任をもって生きる。凄く共感できます」
「そうか」
一言だけ呟いた彼は、目を瞑った。恐らく眠るのだろう。黒羽も見習って、寝床へと向かった。笛のように美しい虫の鳴き声が響きわたる森は、こうして静かに更けていく。
「彼女は、どうしてこんなにも辛い目に遭ったのに、人と寄りそう道を選ぶのでしょうか?」
アクア・ポセイドラゴンはすぐには答えず、よく考えた上で答えた。
「人が好きだからだろう。人は善と悪が入り混じっている。それを知っているからこそ、人の善なる心を信じ、兄とは違う道を選んだのかもしれぬ。さっきあやつは言っておったよ。永い眠りの間に、一時的に目を覚ます時があったと。その時、人の優しさに触れる機会も沢山あったようだ。サンクトゥスが選ぶ道が正しいのか、我には分からぬ。だがな、人はこの星に暮らす命の一つだ。我にとっては大切な命の同胞だ。それを皆殺しにしようとするカリムのやり方は見過ごせん。我はこやつの選択を喜ばしく思うよ」
「命の同胞……」
腹の底からジンとした感覚がした。種ではなく、生き物全ては仲間だという考え方なのだろう。(素晴らしい考えだな)と黒羽は思う。だが、
「では、あなたにとって、食べ物として口に含んだ生き物はどういう扱いなんですか?」
「フム。当然、命の同胞だ。生き物は他の生き物を犠牲にせんと生きられん。だが、カリムのように憎悪で殺しているのではない。自身が生き残るために、敬意を払って仕留め、そして食べているのだ。感謝し、自身の人生に責任をもって生きる。それが、血肉となった生き物に対する最大の弔いであり、生き物としてのあるべき姿だ。生きるための殺しと、感情で行う殺しは、結果は同じようであっても意味が大いに異なる」
黒羽は深く頷いた。
「食べ物に感謝して、責任をもって生きる。凄く共感できます」
「そうか」
一言だけ呟いた彼は、目を瞑った。恐らく眠るのだろう。黒羽も見習って、寝床へと向かった。笛のように美しい虫の鳴き声が響きわたる森は、こうして静かに更けていく。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
鋼殻牙龍ドラグリヲ
南蛮蜥蜴
ファンタジー
歪なる怪物「害獣」の侵攻によって緩やかに滅びゆく世界にて、「アーマメントビースト」と呼ばれる兵器を操り、相棒のアンドロイド「カルマ」と共に戦いに明け暮れる主人公「真継雪兎」
ある日、彼はとある任務中に害獣に寄生され、身体を根本から造り替えられてしまう。 乗っ取られる危険を意識しつつも生きることを選んだ雪兎だったが、それが苦難の道のりの始まりだった。
次々と出現する凶悪な害獣達相手に、無双の機械龍「ドラグリヲ」が咆哮と共に牙を剥く。
延々と繰り返される殺戮と喪失の果てに、勇敢で臆病な青年を待ち受けるのは絶対的な破滅か、それともささやかな希望か。
※小説になろう、カクヨム、ノベプラでも掲載中です。
※挿絵は雨川真優(アメカワマユ)様@zgmf_x11dより頂きました。利用許可済です。
勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です
天野ハザマ
ファンタジー
その短い生涯を無価値と魔神に断じられた男、中島涼。
そんな男が転生したのは、剣と魔法の世界レムフィリア。
新しい職種は魔王。
業務内容は、勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事?
【アルファポリス様より書籍版1巻~10巻発売中です!】
新連載ウィルザード・サーガもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/375139834/149126713

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる