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第五章 水の守護者の願い⑨
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手を伸ばし、黒羽の手を軽く握ってから彼女は眠りに落ちた。黒羽はそれを見届けてからアクア・ポセイドラゴンに尋ねてみた。
「彼女は、どうしてこんなにも辛い目に遭ったのに、人と寄りそう道を選ぶのでしょうか?」
アクア・ポセイドラゴンはすぐには答えず、よく考えた上で答えた。
「人が好きだからだろう。人は善と悪が入り混じっている。それを知っているからこそ、人の善なる心を信じ、兄とは違う道を選んだのかもしれぬ。さっきあやつは言っておったよ。永い眠りの間に、一時的に目を覚ます時があったと。その時、人の優しさに触れる機会も沢山あったようだ。サンクトゥスが選ぶ道が正しいのか、我には分からぬ。だがな、人はこの星に暮らす命の一つだ。我にとっては大切な命の同胞だ。それを皆殺しにしようとするカリムのやり方は見過ごせん。我はこやつの選択を喜ばしく思うよ」
「命の同胞……」
腹の底からジンとした感覚がした。種ではなく、生き物全ては仲間だという考え方なのだろう。(素晴らしい考えだな)と黒羽は思う。だが、
「では、あなたにとって、食べ物として口に含んだ生き物はどういう扱いなんですか?」
「フム。当然、命の同胞だ。生き物は他の生き物を犠牲にせんと生きられん。だが、カリムのように憎悪で殺しているのではない。自身が生き残るために、敬意を払って仕留め、そして食べているのだ。感謝し、自身の人生に責任をもって生きる。それが、血肉となった生き物に対する最大の弔いであり、生き物としてのあるべき姿だ。生きるための殺しと、感情で行う殺しは、結果は同じようであっても意味が大いに異なる」
黒羽は深く頷いた。
「食べ物に感謝して、責任をもって生きる。凄く共感できます」
「そうか」
一言だけ呟いた彼は、目を瞑った。恐らく眠るのだろう。黒羽も見習って、寝床へと向かった。笛のように美しい虫の鳴き声が響きわたる森は、こうして静かに更けていく。
「彼女は、どうしてこんなにも辛い目に遭ったのに、人と寄りそう道を選ぶのでしょうか?」
アクア・ポセイドラゴンはすぐには答えず、よく考えた上で答えた。
「人が好きだからだろう。人は善と悪が入り混じっている。それを知っているからこそ、人の善なる心を信じ、兄とは違う道を選んだのかもしれぬ。さっきあやつは言っておったよ。永い眠りの間に、一時的に目を覚ます時があったと。その時、人の優しさに触れる機会も沢山あったようだ。サンクトゥスが選ぶ道が正しいのか、我には分からぬ。だがな、人はこの星に暮らす命の一つだ。我にとっては大切な命の同胞だ。それを皆殺しにしようとするカリムのやり方は見過ごせん。我はこやつの選択を喜ばしく思うよ」
「命の同胞……」
腹の底からジンとした感覚がした。種ではなく、生き物全ては仲間だという考え方なのだろう。(素晴らしい考えだな)と黒羽は思う。だが、
「では、あなたにとって、食べ物として口に含んだ生き物はどういう扱いなんですか?」
「フム。当然、命の同胞だ。生き物は他の生き物を犠牲にせんと生きられん。だが、カリムのように憎悪で殺しているのではない。自身が生き残るために、敬意を払って仕留め、そして食べているのだ。感謝し、自身の人生に責任をもって生きる。それが、血肉となった生き物に対する最大の弔いであり、生き物としてのあるべき姿だ。生きるための殺しと、感情で行う殺しは、結果は同じようであっても意味が大いに異なる」
黒羽は深く頷いた。
「食べ物に感謝して、責任をもって生きる。凄く共感できます」
「そうか」
一言だけ呟いた彼は、目を瞑った。恐らく眠るのだろう。黒羽も見習って、寝床へと向かった。笛のように美しい虫の鳴き声が響きわたる森は、こうして静かに更けていく。
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