98 / 98
29章 エピローグ・私の卒業式
98話 【エピローグ・3】 私だけの卒業証書
しおりを挟む「ほら、お二人ならあそこにいらっしゃいますよ」
お仕事が終わった様子の水谷さんが千佳ちゃんと一緒に歩いてくる。
「今日は本当にありがとうございました。何から何まで……」
「私にとって特別なお二人ですから。私たちスタッフもご主人から連絡を頂いて『あの模擬挙式を今度こそ本番でやれる!』って大興奮だったんですよ」
水谷さんは、今日の写真などの発送についての確認と同時に、驚く話をしてくれた。
「そ、そんな。いいんですか?!」
さっき返却したドレスをクリーニングしたあとで写真と一緒に送ってくれるというんだよ。
あの挙式モデルの時には新作の新品で、今回は保管されていたそれにもう一度私が袖を通して……。それを!?
「いいんです。あのモデル写真をご覧になって多くの方が選ばれました。でもあの一着だけは結花さん専用にしたかったんです。ここまで頑張られたお二人へチャペルからのプレゼントにさせてください」
水谷さんの目が潤んでいる。修学旅行の夜に出会って、先生と私の関係を知ってから忘れられなかったって。
あの模擬挙式の後、私たちがここで式を挙げると約束したときからチャペルの皆さんが心に決めてくれていたんだそう。
「ありがとうございます……」
「末永くお幸せに」
水谷さんが駐車場の方に歩いていくのを見送った。
「すっごぉい……。結花! 先生!」
この旅行で間違いなくMVPだった、その千佳ちゃんも話の流れに驚いていた。
「佐伯か。俺たちへのドッキリ作戦では大活躍だったそうじゃないか。お疲れさんだったな」
「あたしの親友の結婚式ですし。結花は……やっぱり誰よりも特別です」
今日は千佳ちゃんだけでなく、彼氏さんも一緒に二人で参列してくれた。それなら、彼女たちの時には私たちも二人で行かないとねと陽人さんと話していた。
「今日、結花と先生見て感動しちゃった。だからね、あたしたちも学校を出たら頑張ろうって決めたの。結花のブーケ、絶対に無駄にしないから」
「あのブーケトスの瞬間は気合い入ってたもんなぁ。俺の授業でもあのくらい真剣だったら嬉しかったんだが?」
「もう過ぎたことですから。それに重要の度合いが違います!」
ブーケトスは一番気合の入っていた千佳ちゃんが予想通りにガッチリとキャッチした。
でもね、よく考えればあの中で未婚の女性は千佳ちゃんだけなの。だから最終的には彼女のもとに回って来ることは分かっていたのだけれど、自分で取ってくれたのが嬉しい。
一番の大親友へ特別な幸せのおすそ分け。
「あたしも結花に負けないからね」
「うん、そう思ってくれたら良かった。ねぇ先生?」
「おまえら、いつまでもその呼び方やめてくれないかぁ?」
確かに私からの呼びかけも、「陽人さん」と今でも「先生」の両方をシチュエーションで使い分けている。
でもね……、
「いいえ。きっといつまでも、私たちの先生は先生なんです。でも意味があの当時と違います。教室で数学を教えてくれた担任の小島先生ではなくて、少し先の人生を教えてくれる陽人先生なんです」
そう、私に教えてくれたことは勉強だけじゃない。
目立たない一人の生徒。それも一度姿を消し、人生という舞台からの退場も目前だった私をここまで導いてくれた。人生の先輩……。いや、私にはやっぱり「先生」の方がしっくりくるよ。
「さすが結花も上手い。先生を落としただけのことはあるね。二人が学校からいなくなって大変だったんだから。デキてたんじゃないか、駆け落ちしたんじゃないかとか。あたしは全部知っていたけど、黙ってるの大変だったぁ!」
「こら佐伯、教師をからかうんじゃない」
「ほら。やっぱり先生ですよ!」
「おまえたち相手にしてたら変わらないな」
先生が笑って、千佳ちゃんも頭を下げて走って行った。
でもそれは本当だったと思う。あの状況から今日の日を迎えられるなんて誰が当時思っただろう。
「ねえ先生?」
「だから結花も……」
「ううん、違うの……」
言いかけた言葉は、私の唇で素早く吸い取った。
「陽人先生。私の進路志望、諦めないでよかった。あなたに逢えて、よかった……」
「俺もだ。結花に出逢えて、よかったよ。これからも、よろしくな」
「はい……。今度こそ約束します。いつまでも一緒です」
夕陽が沈んだあとの満天の星空の下、私は「小島結花」という最高の卒業証書を心に受け取って、暖かい腕の中で小さく肯いた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
『♡ Kyoko Love ♡』☆『 LOVE YOU!』のスピン・オフ 最後のほうで香のその後が書かれています。
設樂理沙
ライト文芸
過去、付き合う相手が切れたことがほぼない
くらい、見た目も内面もチャーミングな石川恭子。
結婚なんてあまり興味なく生きてきたが、周囲の素敵な女性たちに
感化され、意識が変わっていくアラフォー女子のお話。
ゆるい展開ですが、読んで頂けましたら幸いです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
亀卦川康之との付き合いを止めた恭子の、その後の♡*♥Love Romance♥*♡
お楽しみください。
不定期更新とさせていただきますが基本今回は午後6時前後
に更新してゆく予定にしています。
♡画像はILLUSTRATION STORE様有償画像
(許可をいただき加工しています)
紅き狼の鎮魂歌
鏡野ゆう
ライト文芸
小説家になろうで回ってきた創作文章/御題バトン【壱】を元に作る超短編の連作をまとめました。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/361399/blogkey/780453/
・創作文章/御題バトン【壱】
このバトンは言葉の後に続くものを書いて文章や御題を作るものになります。
長かったり短かったりお好きにどうぞ!
作ったものはそのまま創作の題材として是非お使いくださいませっ
-------
(1)花なき日の雪の中 → 足元に散るは赤き花。
(2)本当の理由は → 我の心の中にのみ眠る。
(3)手をのばした先にあるもの → 希望か絶望か神のみぞ知る。
(4)静かな想いにさそわれて → 辿り着くは君の腕の中。
(5)ただ君が気付かないだけで → 真実は目の前に佇む。
(6)不確かなもの → それは明日への希望。
(7)花咲く季節 → それは遠く険しく。
(8)もう何もいらない → 胸に抱くは君の笑顔。
(9)無邪気すぎた約束 → 今は遠き夢の如く。
(10)星のような花びらの雨 → 涙の如く、我が身に降り注ぐ。
(11)言い出せなかった、 → 君への想い。
(12)忘れてゆく大事なこと → 子供の頃の無邪気さよ。
(13)守りたいものがある、だから僕は → この手に武器を取る。
(14)花びらはただ波に散りゆく → そして海を越え、君の待つ浜辺へ。
(15)差しのべた手 → 君をすり抜けていく悲しさ。
(16)きみのとなり → 幼き我が子を夢見る。
(17)風の中でたなびいたひとつの言葉 → 愛の言葉。
(18)全てが嘘のように → 静けさに沈んでいく。
(19)今夜君だけに誓うよ → 永遠に愛することを。
(20)久しぶりに君の声を聞いた → 遙か遠い空の元で。
※自サイト、小説家になろうでも公開中※
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ただ美しく……
桐条京介
ライト文芸
奪われるだけの人生なんてたくさんだ!
他者より容姿が劣ってると言われながらも、自分は自分だと人生を歩んできた東雲杏理。けれど、そんな彼女のささやかな幸せが無残に壊される。
幸せな人生を送るためには、美しくなるしかない。そんなふうに考えた杏理は、親友や家族とも離れて、整形という道を選ぶ。
度重なる試練の果てに、最高の美しさを追い求める杏理。そんな彼女の前に、自分を傷つけた人々が現れる。ひとりひとりに復讐し、過去の恨みを晴らすと同時に、杏理は新たな自分へと変わっていく。
そんな彼女が、最後に見つけたものは――。
※小説家になろう他との重複投稿作品です。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
正夢
irinn
ライト文芸
2025年12月5日に東京で大地震が起こる。その規模は未だかつてないもので大量の犠牲者が出る。
福田蒼空は自身の特殊能力である「正夢」で東京に大地震が起こる1ヶ月以上前の11月1日に察知し、どうすれば対策することができるのか、
試行錯誤する。
ツキヒメエホン ~Four deaths, four stories~ 第一部
海獺屋ぼの
ライト文芸
京極月姫(キョウゴクルナ)は高校を卒業してから、地元の町役場に就職して忙しい毎日を送っていた。
彼女の父親は蒸発していたが、ある日無残な姿となって発見される。そしてこれが彼女の人生の分岐点になった……。
泉聖子は女性刑事として千葉県警に勤めていた。ある日、外房で発生した水死体発見事件の捜査を行うことになった。その事件を捜査していくと、聖子が過去に出会った未解決事件との類似点が見つかった……。
長編小説『月の女神と夜の女王』の正式続編。
※一部のため、こちらでは完結しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる