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20章 お土産は指輪ひとつだけ
68話 これだけ…いいですか
しおりを挟む車を先に空港に戻し、荷物をチェックインカウンターに預けて市街地に戻った。
これなら搭乗手続きの猶予時間を気にせずに戻ってこられる。
「先生、さっき水谷さんからなんて言われていたんですか?」
「ん? もう学生じゃない立派な女性だから、幸せにしてやってくれとさ」
自分で言うのもなんだか恥ずかしい。
でもそれが本当のことだろうし、これからの自分の役目だ。
「そうでしたか……。帰ったらみんな夢だったなんてこと、ないですよね……?」
「俺もそれだけはごめんだ」
まさかこの3日間が夢オチだなんてことは俺だって考えたくない。
もちろん結花にはそれ以上の思い出もたくさんもあるだろうから。
「生徒のファーストキスもらって、逃げちゃダメですよ?」
「原田、それを何も知らない他の人が聞いたら絶対に誤解するぞ? やめてくれぇ」
二人で手をつなぎながら、国際通りに並ぶ土産物店を見て回る。
俺の職場や結花も菜都実さんたちに渡すというものは先にホテルから発送してしまっているから、自分たち用のお土産を探しているとき、原田がふと足を止めた。
「どうした?」
「素敵です……」
珊瑚で作られたアクセサリーのお店だった。
その中で、ホワイトの珊瑚と水色のガラスを組み合わせて作られた指輪を見つけた。
「気に入ったなら遠慮しなくていいぞ。サイズはどうだ?」
原田が最初どの指に付けるのかを見ていたが、迷うことなく左手の薬指に持って行った。
「おいおい」
「男性除けですよ。普段は中指でもサイズ変わりませんし」
ユーフォリアでの結花のシフトを聞いてくるお客までいるという話を聞くと、男性除けというのも話は分かる。
「男除けって……なぁ……。ただ、その指はもっと大切なときに取っておけ!」
「それもそうですね。でも、指自体は私の中では予約済みです」
「今はそれでいい」
右手の同じ指にはめてもサイズ的には問題なかった。
急いでスマホで検索してみると、右手の薬指に付ける指輪は「恋人の存在」を表すのだそうで、ある意味男除けにもちょうどいい。
「でも。ちょっと、お小遣いでというにはお値段が……」
確かに高校生の手持ちとしては少し価格が上振れしている。
もしこれが本当に学校行事の修学旅行や卒業旅行だったら、さすがにひとりだけ救済ということはできなかっただろう。
でも、いまは『俺たちの卒業旅行』だ。
「また欲しくなって、あの時に買っておけばよかったと後悔するくらいなら、値段は気にするな」
「では……。他は要らないのでこれだけ……足りない分を助けていただいてもいいですか?」
最初は俺がプレゼントとして出すと告げたが、彼女も自分が欲しがってしまったものだからと譲らない。
「じゃぁ、ここに二人で来た思い出ということで、半分でどうだ?」
「はい……。ありがとうございます」
そんな折衷案でお互いに決着をつけ、それを包んでもらい空港に引き返した。
「先生、ありがとうございました」
会計のときに驚いた。
指輪とはいえお土産としての簡易な包装かと思っていたら、きちんとビロード貼りのリングケースに入れてくれた。
それが入った紙袋を大事そうに抱えている結花。
「本当にそれだけでいいのか? 空港でも探していいんだぞ?」
「これひとつで十分満足です。これを見れば特別な卒業旅行をはっきり思い出せますから」
その顔を見ていれば、無理をしているようには見えない。
その表情にこれ以上の質問は不要だ。
「よかった。原田がそれだけ満足しているなら、一緒に来た甲斐があったよ」
「何度も言ってしまいましたけど、この旅行のこと、私は絶対に忘れられません」
いろいろあったこの3日間で疲れたのだろう。
飛行機が飛び立って雲の上に上がってしまうと、飲み物も頼まずに目を閉じた結花。
シートを倒してやると顔をこちらに向けた。
そう、本当は2年前にも俺はこれが見たかったんだ。
その幸せそうな寝顔が俺の最高の土産になった。
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