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20章 ふたりの先生
第72話 あの『ゆか先生』がここに!
しおりを挟むあれから1週間後、私はキャリーケースを引きながら、同じ市内にある施設を訪れた。
「失礼します……」
「はい。あらっ? 図書館の……」
「えっ!」
私を迎えに出てくれたのは、図書館で小さな子どもたちに囲まれていた、あの『ゆか先生』だった。
「あの……、今日からお世話になります。松本花菜です……」
「こちらこそ取り乱して大変失礼しました。申し遅れました。児童福祉施設珠実園、支援員の小島結花です。松本さん、どうぞこちらへ」
結花先生に連れられて、私は園長室に通された。
「この度はご愁傷さまでした。茜音先生、お部屋の鍵を用意してもらえますか?」
「はい」
園長の松木健さん、そして奥さまの茜音さんが副園長を務めているこの珠実園という施設は、私のような理由で孤独になってしまったり、なんらかの理由で一緒に暮らせなくなってしまった子たちを保護する施設と、地域の保育園と子育て支援センターのような役目を併せ持っている。
先日の図書館で結花先生と一緒に来ていたのはここの子どもたちだったんだと納得した。
「図書館で……、なんて覚えていてくださったんですか?」
「もちろん! 名前は図書館で教わっていたから、もしかして同じ子かなって思っていたの。一目見て『素敵な子だな』ってのが感想だったな。事情は伺っていてお気の毒としか言えないのが、私ももどかしいのだけど、今日からいつでも会えると思ったら。なんでも頼ってね」
「まぁ、二人とももう知り合いだったのね。結花ちゃん、もっと早くそれを言いなさいって」
鍵を持っていた茜音先生だけど、その事で咎めたりはせずに、柔らかく微笑んでいる。
この雰囲気に、区役所の担当さんがここを勧めてくれた理由が分かった気がする。
結花先生は、もちろん私の事情は知っているのだけど、そこで同情するのではなく、年の離れたお姉さんのように私をふんわりと包んでくれた。
これが結花先生のやり方なんだって。だからこそ複雑な事情を持った小さな子たちがあんなに懐くのだとようやく謎が解けた。
そう、結花先生が言ってくれたように私も結花先生に相談したいことはたくさんある。もう「来てくれないかな」と図書館で待つ必要はないんだ。
年齢が小さいと何人かで共同生活になるのだけど、高校生ともなると小さな個室を使わせてもらえると部屋に向かいながら教えてくれる。
共同で使う食堂や、手洗い、浴室などはみんなで手分けをして掃除をしたりする。高校生になればアルバイトなども事前に届けておけば構わないから、私の図書館でのお仕事継続も最初からOKになっていた。
結花先生と茜音先生に案内してもらったのは、遠くに海が見える小部屋だった。先に送ってあった荷物もすでに入れてもらっていた。
「夕ご飯の時に、みんなに紹介したいんですけと、いいですか?」
「は、はい」
時間まで荷物の整理をすることにして、部屋の中でふたたび一人になった。
この1週間、いろいろなことがあって、あっという間に過ぎた。
長谷川先生にも、そのお母さんにも本当にお世話になった。
私は忌引きでお休みだったけど、先生も学校を休んで一緒に区役所などを回ってくれたお陰でこんなに早くことが進んだんだ。
今日からこの施設が私のしばらくの住まいになる。
いつまでも泣いているわけにはいかない。だって……、
「花菜ちゃん、迎えに行けるまでの時間、ここでもう少し待っていてくれ。それまでお互い辛抱だ」
「うん」
先生は……、ううん、お兄ちゃんとしてもう一度約束してくれたのだから。
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