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17章 荒療治と個人面談
第61話 花菜のリクエストは
しおりを挟む夜中、ふと寒さに気づいて目を覚ました。
隣には無防備な顔が小さく微笑んで寝息を立てている。前日と違って、今日は布団を並べたからその寝顔が近くにある。
あの日の夢が、とうとう現実になった。
『悪夢じゃないよ。私がお願いしたんだもん』
もちろん小学生ではないし、嫌がっていたどころか気持ちが重なった上でのこと。
花菜が言ったとおり、彼女の初めてのキスは半分無理矢理にもらってしまったかもしれない。それでも嬉しいと笑ってくれた。
しかし結局、そのキスの先に予想していたような大人への階段を上ることはなかった。
彼女を抱きしめたとき、俺は彼女の身体の硬さと不自然な火照りを感じた。緊張しているのか。いや違う。これはその場の緊張から来ているものではない。
俺はふと思い出した。そうだ、昼間の原因はこれかと。これなら俺にでも少しは手伝ってやることができそうだ。
「花菜ちゃん、悪いけどもう一度温泉に入りに行こう」
「はい……? うん、いいよ」
壁の時計を見るとまだ10時半過ぎ、12時まで大浴場が開いているはずだ。一度夢の中に入りかけたところを現実に戻されて、不思議そうな顔をした彼女の浴衣を直し、一緒に大浴場まで連れていく。
「時間までゆっくり温まっておいで」
「うん」
他には誰もいない。浴槽へ掛け流しのお湯の音だけが不規則なリズムを刻んでいる。
お湯に入って上を見ると、隣の女湯とを隔てる壁は天井に届いていない。窓上の時計は両方から見られるくらいだ。これなら声で様子もわかるだろう。
そこに扉の音がして桶の音と水音が続いた。彼女がかけ湯をしているみたいだ。
すぐに、それもやんでまた静かになった。
「お兄ちゃん……いる?」
花菜もこの大浴場の構造に気づいたようだ。天井に反射した声がこちらまで聞こえてくる。
「花菜ちゃん、そっち一人か?」
「うん、誰もいない」
こんな時間だ。今日のお客は俺達の他には家族連れの二組だというから、この時間にはみんな部屋に入ってしまっているだろう。
「急にごめんな。いきなりまた風呂だなんて」
「大丈夫。ご飯のあと窓を開けてはしゃいじゃったから。ねぇ今度またこういうふうに旅行に行けるとしたら……」
「リクエストあるのか?」
「今度は、一緒にお風呂に入れるところがいいな。昔みたいに背中とか流しっこしたい」
花菜のお母さんが仕事で遅くなるときは、よくうちで夕食とお風呂まで済ませていたっけ。それも彼女が小学生低学年の頃は一緒に入ったりもしたもんだ。
さっき、花菜は俺の手を彼女の膨らみの上に直に置いた。小学生でお風呂場のときの感触とはもう違う。その意味は彼女も分かっているはず。それでも安心したように大きく息を吐き出したのを覚えている。
「そうだな……。また何度でも行けるよ」
「やった。連れて行ってね」
そうだ。こうやって奇跡のように彼女と再会できたし、当時の面影も俺と二人だけの時だけだとしても取り戻せた。機会はこれから何度でも作ればいい。
「分かった。約束するよ」
「うん……」
それ以上の会話はなかったけれど、花菜が泣き笑いの顔をしていると、その時の俺には確信があった……。
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