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13章 夕立の思い出
第48話 休暇に来たわけじゃないのに
しおりを挟むまだ晴れていたけれど、午後は天気が崩れるという予報だったから、何度も空を見上げてしまう。
「どうせ午後は雨だ。お昼を食べてから、部屋に戻って今日中に仕事をやってしまおう」
「はい」
ふたたび帽子をかぶって先生と二人で海岸沿いの道を歩く。
「本当は靴も買ってあげたかったんだけど、いいのが無かった。ごめんな」
服は変わったけれど、足下だけは学校で普通に履いているローファー。でも、こういう服装なら十分にあわせられるし、履き慣れているから靴擦れで痛い思いをする心配もない。
「いいえ、十分すぎです。知られたらお母さんに怒られちゃいます」
「そんなことはない。知人の女の子にプレゼントするのは誰でもやることだろう」
海岸のベンチに座って海を見ていた。こんなゆったりした気持ちで座るなんて、前回はいつだっただろう。
白い砂浜に真っ青な海。真夏のスカイブルーに入道雲が立ち上がっている。
「あの雲、午後は降りそうですね」
「そうだな。雨の中なら仕事をしていても悔しくない」
そうだよ、ここにはただ遊びに来たわけじゃない。さっきの変身で私自身もすっかり休暇モードになってしまった。いけないいけない。
「そうですね。五十嵐くんの原稿はほとんど完成しています。凄いですね。オリジナルであんな物語を書けるなんて」
「そうか。俺まだ見てないんだ。松本がそう言うなら間違いないんだろう」
五十嵐くんの原稿は昨日のうちにメールに添付された形で夏紀先輩と私のところに届いていた。
まだじっくり読み込んでいないけれど、青春恋愛のジャンルとしてはかなりの完成度だと思う。
ただ、それを脚本としてアレンジしていくにはまた別の視点が必要になる。
本当は先生を入れて四人でその作業をする予定だった。
とりあえず、今日はもう一度それを読み直して、脚本に直していくのは学校に戻ってからでも間に合うかな。
「昼飯は頼んでないから、食べてから戻ろう」
「はい」
一度バス通りに戻って、先生の行きつけだという地元の定食屋さんでお昼ご飯を頂くことにした。
「あれ、啓太くんじゃないか。またおばさんとこに泊まりに来たな? 今度は何があった? それにこの可愛い子は誰だ?」
お店のご主人も先生のことを知っている。その様子だと何度もこの地を訪れているのだろう。
「今回は学校の部活合宿ですよ。この子は松本花菜さん。自分の担当する文芸部の部員です」
「そうか。今年から教師になったって聞いてたな。そうか、もしかして『あの子』か! しっかりしてそうないい子じゃないか」
「おじさん、頼みますよ。一応ここじゃ引率の教師と生徒なんですから。その素性には否定はしませんが」
注文を取り終えて厨房に戻ったのを見て、先生をジト目で見る。
「一体どこまで話が広まってるんですか? あのご主人はすぐに私の正体を見抜いたみたいですし」
「うちの旅館とここの親父さんは知ってるよ。……松本と離れてから……、俺は暫く荒れていて、あの旅館とここの店にはずいぶん世話になっていたんだ。ここなら俺達の当時の関係を知っている人はいないし、昔から信頼できる人たちだ。そうだな、そういうことも話しておかないとな」
「そういうことだったんですね。ちょっとヒヤヒヤしましたよ」
その後は他のお客さんが入ったので、何事もなかったように昼食を済ませた私たちは、旅館への道を辿りはじめた。
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