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1章 泣かない約束
第4話 みんなには言えない生活
しおりを挟む駅までの通りは川沿いの桜並木になっていて、私のちょっとした散歩道になっている。
松本花菜、県立高校に通う、今日で1年生が終わった16歳。
この1年が過ぎて、どこと言った特段の特徴がないのが私の特徴かもしれない。
勉強はお仕事をしているからと言われたくなくてなんとかレベルを維持している。運動は昔は男子と互角に勝負できたけれど、今ではその過去は封印している。
高校生になったからといって、特に目立つメイクもしていないし、髪の毛だって地毛の黒いまま背中まで下ろしている。
公立校ということもあり、制服も昔から変わらないオーソドックスなブレザー。種類が増えすぎている私立校と比べて逆に今はレアだと人気が出ているようだけど……。
唯一の特徴といえば、左耳横にある一部を細い三つ編みにしてアクセントとしている程度。これなら百円でヘアゴムを買ってくるだけでできる。そんなところだから、時々教室で見るティーンズファッション雑誌などに載っている読者モデルなどのような華美なものは出来なくて、あくまで清潔感を保つことにしている。
図書館のお仕事でも、今日の放課後のようなこともよく起こるからお母さん達には派手さよりも清潔感の方が受けが良い。そもそもが同級生と遊ぶということもほとんどない。
本当に一部の例外を除いて「広く薄い人間関係」というのが、みんなの私に対するイメージだと思う。それでいて、宿題などが分からなければ、こんな私にも聞いてくる。不思議なものだ……。でも、そのくらいでちょうどいい。
それで本当にいいのか……。正直なところ私自身でも分からない。
でも、小さい頃から母子家庭で育った私は、こんな日常が当たり前で……。
図書館のアルバイト代が入るようになって、文房具などを使いやすいものに買い替えたりしているのが、ちょっとした贅沢だと思っている。
高校も地元の学校だから毎日の徒歩通学。
だけど、下校の時は改札前を抜けていく。その方が買い物をするスーパーに近くて便利だから。
お菓子などのコーナーには目もくれず、生鮮食料品の特売品のタグを見ながら、その材料で手早く作れる夕食のメニューを考えてレジに並んだ。
「お母さん、ただいま」
「花菜、おかえり」
お母さんは、このお店のレジ担当で働いている。だから夕食の買い出しの時の方が「ただいま」と言うタイミングが早いの。
「お母さん、今日は早く上がれそう?」
「そうね、なるべく早く帰るようにするから」
「うん、じゃあ、作って待ってるね」
お母さんはレジ打ちの手を休めずに会計済みの品を、いつも持っているエコバッグに入れてくれた。
「気を付けて帰るのよ?」
「うん」
お店から歩いて10分ほどの小さなアパートの一室が生まれ育った私の家。外階段を上がって、2階の部屋の鍵を開ける。
暗い室内の明かりを付けて、ダイニングテーブルの上に買ってきたものを広げて、今すぐ使わないものは手早く冷蔵庫に。
制服の上から再びエプロン姿になってからは、いつもの流れ作業だ。
お風呂の湯張りスイッチをつけて、炊飯器の「炊飯」ボタンを押す。
買ってきた材料をパックから出して手早く炒め物を作りながらみそ汁も仕上げてしまおう。
我ながら帰宅して15分でここまでやってしまうのは慣れも大きいと思う。本当はちゃんと時間をかけて美味しいと言ってもらえるものを作りたいのだけど、材料も時間も足りないというのが本当のところで……。
干してあった洗濯物を収納に片付けて、キッチン周りの片づけも済ませると、あとはごはんを炊いて、お母さんの帰りを待つだけだ。
これで帰宅後の私の役目は一段落。
デスクライトをひとつだけ点けて宿題を始めた。
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