恋の絆は虹の色 【妹でも恋していい?】

小林汐希

文字の大きさ
上 下
27 / 33
【第2章】その涙と笑顔が嬉しくて…

27話 ある日の朝のお話

しおりを挟む



 軽井沢の森の中にあるホテルのレストランで朝食を終えた後、秀一さんはしきりに時計を気にしていた。

「秀一さん、どうしました?」

「あっ、桜。ノーメイクでいてくれないか? まもなく迎えが来るはずなんだけど」

「え? お迎え? 余計にお化粧しておかないと?」

 そんな。お迎えだなんて、どこかに出るのならきちんと支度しておかなくちゃ……。そう反論しようとしたとき、部屋のドアがノックされた。

「おはようございます」

「お世話になります」

 部屋の前に、車イスを持ってきてくれたスタッフさんに挨拶をする秀一さん。

「奥さまですね、こちらにお座り頂けますか? お連れします」

「えっ? これに座るの? 私歩けるよ?」

 ケガをしているわけじゃないんだけどな……。言われるがまま車イスに座る。

「ごめんな桜。悪いけど、いいと言うまで外すなよ?」

 ただでさえ怪しいのに、さらに私の目にアイマスクを着けて視界を遮る徹底ぶり。

「どこに行くの?」

「いいとこ」

「もぉ……、悪戯ばっかり……」

 少々拗ねた声を出して反論してみると、秀一さんは私の手を握ってくれた。

 車イスは大きく揺れることなく進んでいく。

「岩雄さま、おはようございます。まずこちらへ」

 見えないけれど、感覚では別の建物の中に入って、待っていたスタッフさんが出迎えてくれたみたい。

「まだ、何も?」

「はい」

「秀一さん、何を考えているか分からないです」

 何もって、こんなことになるなんて前もって話しておいてくれてもいいのに……。

「もう分かる。あと10秒待て」

 拗ねている私の車イスを秀一さんが押して部屋の中に入ったみたいで、後ろで扉が閉まる音がした。

「悪かったな桜。もう取っていいぞ」

「もぉ……、素っぴんで恥ずかしいんだからぁ……」

 こんな人前に出るのにメイクもしていないなんて……。

「化粧されていたらダメなんだ」

「えっ?」

 アイマスクをとって顔を上げた瞬間、私の動きがピタリと止まった。

「うそ……」

「ご結婚おめでとうございます。岩雄桜さま」

 部屋の中には、数名のスタッフが並んでいてくれた。

 そして、部屋の中心に立っていたのは、純白のウエディングドレス。

「本日、挙式を担当させていただきますブライダルスタッフです。よろしくお願いいたします」

「朝からごめんな桜。こういうことだ。最初から言っていたらきっと反対していただろう?」

「秀一さん……、私……」

 ドレスの前でペタンと座り込んで、秀一さんを見上げた私の顔には涙の筋が出来ていた。

「何度か喉まで出かかったんだけど、台無しになっちまうから堪えるの大変だったぜ。早く着替えて始めよう」

「さぁ花嫁さん、泣いていると目が腫れちゃいますよ」

 そう言われて、私はドレス横のドレッサー前の椅子に座らされたんだ……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

うちでのサンタさん

うてな
ライト文芸
【クリスマスなので書いてみました。】  僕には人並み外れた、ある能力を持っていた。 それは『物なら一瞬にして生成できてしまう』能力だ。 その能力があれば金さえも一瞬で作れてしまう、正に万能な能力だった。 そして僕はその能力を使って毎年、昔に世話になった孤児院の子供達にプレゼントを送っている。 今年も例年通りにサンタ役を買って出たんだけど…。 僕の能力では到底叶えられない、そんな願いを受け取ってしまう…  僕と、一人の男の子の クリスマスストーリー。

受けさせたい兄と受けたくない妹(フリー台本)

ライト文芸
受験生になった妹がインフルエンザの予防接種を受けに行くことになったが

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...