恋の絆は虹の色 【妹でも恋していい?】

小林汐希

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【第1章】初めて、恋を始めます

26話 平凡だけど私の幸せ

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 その1週間後、今年の桜の開花発表が出た日に、私たちはお店を再開店させた。

「これからも、変わらず頑張っていきます。よろしくお願いしますね」

 新しくした看板の前、秀一さんと私は、また新しい一歩を歩きだした。

「さて、今日から新しい出発だな」

「今月はそんなのばっかりですよ。秀一さん」

 お店に降りていくと、すでに店の前は商店街のみんなと、いつも記事を書いてくれていた出版社の担当さんなどで埋まっていた。

「お、桜ちゃん、おめでとう続きだね!」

 今日は、新装『さくら』の開店日。

「二代目、しっかりしろよ!」

 商店街での秀一さんの呼び名は「秀一」から「二代目」にすっかり変わっている。最初はそれに戸惑いもあった秀一さんも、商店街のみんなから謙遜するなと言われて、結局ありがたく頂戴することにしたんだって。




「お疲れさん」

「お疲れさまでしたぁ」

  外に出してあった立て看板をしまい、ドアにぶら下げてある表示を準備中にして、店内の照明を落とす。

 私は、このお店で一番気に入っている奥の窓際のテーブルに二人分の食器をセットした。

「桜の好きなクリームコロッケ残しておいたよ」

「ありがとう」

 初日から上々だったのは、商店街のみんなが盛んに宣伝してくれたし、お父さんの常連さんもたくさん戻ってきてくれて、「これなら合格だ」と太鼓判を押してくれたから。

「秀一さん、みんなまた来てくれるって。良かったです」

「やっぱり不安だったよな」

 もちろん、不安もある。だけど……

「大丈夫。お兄ちゃんと一緒に頑張るって、あの日、お父さんに誓いました」

「久しぶりだな。桜にそう呼んでもらうの」

 私にとって、やっと結ばれた大切な旦那様。その人は幼い頃からずっと私を見ていてくれた、大好きなお兄ちゃん。

「また、弱虫な私になっちゃうかもしれません」

「その時は、一緒に泣いて、また一緒に笑うんだ。いつものとおりだろ?」

「うん」

 幼い頃、いつも疲れておんぶしてもらった背中。どこかに行ってしまわないかと一生懸命に追いかけた。

 卒業式の前の日、たった一枚の紙に名前を書くだけだったのに。これまでのことが思い出されて手が震えて涙が出た。

 もう、メソメソしながら追いかける必要はない。私の帰る場所はすぐ隣にいてくれるのだから。

「秀一さん……」

 私はその背中にぎゅっと抱き付いて顔を埋める。

「ん?」

「私、幸せです。もう少し落ち着いたら……」

 そこで顔が赤くなって、言葉が止まってしまう。

「落ち着いたら?」

 秀一さんからは、私の赤い顔は見えていない。

「……夫婦から、家族になりましょうね」

「そうだな。俺はやっぱり桜みたいな可愛い女の子がいいなぁ」

「私は頼りになる男の子がいいです」

 きっと、それは遠い未来ではないかもしれない。このお店の名前だって、両親が結婚、お店を持ってすぐに生まれた私から付けたんだもの。

 男の子でも女の子でもどちらでもいい。家族みんなで楽しく暮らしていく。

 平凡かもしれないけど、好きな人の隣にいられる。それが私の幸せなんだと気付いたんだ。

「お風呂、用意しますね」

「俺はお皿片付けちゃうか。なあ、桜?」

「はい?」

「最近、忙しくてさ。桜に『おやすみ』が言えてない。今夜一緒に寝ないか?」

 もう、明日も朝から仕込みだっていうのに。でも、私も同じ気持ち。

「うん、いいよ。早く片付けてきてね」

 最後まで残しておいたテーブルのランプを吹き消してカーテンを下ろす。

 以前から使っていた私専用のエプロンを外しカウンターにかけ、秀一さんの前に戻った。

「もう、甘えても誰にも言われることはありません」

 精いっぱいの背伸びをして、キスを済ませる。

「お部屋で待ってますね」

 頷いて答える秀一さんに見送られて、私は階段を上っていった。
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