恋の絆は虹の色 【妹でも恋していい?】

小林汐希

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【第1章】初めて、恋を始めます

24話 ふたつのさくら

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 お父さんが入院中、お店はお母さんがパン屋さんとして維持していた。

 もともと、お客さんからのそういった需要も多かったから、喜んではもらえたけど。いつまで続けていけるかはお母さんも話してはくれなかった。

 それと同時に、家の中が少しずつ片付けられていくのを見て、いつ何を言われてもいいように、心構えだけはしていた。

「桜、秀一くん。お昼から時間あるかしら?」

 お母さんの手伝いで、お店まわりの掃除をしていた私たち。

「うん、大丈夫だよ」

「俺も平気です」

「お父さんが呼んでるのよ。二人で来てほしいって」

「えっ?」

 お兄ちゃんにも緊張が走る。ついに言い渡されるのか。

 でも、あの日から1ヶ月。

 あの日の夜、その後も心も身体も重ねあった。大丈夫。もう、決心と覚悟はできている。



 病室に入ると、お父さんは機嫌よく私たち三人を迎えてくれた。

 幸い、大きな後遺症は残らなかったけど、やはりこれまでのように何時間も立ち仕事を続けて行くことは厳しいということ。これから少しずつリハビリも始めるんだって。

 きっとそのことで、私たち二人が離れることを詫びてくるのだろう。



「秀一くん、桜も。学校祭は本当にお疲れさんだった。何にも手伝えずに申し訳なかった」

 お父さんは、ベッドの上に自分で座って、私たちに頭を下げた。

「あの店をどうするか、ずっと考えてきた。一時は閉めることも考えた」

 お兄ちゃんが、私の手をぎゅっと握る。

「だが、二人が立派に学校祭でうちの料理を出し続けた。もちろん味も確かめさせてもらったよ。こんな短い時間に立派に仕上げたもんだ」

 そうか、お弁当にして持ち帰りもできたから、誰かが運んできたに違いない。

「あれだけ出来れば、もう心配はない……」

「どういうこと……」



 私の問いかけに、お父さんは息をついた。

「秀一くん、本当にいいのかな?」

「はい」

「では、秀一くんには、二つの木を託そう。ひとつは『さくら』のお店で、もうひとつはこの桜だ。まだ子供かもしれないが、君にこの先をお願いしたい」

「えっ?」

「お父さん?」

 お店のことは、何度も話し合ってきたみたいだ。どちらかと言えば、私のことまでお父さんが話を進めたことに、私たち二人は驚いた。

「桜、お前は秀一くんと二人でやっていけるか?」

「……うん。お兄ちゃんとなら、頑張れる」

「なら、話は決まったな」

 お母さんはこの話の補足をしてくれた。

 お兄ちゃんが『さくら』を継ぐことは、暫く前から本格的に話し合いがあったみたい。ただ私が高校生という事で、お兄ちゃんと一緒に続けるのか、それとも進学するのかを見極めていたのだと。

 そう言えば、先月の進路調査で私は進学を取り止めた。その時はこんなことは想定してなくて、お父さんが大変なときにお店をこれまで以上に手伝うという考えだった。

 それが決まったことで、お父さんとお母さんはお兄ちゃんと私に『さくら』を任せて、二人は隠居するというプランを進めることにしたんだって。

 そこで、私たちの結婚についても、私の卒業を待たずに許しを出したということだった。

「お兄ちゃん、お仕事はどうするの……? お兄ちゃんのご両親だって、いきなりは許してくれないでしょう?」

「それがさ……」

 お兄ちゃんが笑っていた。

「うちの親はそれでいいんだとさ。桜と一緒ならそっちの方がいいんじゃないかって。仕事の方はキリがいいところで片付けるよ」

「えぇ??」

「だから桜、離れることは無くなったんだ。ずっと桜と一緒だ」

 混乱していた頭に、一番聞きたかった言葉が入ってくる。

「お兄ちゃん……。私は離れなくていいの? お兄ちゃんと一緒にいていいの?」

 お父さんもお母さんも頷いてくれた。

「今すぐ桜を幸せにしてやるとはまだ自信持って言えないけど、一緒に頑張って、二人で歩いていかないか?」

「うん! 頑張る! まだまだ未熟者ですが、お願いします」

 ここが病室で、両親が見守っていることも忘れて、私はお兄ちゃんの胸に飛び込んだ。
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