恋の絆は虹の色 【妹でも恋していい?】

小林汐希

文字の大きさ
上 下
21 / 33
【第1章】初めて、恋を始めます

21話 遊んでもらったお姉さんだなんて!

しおりを挟む



「桃葉さん。どうしてこちらに?」

 私は桃葉さんの登場に、どう反応してよいのかわからなかった。

 今の調理室には私一人だったから……。

 でもね、桃葉さんからは私に対する敵意などは全然感じられなかったんだよ。

「桜ちゃん、2日間大変だったんですってね」

「は、はいぃ……」

 そこに、着替えを終えたお兄ちゃんが戻ってきた。

「桃葉……」

「ちょうどよかった。さっき、お家の方にご挨拶に行ってきたの。これまでいろいろとご迷惑をかけてしまいましたって」

 どういうことなのだろう。もし、恋人関係が破綻したとしてもお兄ちゃんたちは大人だからそこに他の人が介入する必要はないはず。

「そうしたらね、高校の学校祭に二人が行っているってお話を聞いて、ちょうどいいかなって。私ね、地元に戻ることになったの。そのお引越しのご挨拶ってやつかな」

 そんな。お兄ちゃんと私がお付き合いすることになったからって、桃葉さんのキャリアを捨てるだなんて……。

「桜ちゃん安心して? 同じ会社で部署異動をお願いしたの。もともと私はそこの支店採用だから元に戻るだけ。そっちでのんびりとね」

 桃葉さんが明るく振舞っているだけなら申し訳ないのだけど、そんな様子には見えない。

「桜ちゃんには秀一くんじゃなくちゃダメ。一目でわかったわ。ちゃんと幸せにしてあげてね」

「桃葉さん……」

「秀一くんとのことはきっと長くないって予感はあった。たまたまね、高校生の同級生が私の事をずっと見ていてくれて、『戻ってこないか?』って。今回のお話になったの。桜ちゃんにも報告して安心してほしくてね」

「はい。よかったです」

「それと、桜ちゃんのご両親のことなのだけど……」

 桃葉さんはお兄ちゃんのお家で私の家のことを聞いたそう。すぐに隣のお店に寄って私のお母さんと話してくれたんだって。

「桜ちゃん。ご両親の事は心配いらないわ。私の両親に電話をしたら『任せておけ』ですって。ご近所ですもの。今は体を休めてって」

 いたずらっ子の女の子に戻った桃葉さんの顔を見て、私はふと思い出した。

「もしかして、桃葉さんって……。モモお姉ちゃんだったんですか?」

「思い出してくれた? 嬉しい!」

 私が幼い頃、お正月や夏休みにはお爺ちゃんのお家に預けられていたことがあった。まだお店を軌道に乗せるのに精いっぱいだったお父さんたちがお願いしてくれていたのだと思う。

 見知らぬ土地で一人ぼっちだった私に、年上のお姉さんが毎日のように遊びに来てくれて、私の孤独を埋めてくれた。当時詳しい素性は知らなかったけれど、モモお姉ちゃんと呼んでいたことは覚えている。

「なんだよ。桃葉さんと桜って知り合いだったんかよ」

「ふふ。大きくなった桜ちゃんを見てね。この子だったら秀一さんを任せられるって。だから、私も桜ちゃんも恨みっこ無し。ご両親が落ち着いたら遊びに来てね」

「はい! あの……、お手紙書いたりしてもいいですか?」

「もちろん! 桜ちゃんのご実家に届けば私に渡るようになってるから。手紙だなんて、桜ちゃんらしいわね。片付けの途中で邪魔しちゃってごめんね」

 そう笑って言い残すと、桃葉さんは手を振って出ていった。

「なんか拍子抜けだなぁ。桜の知り合いだなんて知らなかったよ」

「私も忘れていました。いいんですか?」

「桃葉さんを見ていてくれた人がいたんだ。今から混ぜ返しても失礼だ。桜だって、納得しないだろう?」

 そうだよね。お兄ちゃんが私の隣にいてくれると誓ってくれたのに。みんなに失礼になってしまう。

「今日はお疲れさん」

「お兄ちゃん、ありがとう」

 本当に最後にまかないとして残しておいたピザトーストを二人で焼いて食べた。

「桜。いいのか?」

「うん、だってお兄ちゃんと一緒だもん。それで私は満足です」

「忙しかったけど、あっという間に終わっちゃったな」

「本当ですね」

 ごみ出しも終わって調理室の鍵を返せば、私の学校祭は本当に終わり。

 でも、もう少しこのままでいたかった。

 出来ることなら、私たち二人で、もっと続けてみたかった。

「お兄ちゃん、私、本当に楽しかった」

 薄暗くなった部屋で、私はお兄ちゃんの手を取った。

「後夜祭の花火、一緒にここから見ませんか?」

「ここでいいのか?」

「ここの方が私らしいです」

 全校放送で後夜祭が始まると曲が流される。片付けが終わった生徒がグラウンドに出ていくのが見えた。

「疲れましたね」

「まったくだ。桜……?」

 校庭の方が明るいし、調理室の明かりは全て消してしまったので、ここに私たちが残っているなんて気付かないだろう。

 学校の中だなんてもう関係ない。

 私はお兄ちゃんに抱きついて体を震わせていた。

「桜……」

「やだよ……。離れたくない……」

 そんな私のことを何も言わずにそっと腕を回してくれたお兄ちゃん。

 花火と月明かりが私たちのシルエットを床に映し出していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

うちでのサンタさん

うてな
ライト文芸
【クリスマスなので書いてみました。】  僕には人並み外れた、ある能力を持っていた。 それは『物なら一瞬にして生成できてしまう』能力だ。 その能力があれば金さえも一瞬で作れてしまう、正に万能な能力だった。 そして僕はその能力を使って毎年、昔に世話になった孤児院の子供達にプレゼントを送っている。 今年も例年通りにサンタ役を買って出たんだけど…。 僕の能力では到底叶えられない、そんな願いを受け取ってしまう…  僕と、一人の男の子の クリスマスストーリー。

受けさせたい兄と受けたくない妹(フリー台本)

ライト文芸
受験生になった妹がインフルエンザの予防接種を受けに行くことになったが

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...