恋の絆は虹の色 【妹でも恋していい?】

小林汐希

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【第1章】初めて、恋を始めます

9話 「妹」からの恋愛シーン練習

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 予想通りというか……、午後はまたみんな外に遊びに行ってしまい、結果的に私とお兄ちゃんで学校祭のメニューを考えていた。

 最初からこれでよかったのかもしれない。当日の調理は私がメインたから、希望があってもあまり難しかったり、時間がかかるものは作れない。

 今回、お父さんが持たせてくれた材料は、そのサンプルでもあって、私が一人で他所よその慣れない調理場に立つことの手応えも確かめていた。

「こんな感じですかね」

「桜が大丈夫ならいいんじゃないか?」

「やっぱり、最初からこうすればよかったです」

 夕食の時に、そのメニューをみんなで確かめてもらって、片付けをしているうちに海に行っていたチームは徐々にお疲れムード。

 まぁ、これも想定内だったよね。

「みんな、先にお風呂入っちゃっていいよ」

 私はお風呂を最後にすると宣言してあったし……。

「桜、お先に!」

「先輩、お先に失礼します」

 気がつけば、起きているのは私とお兄ちゃんだけになった。

「桜はどうする?」

「私は最後にします。汚れちゃいますよ」

「じゃあ桜、ちょっと散歩しないか? まだ時間も早いし。桜もずっと仕事してたから、気分転換にどうだ?」

 早いと言っても、時計は夜十時を回っている。

「分かりました。ちょっと用意をしてきてもいいですか?」

 さすがにエプロン姿ではムードに欠ける。私は部屋に戻ってバックを開けた。



「お待たせしました」

「行くか」

「はい」

 昼間、みんなが走っていった海への道を二人で降りていく。

「桜、今回も無理をしているよな。嫌なこととか悩みがあるなら、いつでも言っていいんだぞ?」
 
「はい。いつもありがとうございます……」

「しかし、その口だけは直らないな?」

「えっ?」

「俺にだけ敬語使う癖。もっと自然でいいのにさ」

「はい……。分かってます。でも、これを止めたら、私……」

 分かってる。今では無意識に出るけれど。でも、もしこれを止めたら、私はきっと……。

 お兄ちゃんは今の私を『妹』として接してくれている。でも、血の繋がりはないんだもの。何か特別なものがなければ、私は特徴もない年下の女の子に埋もれてしまうと思う。

「せっかく水着買ったのに、残念だったな」

 波打ち際に座った。夜の海はいつぶりだろう。水平線まで星が瞬いている。

「……お兄ちゃんには本当の事を話します」

「あ?」

「みんなには嘘をついてました。女の子の日は嘘です」

「桜……」

「この水着、お兄ちゃんだけに見て欲しくて選んで買いました……」

 だぼだぼのTシャツを脱ぐ。さっきの時間で服の下を水着に取り替えてきたから。

 ショートパンツも脱いで、私は再びお兄ちゃんの前であの時の姿になった。

「昼間見せられませんでした」

「桜……。俺、そんなことされたら……」

「私は妹ですよ。見られても触られても平気です。これはお兄ちゃんに素敵な人が出来たときの練習です」

 少しは恥ずかしくもある。あまり顔を見られたくなくて、お兄ちゃんに背を向けて座った。

「桜……、もっと素直になっていいんだぞ」

「はい……。分かってます。嫌なら嫌と言います」

 その言葉で分かってくれたんだと思う。

 お兄ちゃんは、私を後ろから抱きしめてくれた。

「うん、あったかいです……」

「大きくなったな、あんなにチビだったのに」

「早く、大きくなりたかったです……」

 ぎこちなく、でも私を安心させてくれる、その大きく包み込んでくれる体温が夜風と反対であったかくて心地よい。

「緊張してるのか?」

「自分でもよく分からないんです」

 明かりは月明かりだけ。だから、顔色までは分からないけど……。

「キスの練習はないのか?」

 そんな問いにふっと笑ってしまう。

「それは私のファーストキスです。私にだって選ぶ権利はありますよ」

「言うようになったな」

 お兄ちゃんは笑っているけど、私の心臓はバクバクだ。

 本当なら……、この場でも奪われてもいい。でも、こんな成り行きで軽い子だと思われたくもない……。

「大丈夫か?」

 相反する気持ちが混乱して動けなくなってしまった私を心配そうにのぞき込むお兄ちゃん。

「ちょっと休めば大丈夫。今日のレッスンはここまででいいですか?」

「桜、その水着着て、二人でプールか海に行こうな」

 うん、誰かに見られているかもしれないと心配しながらより、二人きりと安心しているときの方がいい。

「はい。楽しみにしてます」

 私は再びお兄ちゃんに抱き締められて、二人で部屋に戻ったのはすっかり日も回った頃。

 最後に部屋の時計を見たのは午前三時だった。
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