恋の絆は虹の色 【妹でも恋していい?】

小林汐希

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【第1章】初めて、恋を始めます

4話 突然そんなこと言われても…

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「……で、俺に車を出してくれと?」

 ジロリと囲んだ私たちを睨んだお兄ちゃん。正直、ちょっと恐い。

「今年の学校祭で出すメニューとか考えるから、お願いします」

 正直、佐紀が言っても説得力には欠けてしまう。


 夏休み最初の土日、海沿いのコテージを予約した佐紀が次に目をつけたのが、お兄ちゃんだった。

 今回の話のメンバーは私や佐紀、二年生の祐介君と美紀ちゃん、一年生の大樹君というメンバー。大人がいた方がいい、それに車が運転できるなら……と、私はお兄ちゃんに頼らざるを得なくなってしまった。

「他に頼める人が居なくて。後で埋め合わせはします」

「ま、仕方ないか。土日は暇だし。その代わり、ちゃんとやることはやるんだぞ?」

 お兄ちゃんは、私の方を見る。

 後でなんかプレゼントでもして謝ろう。


 すでに大はしゃぎの佐紀は心ここにあらず。

 このメンバーになるといつもそうだ。 

 きっかけは別に誰が言っても構わない。問題は、それをどう実行するかが問題で、私とお兄ちゃんもいつも佐紀を筆頭とするメンバーに頭を抱えてきた。

 毎年の学校祭のクラブの担当だってそうなんだから。このタイミングで何でもいいから現実的な提案をしておく必要がある。

 とりあえず、その旅行のことは時間や持ち物を決めて、あとは解散となり、私とお兄ちゃんは仕方なしに裏方側の準備の話に入っていた。

「ねぇ桜!」

「はぃ?」

 佐紀が私たちを現実に引き戻す。

「桜って今もフリーなんでしょ?」

「えっ? でも……」

 また、何を言い出すかと思えば、そっちかぁ…。しかも、こんなみんなのいる前で。両親だって聞き耳を立てているに違いない。

「ほら、言っちゃいなよ」

 彼女は祐介君の肩をポンと叩く。

「先輩、ちょっと強引ですよ」

 確かに。佐紀の突っ走りながら考える思考が羨ましい時もあるけど、大抵はどっかで引っ掛かるから。

「ほらほら。みんな応援してんだから」

「えっ?」

 みんなとはどういう事なのか……。

「ぼ、僕は野崎先輩が好きです。つ、付き合ってください」

 真っ赤な顔で、祐介君は私に向かって言った。

「偉い、よく言った!」

 もう……、佐紀ったら。こんな大事なセリフをイベントにしちゃうんだから。可哀想だよ。

 きっと、今日みんなが押し掛けて来たのも、それを見届けるためなんだろうと。

 ここでようやく気がついた私も遅いんだけどね。

 外野の話を聞くと、一年生でクラブに入った頃から見ていてくれたらしい。

「で、桜は?」

「えー、即答?」

 読めた。ここでカップル成立となれば、例の合宿でいじり倒されるのは間違いない。

 佐紀みたいに夏休み限定の彼氏みたいな遊び方が出来れば、それでもいいのかも知れない。

 でも、私にはそれが出来なかった。

「ご、ごめんね……。私、そういうの全然分からないの。誰にもそう言う気持ちになったことないから、答えなんか出ないよ」 

「えー、桜が? 恋愛経験なし?」

 そうだよ。高校三年で恋愛経験なしなんて遅れているって、私だって分かっている。

 中学生にもなれば、好きな先輩や同級生がいたっておかしくないし、実際に周りはどんどん増えて、私は取り残されている気分になったことだって、これまで一度や二度じゃない。

 恋愛小説とかマンガを読んで、こんな気持ちになるんだって知識では知っているけど、私の中にそんな感情はまだ訪れて来なかった。

「先輩、すみません。変なこと言って」

「ううん。ごめんね。私が悪いから」

 そう、祐介君は何も悪いことない。悪いのはこれをイベントにした佐紀と答えを出せない私だから……。

「先輩のこと、ずっと待ってます」

「ごめん、私がそれに応えられるかもわかんないよ……。ごめんね……」

 自然に涙が出てきた。

 変だよね。断られた側じゃないのに、どうして涙が出るの?

「ちょっと、顔を洗ってくる……」

 こんな顔、みんなにも、ましてやお兄ちゃんにも見せられない。

 私はカウンターの奥に走り込んでいった。


「お前らな……」

 事を見守っていた秀一が口を開く。

他人ひとの恋愛感情をおもちゃにしない方がいいぞ」

 冷えきった空気をさらに凍りつかせるように、静かな声を吐き出してテーブルから離れた。


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