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【第1章】初めて、恋を始めます
1話 幼い夢から目覚めたら
しおりを挟む「お兄ちゃん待ってぇ!」
「桜、遅いぞ!」
私を見下ろす視線。手には水着の入ったバックを持って、階段をよたよた上がる私を待っている。
「だってぇ、お兄ちゃん五年生だもん」
「うっせーな。一緒に行ってやんないぞ?」
「やだぁ!」
半べそをかいた私を、お兄ちゃんは絶対に置いていったりはしない。
だけど、分かっているけど、一生懸命に走って追い付きたかった。
それでも、クラスでも一番小さかった私は絶対に追い付けない。
「眠いよぉ」
「しゃーねーな桜は……」
「ありがとう」
一日遊んでもらい、帰りはいつもおんぶで家まで帰った。
「チビだから体力ねーもんな」
「あうぅ……」
分かってた。早く大きくなりたい……。追い付いて、一緒に遊びたい……。
「……桜、起きろ。もう遅刻だぞ?」
「へぇっ? き、今日は日曜日だったよぉ?」
私はガバッと飛び起きた。けど、それが悪戯だとすぐに分かった。
「もぉ、お兄ちゃん。また私のこと騙しましたぁ!」
「だってさぁ、いつまで待っても起きてこねーし。マスターが起こしてこいってさ」
「お父さんも最悪ぅ~。年頃の娘の部屋を何だと思ってるのかなぁ……」
確かに時計を見ると、起きなければならない時間にはなっているけど。
「ところでお兄ちゃん?」
「なんだ?」
「いつまでここにいるつもり? 私は着替えたいんですけど?」
「いいじゃんか、減るもんじゃないだろうに」
「そういう問題じゃありませんっ!」
私はベットの上から、思いっきり枕を投げつけた。
「はいはい。下で飯食ってくるわ」
「もぉ~」
階段を下りていく音を確認して、ベッドから立ち上がる。
「久しぶりだったなぁ……」
私、野崎桜はこの四月で十八歳の高校三年生になった。
パジャマを脱いで、ハンガーにかけてある服に手をかけたとき、ふと姿見に私の全身姿が写っているのが見えて手が止まる。
「お兄ちゃんにとっては、まだまだ子供扱いなんだろうなぁ」
あの夢の中で私をおぶってくれた人、そして物騒な起こし方で、その懐かしい夢を中断させた人は同一人物で岩雄秀一。
お兄ちゃんと呼んでいるけど、実際は兄妹じゃない。私は一人っ子だし、お兄ちゃんもそう。
家がお互い隣で、子供の頃から遊んでもらっている内に、そういう呼び方になってしまった。今年二十三歳の社会人一年生。でも、高校生の私から見たら、ずっと大人に見える。
幼い頃、私は四月生まれにしては成長が遅く、幼稚園も小学校低学年もクラスで一番小さかった。
お兄ちゃんはその頃から大きくて、私のことをチビ扱いしては、私は悔しくて泣いた。
食べ物もたくさん食べて、運動もして、気がつく頃にはそんなコンプレックスはどこかに消えていた。
それでも、お兄ちゃんとは身長で二〇センチ違う。どんなに頑張っても、この歳になってからの巻き返しは望めそうにない。
「桜、秀一くんとお買い物行ってくれない?」
お母さんの声がして、ハッとする。何してるんだろ私。
急いで身支度を整えて部屋を飛び出した。
「遅かったなぁ。また俺のこと考えてた?」
一階のお店には、お母さんとお兄ちゃんが座っていた。お父さんはきっと奥の厨房にいると思う。
「女の子にはいろいろ準備することがあるんです!」
嘘、バレてた? そんなこと無い!
顔を真っ赤にしたまま、私の分の朝食、厚切りトーストとコーンスープを大急ぎで口の中に押し込んだ。
「お兄ちゃん行きますよ! 行ってきます!」
私はお兄ちゃんの手を引いて店を飛び出した。
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