359 / 360
【第10部〜最終章〜】
第1話 帝国の足音
しおりを挟む
全ての巨人族が世界から消えた。天界を脅かす者は無くなり、天界の神々は束の間の平穏を過ごしていた。
巨人族との友好使節団として向かった神々は仲間の大半を失ったが、友好条約が締結されるとアシェラが全員を生き返らせた。しかし突如として平穏は、何者かによって打ち破られた。ルシフェルやアスタルト、それにミカエルまでもが斬殺され、アナトは連れ去られたのか、依然として行方不明のままであった。
連れ去られたのが、突如として現れた門の向こうだと確信したコルソンら魔界の元四大貴族達が門を潜ったが、いまだに音沙汰は無く、残された神々は焦燥感に駆られた。
「我らも門を潜るしか無いのか…?」
「危険過ぎる…」
「確かに情報不足だ。だが、虎穴に入らずんば虎児を得ずと言う。先に向かったコルソンらから情報が得られれば良いのだが、恐らく前しか見ていないだろうから、此方を気遣う余裕など無いだろうな」
「ふぅ、ではやはり我らも門の向こうに行くしか無いな」
梵天と毘沙門天が口にすると、孔雀明妃は「太上老君に急報を送り、援軍を求めて我らは一足先に向かいましょう」と言った。
しかし戦力不足は否めない。アシェラのお陰で、亡くなった神々は生き返ったが、巨人族は全員殺されていた。中でもアシェラは全裸で磔にされ、拷問を受けて殺されていた。その足元には、ネックレスにされていた生命の石が全て砕けて転がっていた。
顔は左半分が潰されて、左目が飛び出ていた。腹も引き裂かれており、腸が引き摺り出されて床まで垂れていた。およそ直視し難い無残な殺され方をしていたのは、中々死なないアシェラに苛立った為か、恨まれていたからに違いない。そう感じるのは、隣りで磔にされているエルの遺体が綺麗で、あまりにも対象的であったからだ。そうは言ってもエルの方は首を掻き切られており、絶命するまでは苦しんだはずである。
孔雀明妃は、アシェラの死に疑いを持ち、その遺体を隅々まで観察していた。
「私はアシェラ后の事は良く知らないけど、本人では無いと思うわ」
驚いた梵天は尋ねた。
「何の根拠で言っているのだ?」
孔雀明妃は、遺体の顔に指を差した。
「ここを見て。微かだけど、魔力の残滓を感じるわ。本物のアシェラが魔法で顔を変えて、身代わりにして逃げたんじゃないかしら?」
「ではこれは誰だ?」
「アシェラでは無いとすると、侍女かも知れないわね?」
孔雀明妃の推理を信じて、殺された巨人族の遺体安置所で確認すると、アシェラの侍女のうちの1人が見つからない事が分かった。
「やはりアシェラは生きているわ」
孔雀明妃は、エルの遺体を見て呟いた。
「もしや、アナタも本物じゃないの?」
別人だとするなら、彼らは何処に消えたと言うのだろうか。
「実際の所、アシェラは得体が知れない」
帝釈天は、静かに話した。
「アシェラは、自分を抱いた男の能力を取得する事が出来る為に、今どんな能力を持っているのか、どれほど強いのか想像も出来ない」
それを聞いて女神達は、悍ましいと顔を見合わせた。
「抱いた殿方の能力を得るですって…」
アシェラには浮世の噂が絶えなかったが、自分達が崇める唯一神の妻なのだ。薄々勘付いてはいたが、認めたくは無かった。しかし現実として突き付けられると、動揺は隠せない。
「だが少なくとも、唯一神とエルの能力を持っているのだから、強いのは間違い無いな」
ゼウスは言った。それほど強いのであれば、簡単には殺されたりはしないだろうと。
「天道神君は、どんな犠牲を払ってでも絶対に取り戻さなければならない」
門の先には、何が潜んでいるのか分からない。だが、手強い巨人族をあれほどの短時間で皆殺しに出来る敵だ。そんな芸当が出来る者がいるとしたら、思い浮かぶ中では奴らだけだ。
(XNUMX人の仕業に違いない)
神々は誰もが、そう脳裡に思い描いた。だが並みのXNUMX人では無い事は分かる。
「遂に動き出したのか、帝国が…」
古之不定型生物によって支配する星々を食い荒らされ、その処理に奔放しており、地球まで侵略の手が伸びる事は無かった。
旧世界の神々は、超高次元の神とも呼ばれており、その戦神は1人で星を滅ぼしたと言う。帝国は全宇宙に向けて戦神達を送り、その星に辿り着くと門を建設して帝国との行き来を可能にした。これが各地に門が存在する理由である。
「その帝国って言うのが、門を造ったと言うの?」
摩利支天が驚いた。
「我々神にも、ましてや魔族や龍神、巨人族に至るまでが、門を造る技術など持っていない」
「恐ろしい奴らだ。門を使えば、どれほど離れた場所でも潜ってしまえば、目の前にある様なものだ」
ゾォっとした。天界にもしも我々がまだ知らない門があったなら、簡単に侵攻を許して征圧されてしまうかも知れない。
天道神君は取り戻したいが、あのルシフェルを殺した敵が相手だ。唯一神を除けば、ルシフェルが天界最強だ。尻込みをするのは、致し方が無い事だった。
現状最強である孔雀明妃が、見兼ねて男共の尻を叩いた。
「情け無いわね。それでも男なの?オ◯ン◯ン付いてるんでしょう?」
不動明王は赤面して言った。
「凄い事言うな、お前。だから結婚出来ないんだよ」
「なんですって!?」
孔雀明妃と不動明王は睨み合った。
「まぁまぁ、落ち着いて2人とも」
ガブリエルは仲裁に入って、睨み合う2人の間に割って入った。
「あの2人の間に割って入る勇気、感服致す」
毘沙門天は頭が下がる思いを、本当に頭を下げて見せるジェスチャーで示した。
「そりゃあ、正義の執行官ですもの」
何故かラファエルが、誇らしげにしていた。ガブリエルに続いて数人が間に割って入り、2人の喧嘩は無理矢理に終わらせた。
「蟠りが残らなければ良いのだけど…」
摩利支天は心配して、ボソっと口にした。
孔雀明妃は、最も美しく最強級の強さをも兼ね備えている為に自信に満ち溢れ、恐れるものなど何も無かった。
不動明王は、短気だが豪気に満ち溢れ、相手が自分より強かろうとも立ち向かう、恐れを知らぬ者であった。
「友好使節団の時よりも、更に少人数で行く必要がある」
ゼウスが言うと、帝釈天と梵天は頷いた。
阿弥陀如来は、「他に方法は無いな」と言って溜息をついた。
天道神君を取り戻す為に、間も無く門を潜る。これが、未だかつて無いほどの試練を味わう事になるなど、まだこの時は誰も気付いてはいなかった。
巨人族との友好使節団として向かった神々は仲間の大半を失ったが、友好条約が締結されるとアシェラが全員を生き返らせた。しかし突如として平穏は、何者かによって打ち破られた。ルシフェルやアスタルト、それにミカエルまでもが斬殺され、アナトは連れ去られたのか、依然として行方不明のままであった。
連れ去られたのが、突如として現れた門の向こうだと確信したコルソンら魔界の元四大貴族達が門を潜ったが、いまだに音沙汰は無く、残された神々は焦燥感に駆られた。
「我らも門を潜るしか無いのか…?」
「危険過ぎる…」
「確かに情報不足だ。だが、虎穴に入らずんば虎児を得ずと言う。先に向かったコルソンらから情報が得られれば良いのだが、恐らく前しか見ていないだろうから、此方を気遣う余裕など無いだろうな」
「ふぅ、ではやはり我らも門の向こうに行くしか無いな」
梵天と毘沙門天が口にすると、孔雀明妃は「太上老君に急報を送り、援軍を求めて我らは一足先に向かいましょう」と言った。
しかし戦力不足は否めない。アシェラのお陰で、亡くなった神々は生き返ったが、巨人族は全員殺されていた。中でもアシェラは全裸で磔にされ、拷問を受けて殺されていた。その足元には、ネックレスにされていた生命の石が全て砕けて転がっていた。
顔は左半分が潰されて、左目が飛び出ていた。腹も引き裂かれており、腸が引き摺り出されて床まで垂れていた。およそ直視し難い無残な殺され方をしていたのは、中々死なないアシェラに苛立った為か、恨まれていたからに違いない。そう感じるのは、隣りで磔にされているエルの遺体が綺麗で、あまりにも対象的であったからだ。そうは言ってもエルの方は首を掻き切られており、絶命するまでは苦しんだはずである。
孔雀明妃は、アシェラの死に疑いを持ち、その遺体を隅々まで観察していた。
「私はアシェラ后の事は良く知らないけど、本人では無いと思うわ」
驚いた梵天は尋ねた。
「何の根拠で言っているのだ?」
孔雀明妃は、遺体の顔に指を差した。
「ここを見て。微かだけど、魔力の残滓を感じるわ。本物のアシェラが魔法で顔を変えて、身代わりにして逃げたんじゃないかしら?」
「ではこれは誰だ?」
「アシェラでは無いとすると、侍女かも知れないわね?」
孔雀明妃の推理を信じて、殺された巨人族の遺体安置所で確認すると、アシェラの侍女のうちの1人が見つからない事が分かった。
「やはりアシェラは生きているわ」
孔雀明妃は、エルの遺体を見て呟いた。
「もしや、アナタも本物じゃないの?」
別人だとするなら、彼らは何処に消えたと言うのだろうか。
「実際の所、アシェラは得体が知れない」
帝釈天は、静かに話した。
「アシェラは、自分を抱いた男の能力を取得する事が出来る為に、今どんな能力を持っているのか、どれほど強いのか想像も出来ない」
それを聞いて女神達は、悍ましいと顔を見合わせた。
「抱いた殿方の能力を得るですって…」
アシェラには浮世の噂が絶えなかったが、自分達が崇める唯一神の妻なのだ。薄々勘付いてはいたが、認めたくは無かった。しかし現実として突き付けられると、動揺は隠せない。
「だが少なくとも、唯一神とエルの能力を持っているのだから、強いのは間違い無いな」
ゼウスは言った。それほど強いのであれば、簡単には殺されたりはしないだろうと。
「天道神君は、どんな犠牲を払ってでも絶対に取り戻さなければならない」
門の先には、何が潜んでいるのか分からない。だが、手強い巨人族をあれほどの短時間で皆殺しに出来る敵だ。そんな芸当が出来る者がいるとしたら、思い浮かぶ中では奴らだけだ。
(XNUMX人の仕業に違いない)
神々は誰もが、そう脳裡に思い描いた。だが並みのXNUMX人では無い事は分かる。
「遂に動き出したのか、帝国が…」
古之不定型生物によって支配する星々を食い荒らされ、その処理に奔放しており、地球まで侵略の手が伸びる事は無かった。
旧世界の神々は、超高次元の神とも呼ばれており、その戦神は1人で星を滅ぼしたと言う。帝国は全宇宙に向けて戦神達を送り、その星に辿り着くと門を建設して帝国との行き来を可能にした。これが各地に門が存在する理由である。
「その帝国って言うのが、門を造ったと言うの?」
摩利支天が驚いた。
「我々神にも、ましてや魔族や龍神、巨人族に至るまでが、門を造る技術など持っていない」
「恐ろしい奴らだ。門を使えば、どれほど離れた場所でも潜ってしまえば、目の前にある様なものだ」
ゾォっとした。天界にもしも我々がまだ知らない門があったなら、簡単に侵攻を許して征圧されてしまうかも知れない。
天道神君は取り戻したいが、あのルシフェルを殺した敵が相手だ。唯一神を除けば、ルシフェルが天界最強だ。尻込みをするのは、致し方が無い事だった。
現状最強である孔雀明妃が、見兼ねて男共の尻を叩いた。
「情け無いわね。それでも男なの?オ◯ン◯ン付いてるんでしょう?」
不動明王は赤面して言った。
「凄い事言うな、お前。だから結婚出来ないんだよ」
「なんですって!?」
孔雀明妃と不動明王は睨み合った。
「まぁまぁ、落ち着いて2人とも」
ガブリエルは仲裁に入って、睨み合う2人の間に割って入った。
「あの2人の間に割って入る勇気、感服致す」
毘沙門天は頭が下がる思いを、本当に頭を下げて見せるジェスチャーで示した。
「そりゃあ、正義の執行官ですもの」
何故かラファエルが、誇らしげにしていた。ガブリエルに続いて数人が間に割って入り、2人の喧嘩は無理矢理に終わらせた。
「蟠りが残らなければ良いのだけど…」
摩利支天は心配して、ボソっと口にした。
孔雀明妃は、最も美しく最強級の強さをも兼ね備えている為に自信に満ち溢れ、恐れるものなど何も無かった。
不動明王は、短気だが豪気に満ち溢れ、相手が自分より強かろうとも立ち向かう、恐れを知らぬ者であった。
「友好使節団の時よりも、更に少人数で行く必要がある」
ゼウスが言うと、帝釈天と梵天は頷いた。
阿弥陀如来は、「他に方法は無いな」と言って溜息をついた。
天道神君を取り戻す為に、間も無く門を潜る。これが、未だかつて無いほどの試練を味わう事になるなど、まだこの時は誰も気付いてはいなかった。
0
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる