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【第9部〜巨人の王国編〜】

第40話 真の黒幕

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 母アシェラの造反は、天界中に知れ渡った。天道神君アナトは最後の気力を振り絞って、巨人達に殺された神々を生き返らせた後、天離宮に引き籠もって、出て来ようとはしなくなった。
 これは自分であれば、どうするのかと良く考えて欲しい。自分の可愛い娘が、読んでる読者が学生さんであれば、自分自身が、または自分の好きな女子が、何処の誰とも知らない変質者の性欲を満たす為だけに、けがされたとしたら。
 まだ女子中高生である娘がレイプされ、被害者である自分自身は、自分の身に起こった出来事を悪夢だと思い、信じたくはない。だが現実として、段々と自分のお腹は膨らんで来る。まるで自分の身体が自分では無くなったかの様な感覚で、自分の身体の中に化け物を宿してしまった恐怖に震え、両親にも友達にも話す事など、怖くて出来ない。だがある日、遂に怖れていた事が起きる。
「あんた、そのお腹どうしたの!?」
 母親にお腹が膨らんでいる事が、バレてしまったのである。母は、まさか自分の娘が妊娠しているなどとは思わないし、思いたくもない。何か変な、とんでもない病気になったのかと心配する。
 だが病院で、「お嬢さんは妊娠されていますね」と衝撃の事実を聞かされるのである。平静でいられない母親は、その場で娘に怒鳴り付ける。
「あんた一体、何処の誰の子なのよ!?」
 娘は遂に親にバレてしまった事で、ただただ泣きじゃくるだけだ。本人もレイプされたので、何処の誰かなのかも分からない。
「泣いてたんじゃ、分からないじゃない!」
 母はヒステリック気味に、娘に強く当たる。それを見兼ねた医者や看護師が、別室に移して優しく尋ねる。するとポツリポツリと語り出し、自分はある日の部活帰りに突然、見知らぬ男に襲われた。怖くて家族にも誰にも相談出来なかったと言うのだ。
 この事実を別室にいる母親に伝える。そして、「事件にされますか?」と尋ねられ、母親は即答で「当然します!」と言う。だが、母親の頭も冷静では無い事を理解出来る医師は、もう一度よく考える様にと伝えるのだ。
「良いですか、当然事件の当事者であるお嬢さんには、警察から激しい追求があります。特に、信じ難い事ですが、レイプであっても気持ち良かったなどと答えると、同意があったと見做されてしまいます。それに傷ついたお嬢さんの傷を、更に深く掘り下げて記憶の奥底に封じようとして、忘れようとしているものを、ほじくり返す事になります」
 そして、医師は更に衝撃の事実を伝えるのである。母体保護法によって、子供を堕胎出来るのは、妊娠21週6日目までと定められているが、既にお嬢さんは妊娠5ヶ月目であると。
 母親は最悪、子供を堕して娘の人生をやり直させようと考える。だがもうそれも出来ないと言うのだ。娘の将来を案じて、母は泣き崩れるばかりだ。
 当然家族会議となり、父親は「母親のお前がキチンと教育して来ないからこんな事になったのだ」と責め立て、夫婦仲は日に日に増して険悪となった。
 被害者である娘は、僅かな物音にですら反応して飛び起きる様になり、常に何かに怯える様になり、1人で外を歩く事さえ出来なくなった。そしてリストカットを繰り返して、精神的に不安定におちいった。ここに来て家族は、泣きながら決断する。
 娘の将来を思って刑事事件にはしない。そして、生まれて来た子供は赤ちゃんポスト等に預けて、この様な悪夢を忘れ様と結論付けた。
 だが、この最大の被害者は生まれて来た子供である。生まれて来る前から望まれず、両親の誰からの愛も知らずに育つのだ。預けられた施設の似た様な境遇の子供達が、同じ家族として育てられるのだ。せめてもの救いは、その施設の人達が親切である事だけだ。
 アシェラは夫を殺され、無理矢理に手籠にされてアナトを妊娠した。だがアシェラは、生まれて来た子供を愛そうと努力をしたのだ。子供が生まれた事によって恨みを忘れ、新しい人生を歩もうと努力をしたのだ。
 しかしアナトが成長するに連れて、何処となく自分に似ているが、憎い仇であるヤハウェにも似ている。愛そうとすればするほど、どうしようも無い憎悪が込み上げて来るのだ。アナトに罪は無い事は百も承知である。だがそれでも、どうにもならない感情と言うのがある。アシェラは密かに爪を研いで、夫の仇を討つ事を誓った。自分をこんな目に合わしたヤハウェを、絶対に許さない。
 そんな時に知ったのだ。アナトは、神々でさえ死者を生き返らせる事は出来ないが、その超絶レア能力スキルを持って生まれて来た事を。
 アシェラは歓喜した。アナト能力スキルならば、愛しい亡きエルを生き返らせる事が出来る。
 アナトに頼んで、生き返らせてもらおうかとも考えた。だがそれでは面白く無い。どうせならヤハウェに、ダメージを与えて復讐してやろうと考えた。
 ちょうどその頃、アナトの玩具として土塊つちくれからヤハウェがゴーレムを創り出していた。ヤハウェはその土人形を、アダムと名付けてアナトに与えた。
 一計を案じたアシェラは、近くにいたサマエルの姿に化けて濡れ衣を着せ、先ず最初にイブをそそのかして禁断の果実である智慧の実を食べさせた。イブはアダムに「美味しいから食べて見て」と言われて智慧の実を渡されると、アダムは疑いもせずに口にした。
 智慧の実を食べたアダム達は不死では無くなった為に、子孫を残そうと性欲が宿った。アダムに押し倒されて、今にも行為に及ぶ寸前のアナトを見てヤハウェは激怒して、イブの骨を抜き取って殺害しアダムは地上に堕とした。だが既にアダムに骨抜きにされていたアナトは、後を追って人間界に降りるのだが、ヤハウェは土塊人形アダムとの子供を作らせない呪いを掛けた。その為、アナトは人間との子供を作る事が出来ない。
 アナトが地上に降りれば、例え不死者であっても輪廻転生から逃れる事は出来ない。その結果、アナトは五百年毎に自らの身体を灰にして転生するのである。
 アシェラはじっと、その時を待った。アナトが男性として転生する時を。そして遂に機会チャンスはやって来た。本来であれば麻生佳澄と言う女と添い遂げるはずであったが、男に転生したアナトを誘惑して身体の関係となった。こうして1つ目の目的は達せられた。後は、愛しいエルを生き返らせるだけだが、肝心の巨人の王国へ行く為のゲートが何処にあるのか分からない。
 その為に密かに手駒を集めていた。ダゴンやトール、ロキも彼女の手駒だった。ダゴンの能力スキルを得る為に、一時的に夫婦となった事もあった。その為にダゴンの能力スキルをもアシェラは持っている。
 精神状態異常無効である、アナトにトドメを刺す為だ。これまで近くでアナトの戦いを見て、力で倒せたとしても直ぐに復活してしまう。それならば、二度と立ち上がる事が出来ないほどの精神的ダメージを与えてやろうと考えた。
 アナトはこれまで母からキツい仕打ちを受けても、心の何処かで「これは躾なのだ」と思っていた。
 だがアシェラはそんなアナトに対して、「お前はレイプされて生まれた娘だ。そんなものを愛せるはずが無いだろう?」と言ったのだ。
 アナトの心を完全に破壊するには、十分過ぎるほど辛辣で無情な言葉であった。
 アシェラは数千年にも及ぶ壮大な計画で復讐を練っていた。エルを生き返らせれば、今度こそ天界を滅ぼそうと攻めて来るかも知れない。だが頼みの天道神君アナトは、廃人の様になっていた。

 
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