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【第9部〜巨人の王国編〜】

第32話 4人の阿修羅王

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 阿修羅アスラ王は、実は4人いる。婆稚阿修羅王、佉羅騫馱阿修羅王、毘摩質多羅阿修羅王、羅睺阿修羅王の4人だ。修羅界は彼らによって4分割され、絶える事の無いいくさが繰り広げられていた。
 その4人の阿修羅アスラ王のうち、帝釈天インドラの妻となった舎脂シャチーの父は、 毘摩質多羅びましったら阿修羅アスラ王である。
 インドに於いては、アスラ神族ダーナヴァ族を率いる王で、プローマンと言う名で知られている。

ポー!(報告!)阿修羅アスラです!阿修羅アスラ軍によって第二陣まで壊滅!」
 いくさに明け暮れる阿修羅族の強さは尋常では無かった。ただの一兵卒でさえ、1人で巨人を数体討ち取って見せた。
 かつて日本に侍がいた戦国時代、豊臣秀吉の朝鮮出兵において、第1軍を宗義智・小西行長が、第2軍を加藤清正・鍋島直茂、第3軍を黒田長政らが先立って率いて日本は高麗に連戦連勝し、首都を遷都させるほど追い詰めた。
 日本は雑兵ですら高麗軍に単騎で突入し、蹴散らすほどの強さを誇った。これは戦国時代の日本の侍が、どれほどの強さを誇っていたかの証しである。
 また、種子島でたった1挺入手した火縄銃が、10年にも満たない間に1500万挺もの銃を保有する国となった。これは、当時の全ヨーロッパの銃を掻き集めても、800万挺にも満たなかった事を考えると驚異的である。
 つまり、戦国時代の日本は間違いなく世界最強であったのだ。織田信長が生きていれば、全世界は日本によって征服されていたかも知れない。
 日本の戦国時代を引き合いに出したのは、戦いに明け暮れる事によって得た強さが、修羅界に住む阿修羅アスラの強さであると、より理解して頂きたかったのだ。平和ボケした天界の神々とは、比較にもならない戦闘力を有していた。
阿修羅アスラどもめ。天界を追放され、修羅界に封じ込められた悪鬼どもが、何故なにゆえに神々の味方をするのだ?舎脂むすめの為か?」
 ロキはトールを呼び耳元で何かささやくと、トールは兵を引き連れて神々が籠る城の前で陣取った。それから、ここでは書く事を割愛したくなるヤジを口汚く罵った。
「おのれ許せん!よくもこの私を辱めたな!」
 舎脂シャチーは烈火の如く怒り心頭で、槍を手に取って出陣しようとして止められた。彼女は父親である 毘摩質多羅びましったら阿修羅アスラ王と親子喧嘩し、素手で負かした事もある女傑であり、帝釈天インドラも頭が上がらない恐妻だ。
 見た目は大人しく美しい少女である為、婚姻の約束した舎脂シャチーを一目見て心を奪われ、結婚するまで待てずにそのまま彼女を凌辱した。
 今から考えると舎脂シャチーの強さなら抵抗して、帝釈天インドラをボコボコに出来たはずである。それをせず、しおらしくそのまま凌辱されたのは、本性を知られれば破談になると考えたからに違いない。既成事実を作り、舎脂シャチー帝釈天インドラにベタ惚れだった。
 阿修羅王は婚姻前に娘を辱められ、顔に泥を塗られたと思い、帝釈天インドラだけでなく天界全土を巻き込んで大戦が始まった。
 ブチ切れた妻を、タジタジの帝釈天インドラは止める事が出来ずに、オロオロしていた。
「インドラーニー(舎脂シャチーの別名で帝釈天インドラの妻と言う意味)様が、あの様な下郎をわざわざ相手にする事は御座いません」
 そう言うと了承の返事を待たずに、毘沙門天ヴァイシュラヴァナは神槍をたずさえて出陣してしまった。
「おう、裏切り者めが。貴様の様な不忠者は、犬も食わぬわ!」
「俺が不忠者だと?俺は最初から忠義者だったわ。ただし、巨人族に対してだがな?」
 トールの言葉が終わらぬうちにカッとなった毘沙門天ヴァイシュラヴァナは、馬を走らせて神槍を繰り出した。
「ふんっ!」
 トールは、巨大な鉄槌ミョルニルを片手で軽々と振り回して、毘沙門天ヴァイシュラヴァナの神槍を弾いた。目にも止まらぬ速さで突きを連続で繰り出したが、トールの身体を貫く事は出来なかった。
 逆に70合も打ち合った頃、鉄槌ミョルニルによって毘沙門天ヴァイシュラヴァナの頭は兜ごと打ち砕かれ、馬上から落ちた時は既に絶命していた。
 神兵達からは悲鳴が上がり、逆に巨人族達は歓声を上げてトールの武勇を讃えた。
「そんな馬鹿な、あの戦神である毘沙門天ヴァイシュラヴァナが討ち取られるなど…」
 毘沙門天ヴァイシュラヴァナが討たれ、他の四天王である持国天ドゥリタラーシュトラ増長天ヴィルーダカ広目天ヴィールーパークシャらはいきどおり、制止を振り切って勝手に出陣してしまった。
 毘沙門天ヴァイシュラヴァナの敵討ちとトール目掛けて突撃すると、待ち構えていたトールは、全神力を込めて『トールハンマー』を放った。
「うおっ!」
 四天王のうち2人はわせたが、増長天ヴィルーダカは真ん中にいた為に避け切れず、左手を失った。それでもあの状態からわしたのは流石としか言いようがない。まともに食らっていれば、死んでいたであろう。
 3対1では不利だと、トールを守る為に巨人族は神兵に突撃を開始した。両軍入り乱れて混戦となったが砂塵が舞い、神々の城からではその様子が見れなかった。
ポー!(報告!)四天王討ち死に」
 その報告が入ると神々は騒然とし、城内に悲壮感が漂った。まだ戦いは始まったばかりで、序盤ですら無い。だが既に神々の中には、天界の敗北が頭によぎって震えるだけの者もいた。
 城と対峙するトールとは別に、阿修羅王を相手にするロキは苦戦していた。
  毘摩質多羅びましったら阿修羅アスラ王は、せめてシャチーだけでも助け出そうと奮戦していた。かつて天界を滅亡寸前まで追い詰めた巨人族の強さは本物であり、戦に明け暮れていた修羅達とほぼ互角の強さで、どっちが勝っても不思議では無かった。
 そこへ他の3人の阿修羅王達が、援軍を率いて来たのだ。形勢は逆転し、ここから一気に巨人達を殲滅すると言う時だった。逃げる巨人族に追い討ちを掛けると、まだら蜘蛛糸の罠で身動き出来なくなった阿修羅達に、油の入った樽を幾つも転がし、そこへ火矢を放って焼き殺したのである。この火計によって婆稚阿修羅王、佉羅騫馱阿修羅王の2人の阿修羅王が命を落とした。
 ロキの異名はトリックスターと呼ばれ、巨人族屈指の策士であり、本領は武力よりも智力にこそあった。
 この戦いで、阿修羅達は兵力の半数を失うと言う大敗を喫したのである。
 

 

 
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