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【第9部〜巨人の王国編〜】
第27話 最終決戦③ゲート
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「さっきの奴は、かなりの使い手だな。奴の事を知っている素振りだったが?」
「肖像画にそっくりだったからね。あれは恐らく…ドラキュラのモデルになった串刺し公ヴラド・ツェペシュよ。第1位階の最強の真祖…」
「そうか…。麻里奈、ここから先は1人で行け!余も必ず後で合流する」
「…分かったわ。必ず来てね、待ってるわ」
私の声を背に、項羽はバートリの援護に向かった。
正確にはヴラド・ツェペシュのツェペシュは名前では無い。ツェペシュとは串刺し公を意味する言葉だ。ワラキア公ヴラド3世と呼ぶのが正しく、当時ヨーロッパと敵対していたオスマントルコ帝国の兵士が、ワラキアに敗れた仲間の兵士が見渡す限り串刺しにされて飾られ、恐怖のあまりそう呼んだのが始まりだ。
むしろ存命中は、ヴラド・ドラキュラと名乗り、本人自身もそのニックネームでサインしている物が残っている。ドラキュラとは本来は、父のヴラド2世がドラクル公と呼ばれており、ドラクルの息子と言う意味でドラキュラと呼ばれたのだ。
ヴラド・ツェペシュは、敵味方・貴賤の区別無く串刺し刑を好んで行っていた為、ブラム・ストーカーが小説ドラキュラを書く時にモデルとしたのだ。
ワラキアは、バートリのトランシルバニアよりも更に小国であり、度々オスマントルコ帝国の侵略を受けたが、悉く撃退した。
ヴラド3世は、武勇・軍略共に超一流であり、ルーマニアを救った3英雄の1人としても賞賛されている。
「ふふふ、バートリよ。その美しい顔が、苦痛で歪むのを見るのが楽しみよな」
余裕のヴラドに対してバートリは、既に満身創痍であった。
「はぁ、はぁ、はぁ…くっ、何故貴様が妾と敵対するのじゃ?」
「そうよな、バートリ。真祖は、あの方(始まりの吸血鬼)より血を授かり、真祖同士の争いを禁じられている」
「だから何故じゃ?」
「なぁバートリよ、知っていたか?楊主席が、イスラエル王ダゴンだと言う事を」
「ダゴン王だと?」
「そうだ。オスマントルコと戦えていたのも、イスラエルの支援があればこそだった。」
「その恩を返す為に、楊に味方しているのか?」
ヴラドはその問いには答えず、ニヤリと笑った。この男に恩義などと言う殊勝な心掛けなどあるはずもなく、己の野心を叶える為であろう事は推測された。
両者の冷たく研ぎ澄まされた殺気がぶつかり合う。この場に獣がいれば、一目散に逃げ出したであろう。重苦しい空気が辺り一面に漂った。
バートリは、真祖第1位階であるヴラドに勝てない事は承知していた。ただ麻里奈が、楊を討ち取って本懐を遂げる時間を稼ぐのが目的だ。楊が倒されれば、忠誠心の無いヴラドは興味を失って去るに違いない。
「持ち堪えてみせるよ」
瞬間移動にしか見えない超スピードの攻撃を繰り出し続けたが、それを余裕でヴラドは躱して見せた。そしてバートリの左手を取って、ダンスを始めた。完全に弄ばれ、苛立った。
「くそっ、まさかこれほどまでに力量に差があるとは…」
ヴラドが本気なら、とっくにバートリは死んでいる。「真祖同士の争いの禁止」を、この男が馬鹿正直に守っているとは思えないから、何を企んでいるのか図り兼ねた。
「一体何を考えている?ヴラド」
「くくくっ、なぁに久しぶりにダンスでもして見たくなったのさ?と、まぁ冗談はこのくらいにしようか。手駒は多いに越した事は無い」
ヴラドは、真っ直ぐバートリの目を見て話した。バートリはヴラドの手を取り、ダンスをしながら尋ねた。
「私を仲間にして、何をするつもりだ?」
「それは我らの仲間になってから話そう」
「我ら?」
「そうだ、真祖第2位階のジル・ド・レも既に同士だ」
バートリは愕然とした。もしこの場にヴラドだけでなく、ジルまでいたら終わっていた。だがそうしなかったヴラドの真意は、確かにバートリの殺害が目的では無い事が分かる。
「目的を聞かなければ、お前達の仲間にはなれないな」
ヴラドはバートリの手を離して、ダンスを止めた。
「良いだろう。話してやる。但し、聞いたからには仲間になってもらう。断れば、口封じに殺す事になる」
バートリは、体温が無い身体が熱くなるのを感じ、頬を伝う汗に驚いた。吸血鬼となった自分も、汗をかく事を初めて知った。
ヴラドの口からは、恐るべき計画が語られた。その目的は門を開く事にあった。その門は、ダゴン王だけが知っており、味方のフリをして近づき、門の在処を調べるのが最初から目的だと言った。
「その門とは、何なのだ?」
「古より伝えられし、巨人族の世界を繋げる門だ。かつて天界は、巨人族の侵攻によって滅亡寸前まで追い詰められた。神々は門を閉じ、巨人族の援軍を断って殲滅無いし封印する事で窮地を凌いだのだ。だが再び我らの手で門を開く」
「何の為に?」
「天界が混乱しているうちに闇の世界を完全制圧し、地上の人類を牧場で管理統括して食糧問題を解決するのだ」
「だがそれで、我らが巨人族に襲われたらどうするのだ?」
「その為のダゴン王だよ。あいつは巨人族の末裔だ。同族が門を開いて招くのだ。我らとは敵対しない」
壮大な計画であった。全人類を餌として飼う。それならば、下級吸血鬼達でも吸血鬼狩などに怯える事もなく安心して餌にありつける。そのうちに人類の血が売買され、金さえあればいつでも血が手に入る世の中になるだろう。それは確かに魅力的だった。
「ふふふ、確かにそれは魅力的ね」
「くくく、そうだろう。そうだろう。では、交渉成立だな?」
ヴラドは、バートリに握手を求めて右手を差し出した。
「あははは」
「そんなに喜んでくれて、我輩も嬉しい」
「馬鹿ね」
「?」
背後から項羽がヴラドに斬りかかり、肩から腹まで斬り裂かれた。
「ぐおっ!おのれ、貴様は!?」
「西楚の覇王・項羽」
真っ二つにされたヴラドは、信じられない早さで身体が再生されていく。
「ほお、それが超回復と言う奴か?」
厄介だと感じたが、強敵である事は百も承知だ。
「何故ここに来た!?麻里奈と共に楊を討て!そうすれば、こいつらの計画は潰れるのだ」
冷静さを保っていたヴラドは顔色を変えて怒った。顔を潰されたと思ったからだ。
「バートリ、我輩の敵になると言う事がどう言う事か分かっているはずだ。死にたいのか!?」
「…」
「最後のチャンスをやろう。その不届き者を殺せ!そうすれば不問としよう」
バートリは項羽に一瞥すると、「その必要は無いな。今日死ぬのはお前だヴラド」と言って構えた。
「はぁ?何だそれは。くくく、あははは…こんなにも、こんなにも我輩がコケにされたのは初めてだよ…」
ヴラドの闇の力が増大し、楊の館が大きく揺れた。
「来るぞ!」
項羽、バートリvs.ヴラドの頂上決戦が始まろうとしていた。
「肖像画にそっくりだったからね。あれは恐らく…ドラキュラのモデルになった串刺し公ヴラド・ツェペシュよ。第1位階の最強の真祖…」
「そうか…。麻里奈、ここから先は1人で行け!余も必ず後で合流する」
「…分かったわ。必ず来てね、待ってるわ」
私の声を背に、項羽はバートリの援護に向かった。
正確にはヴラド・ツェペシュのツェペシュは名前では無い。ツェペシュとは串刺し公を意味する言葉だ。ワラキア公ヴラド3世と呼ぶのが正しく、当時ヨーロッパと敵対していたオスマントルコ帝国の兵士が、ワラキアに敗れた仲間の兵士が見渡す限り串刺しにされて飾られ、恐怖のあまりそう呼んだのが始まりだ。
むしろ存命中は、ヴラド・ドラキュラと名乗り、本人自身もそのニックネームでサインしている物が残っている。ドラキュラとは本来は、父のヴラド2世がドラクル公と呼ばれており、ドラクルの息子と言う意味でドラキュラと呼ばれたのだ。
ヴラド・ツェペシュは、敵味方・貴賤の区別無く串刺し刑を好んで行っていた為、ブラム・ストーカーが小説ドラキュラを書く時にモデルとしたのだ。
ワラキアは、バートリのトランシルバニアよりも更に小国であり、度々オスマントルコ帝国の侵略を受けたが、悉く撃退した。
ヴラド3世は、武勇・軍略共に超一流であり、ルーマニアを救った3英雄の1人としても賞賛されている。
「ふふふ、バートリよ。その美しい顔が、苦痛で歪むのを見るのが楽しみよな」
余裕のヴラドに対してバートリは、既に満身創痍であった。
「はぁ、はぁ、はぁ…くっ、何故貴様が妾と敵対するのじゃ?」
「そうよな、バートリ。真祖は、あの方(始まりの吸血鬼)より血を授かり、真祖同士の争いを禁じられている」
「だから何故じゃ?」
「なぁバートリよ、知っていたか?楊主席が、イスラエル王ダゴンだと言う事を」
「ダゴン王だと?」
「そうだ。オスマントルコと戦えていたのも、イスラエルの支援があればこそだった。」
「その恩を返す為に、楊に味方しているのか?」
ヴラドはその問いには答えず、ニヤリと笑った。この男に恩義などと言う殊勝な心掛けなどあるはずもなく、己の野心を叶える為であろう事は推測された。
両者の冷たく研ぎ澄まされた殺気がぶつかり合う。この場に獣がいれば、一目散に逃げ出したであろう。重苦しい空気が辺り一面に漂った。
バートリは、真祖第1位階であるヴラドに勝てない事は承知していた。ただ麻里奈が、楊を討ち取って本懐を遂げる時間を稼ぐのが目的だ。楊が倒されれば、忠誠心の無いヴラドは興味を失って去るに違いない。
「持ち堪えてみせるよ」
瞬間移動にしか見えない超スピードの攻撃を繰り出し続けたが、それを余裕でヴラドは躱して見せた。そしてバートリの左手を取って、ダンスを始めた。完全に弄ばれ、苛立った。
「くそっ、まさかこれほどまでに力量に差があるとは…」
ヴラドが本気なら、とっくにバートリは死んでいる。「真祖同士の争いの禁止」を、この男が馬鹿正直に守っているとは思えないから、何を企んでいるのか図り兼ねた。
「一体何を考えている?ヴラド」
「くくくっ、なぁに久しぶりにダンスでもして見たくなったのさ?と、まぁ冗談はこのくらいにしようか。手駒は多いに越した事は無い」
ヴラドは、真っ直ぐバートリの目を見て話した。バートリはヴラドの手を取り、ダンスをしながら尋ねた。
「私を仲間にして、何をするつもりだ?」
「それは我らの仲間になってから話そう」
「我ら?」
「そうだ、真祖第2位階のジル・ド・レも既に同士だ」
バートリは愕然とした。もしこの場にヴラドだけでなく、ジルまでいたら終わっていた。だがそうしなかったヴラドの真意は、確かにバートリの殺害が目的では無い事が分かる。
「目的を聞かなければ、お前達の仲間にはなれないな」
ヴラドはバートリの手を離して、ダンスを止めた。
「良いだろう。話してやる。但し、聞いたからには仲間になってもらう。断れば、口封じに殺す事になる」
バートリは、体温が無い身体が熱くなるのを感じ、頬を伝う汗に驚いた。吸血鬼となった自分も、汗をかく事を初めて知った。
ヴラドの口からは、恐るべき計画が語られた。その目的は門を開く事にあった。その門は、ダゴン王だけが知っており、味方のフリをして近づき、門の在処を調べるのが最初から目的だと言った。
「その門とは、何なのだ?」
「古より伝えられし、巨人族の世界を繋げる門だ。かつて天界は、巨人族の侵攻によって滅亡寸前まで追い詰められた。神々は門を閉じ、巨人族の援軍を断って殲滅無いし封印する事で窮地を凌いだのだ。だが再び我らの手で門を開く」
「何の為に?」
「天界が混乱しているうちに闇の世界を完全制圧し、地上の人類を牧場で管理統括して食糧問題を解決するのだ」
「だがそれで、我らが巨人族に襲われたらどうするのだ?」
「その為のダゴン王だよ。あいつは巨人族の末裔だ。同族が門を開いて招くのだ。我らとは敵対しない」
壮大な計画であった。全人類を餌として飼う。それならば、下級吸血鬼達でも吸血鬼狩などに怯える事もなく安心して餌にありつける。そのうちに人類の血が売買され、金さえあればいつでも血が手に入る世の中になるだろう。それは確かに魅力的だった。
「ふふふ、確かにそれは魅力的ね」
「くくく、そうだろう。そうだろう。では、交渉成立だな?」
ヴラドは、バートリに握手を求めて右手を差し出した。
「あははは」
「そんなに喜んでくれて、我輩も嬉しい」
「馬鹿ね」
「?」
背後から項羽がヴラドに斬りかかり、肩から腹まで斬り裂かれた。
「ぐおっ!おのれ、貴様は!?」
「西楚の覇王・項羽」
真っ二つにされたヴラドは、信じられない早さで身体が再生されていく。
「ほお、それが超回復と言う奴か?」
厄介だと感じたが、強敵である事は百も承知だ。
「何故ここに来た!?麻里奈と共に楊を討て!そうすれば、こいつらの計画は潰れるのだ」
冷静さを保っていたヴラドは顔色を変えて怒った。顔を潰されたと思ったからだ。
「バートリ、我輩の敵になると言う事がどう言う事か分かっているはずだ。死にたいのか!?」
「…」
「最後のチャンスをやろう。その不届き者を殺せ!そうすれば不問としよう」
バートリは項羽に一瞥すると、「その必要は無いな。今日死ぬのはお前だヴラド」と言って構えた。
「はぁ?何だそれは。くくく、あははは…こんなにも、こんなにも我輩がコケにされたのは初めてだよ…」
ヴラドの闇の力が増大し、楊の館が大きく揺れた。
「来るぞ!」
項羽、バートリvs.ヴラドの頂上決戦が始まろうとしていた。
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