上 下
325 / 343
【第9部〜巨人の王国編〜】

第27話 最終決戦③ゲート

しおりを挟む
「さっきの奴は、かなりの使い手だな。奴の事を知っている素振りだったが?」
「肖像画にそっくりだったからね。あれは恐らく…ドラキュラのモデルになった串刺し公ヴラド・ツェペシュよ。第1位階の最強の真祖…」
「そうか…。麻里奈、ここから先は1人で行け!余も必ず後で合流する」
「…分かったわ。必ず来てね、待ってるわ」
 私の声を背に、項羽はバートリの援護に向かった。
 正確にはヴラド・ツェペシュのツェペシュは名前では無い。ツェペシュとは串刺し公を意味する言葉だ。ワラキア公ヴラド3世と呼ぶのが正しく、当時ヨーロッパと敵対していたオスマントルコ帝国の兵士が、ワラキアに敗れた仲間の兵士が見渡す限り串刺しにされて飾られ、恐怖のあまりそう呼んだのが始まりだ。
 むしろ存命中は、ヴラド・ドラキュラと名乗り、本人自身もそのニックネームでサインしている物が残っている。ドラキュラとは本来は、父のヴラド2世がドラクル公と呼ばれており、ドラクルの息子と言う意味でドラキュラと呼ばれたのだ。
 ヴラド・ツェペシュは、敵味方・貴賤の区別無く串刺し刑を好んで行っていた為、ブラム・ストーカーが小説ドラキュラを書く時にモデルとしたのだ。
 ワラキアは、バートリのトランシルバニアよりも更に小国であり、度々オスマントルコ帝国の侵略を受けたが、ことごとく撃退した。
 ヴラド3世は、武勇・軍略共に超一流であり、ルーマニアを救った3英雄の1人としても賞賛されている。

「ふふふ、バートリよ。その美しい顔が、苦痛で歪むのを見るのが楽しみよな」
 余裕のヴラドに対してバートリは、既に満身創痍であった。
「はぁ、はぁ、はぁ…くっ、何故貴様がわらわと敵対するのじゃ?」
「そうよな、バートリ。真祖われわれは、あの方(始まりの吸血鬼ヴァンパイア)より血を授かり、真祖同士の争いを禁じられている」
「だから何故じゃ?」
「なぁバートリよ、知っていたか?ヤン主席が、イスラエル王ダゴンだと言う事を」
「ダゴン王だと?」
「そうだ。オスマントルコと戦えていたのも、イスラエルの支援があればこそだった。」
「その恩を返す為に、ヤンに味方しているのか?」
 ヴラドはその問いには答えず、ニヤリと笑った。この男に恩義などと言う殊勝な心掛けなどあるはずもなく、己の野心を叶える為であろう事は推測された。
 両者の冷たく研ぎ澄まされた殺気がぶつかり合う。この場に獣がいれば、一目散に逃げ出したであろう。重苦しい空気が辺り一面にただよった。
 バートリは、真祖第1位階であるヴラドに勝てない事は承知していた。ただ麻里奈が、ヤンを討ち取って本懐を遂げる時間を稼ぐのが目的だ。ヤンが倒されれば、忠誠心の無いヴラドは興味を失って去るに違いない。
「持ちこらえてみせるよ」
 瞬間移動にしか見えない超スピードの攻撃を繰り出し続けたが、それを余裕でヴラドはかわして見せた。そしてバートリの左手を取って、ダンスを始めた。完全にもてあそばれ、苛立った。
「くそっ、まさかこれほどまでに力量に差があるとは…」
 ヴラドが本気なら、とっくにバートリは死んでいる。「真祖同士の争いの禁止」を、この男が馬鹿正直に守っているとは思えないから、何を企んでいるのか図り兼ねた。
「一体何を考えている?ヴラド」
「くくくっ、なぁに久しぶりにダンスでもして見たくなったのさ?と、まぁ冗談はこのくらいにしようか。手駒は多いに越した事は無い」
 ヴラドは、真っ直ぐバートリの目を見て話した。バートリはヴラドの手を取り、ダンスをしながら尋ねた。
「私を仲間にして、何をするつもりだ?」
「それは我らの仲間になってから話そう」
「我ら?」
「そうだ、真祖第2位階のジル・ド・レも既に同士だ」
 バートリは愕然とした。もしこの場にヴラドだけでなく、ジルまでいたら終わっていた。だがそうしなかったヴラドの真意は、確かにバートリの殺害が目的では無い事が分かる。
「目的を聞かなければ、お前達の仲間にはなれないな」
 ヴラドはバートリの手を離して、ダンスを止めた。
「良いだろう。話してやる。但し、聞いたからには仲間になってもらう。断れば、口封じに殺す事になる」
 バートリは、体温が無い身体が熱くなるのを感じ、頬をつたう汗に驚いた。吸血鬼ヴァンパイアとなった自分も、汗をかく事を初めて知った。
 ヴラドの口からは、恐るべき計画が語られた。その目的はゲートを開く事にあった。そのゲートは、ダゴン王だけが知っており、味方のフリをして近づき、ゲート在処ありかを調べるのが最初から目的だと言った。
「そのゲートとは、何なのだ?」
いにしえより伝えられし、巨人族の世界を繋げるゲートだ。かつて天界は、巨人族の侵攻によって滅亡寸前まで追い詰められた。神々はゲートを閉じ、巨人族の援軍を断って殲滅無いし封印する事で窮地を凌いだのだ。だが再び我らの手でゲートを開く」
「何の為に?」
「天界が混乱しているうちに闇の世界を完全制圧し、地上の人類を牧場で管理統括して食糧問題を解決するのだ」
「だがそれで、我らが巨人族に襲われたらどうするのだ?」
「その為のダゴン王だよ。あいつは巨人族の末裔だ。同族がゲートを開いて招くのだ。我らとは敵対しない」
 壮大な計画であった。全人類を餌として飼う。それならば、下級吸血鬼レッサーヴァンパイア達でも吸血鬼狩ヴァンパイアハンターなどに怯える事もなく安心して餌にありつける。そのうちに人類の血が売買され、金さえあればいつでも血が手に入る世の中になるだろう。それは確かに魅力的だった。
「ふふふ、確かにそれは魅力的ね」
「くくく、そうだろう。そうだろう。では、交渉成立だな?」
 ヴラドは、バートリに握手を求めて右手を差し出した。
「あははは」
「そんなに喜んでくれて、我輩も嬉しい」
「馬鹿ね」
「?」
 背後から項羽がヴラドに斬りかかり、肩から腹まで斬り裂かれた。
「ぐおっ!おのれ、貴様は!?」
「西楚の覇王・項羽」
 真っ二つにされたヴラドは、信じられない早さで身体が再生されていく。
「ほお、それが超回復と言う奴か?」
 厄介だと感じたが、強敵である事は百も承知だ。
「何故ここに来た!?麻里奈と共にヤンを討て!そうすれば、こいつらの計画は潰れるのだ」
 冷静さを保っていたヴラドは顔色を変えて怒った。顔を潰されたと思ったからだ。
「バートリ、我輩の敵になると言う事がどう言う事か分かっているはずだ。死にたいのか!?」
「…」
「最後のチャンスをやろう。その不届き者を殺せ!そうすれば不問としよう」
 バートリは項羽に一瞥いちべつすると、「その必要は無いな。今日死ぬのはお前だヴラド」と言って構えた。
「はぁ?何だそれは。くくく、あははは…こんなにも、こんなにも我輩がコケにされたのは初めてだよ…」
 ヴラドの闇の力が増大し、ヤンの館が大きく揺れた。
「来るぞ!」
 項羽、バートリvs.ヴラドの頂上決戦が始まろうとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)   「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」 久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

処理中です...