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【第9部〜巨人の王国編〜】
第5話 ようやく掴んだ幸せ
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「痛たたっ…」
殴られて腫れ上がった顔に、腫れが引く塗り薬を塗りながら、痛みで思わず顔を歪ませた。
私は瑞稀とは違って、自動で傷が修復しないし、不死でも無い。不死者だった時は、吸血鬼などと同じく既に死者なのだから、死にようが無かったので死に対する恐怖は無かった。
傷は、『闇の女王の加護』と言うスキルがあった為、自動回復の様に傷は直ぐに再生されていた。しかし今は、このスキルは無い。回復魔法で治す事も出来るが、そんな事をすれば私の正体がバレてしまう。
腫れた顔が隠れる様に襟の幅広い上着を着て、サングラスと鍔の広い帽子を深く被って外出した。こんな顔で外出などしたくはなかったが、足腰の悪い陸ばぁさんに代わって、井戸水を汲んだり買い物をしなくてはならない。
「はぁ、はぁ、はぁ…。傷が痛んで、手にも力が入らない。女に暴力を振るうなんて、最低男だわ。絶対に別れてやるんだから」
額から汗が垂れるたび、傷に滲みて激痛が走った。
「痛い、痛いよぉ」
ここから逃げ出して、日本に帰りたい衝動に駆られる。その度に、アナトはもっと苦しんで散ったのだと、アナトの無念を晴らせるのは自分しかいないと励まし、奮い立たせた。
「麻里奈さん?」
声を掛けて来た人物は、高玹宇だった。私はまた関わり合っているのを目撃されたら、今度はもっと酷い目に合わされると思い、足早に立ち去ろうとした。
「待って!」
腕を掴まれると、江さんに殴られた時に庇った腕に痛みが走り、汲んできた井戸水の桶を落としてしまった。
「痛いっ、あっ!」
私はこの痛みの中、もう一度水を汲むのかと思うとシクシクと泣いてしまった。
「どうしたんだ?怪我をしているのか?酷い怪我じゃないか!どうしたんだ!?」
「階段から転んだだけです。ほっといて下さい!」
高さんには悪気は無いし、私に悪い事をしてる訳でも無い。でも、こんな所を江さんにまた見られたら、殴り殺されるかも知れない。彼氏や夫の暴力が怖くて従う女性も多いが、その気持ちがよく分かった。
痛い身体に鞭を打って桶を拾い、再び井戸水を汲みに行こうとした。
「待って!顔をよく見せて!」
高さんが私を抱きしめて止めると、強引に顔を向けさせた。
「酷い怪我じゃないか!どうしたんだ?こんな怪我が、階段から落ちたなんて嘘だろう?」
私は高さんの腕を握って泣き、そして何があったのか全てを話した。
「…。僕が何とかしてあげる。でもキミは行くアテが無くなる。そうなって困ったら、ここへ訪ねると良い。きっと助けてくれるはずだ」
そう言って名刺を渡された。
「この名刺の住所を頼るんだよ」
何の事か分からずにお礼を言って別れ、井戸水を汲んで家に戻った。それからまた買い物をする為に出かけ、晩御飯の支度をしていた。
「おや?今日はまた早い帰りだねぇ?」
陸ばぁさんの声が聞こえたと思うと、江さんが怒りの形相で帰るなり、私に掴み掛かって来た。
「キャア!危ない、料理の途中なのよ?」
「うるさい!黙ってろ!このアバズレがぁ。お前が何をしたのか分かっているのか?」
そう言うなり私の顔をいきなりグーで殴った。不意打ちでひっくり返った所を馬乗りにされて、何度も力一杯に殴られた。
「痛い!痛い、ごめんなさい。もう殴らないで!死んじゃう、死んじゃうよ。痛いっ」
殴られながら泣き叫んだが、手を止める気配が無い。
「私を殺す前に理由を教えて下さい」
「おう、教えてやるとも。今日、国からお前との婚約を強制的に破棄する様、命令されたんだ。言え!何をしたんだ?そんなに俺との結婚が嫌だったか?ええ!?」
両手で力一杯に首を絞められ、窒息して意識を失いかけて苦しんだ。
「汚いな?漏らしてんじゃねぇぞ!」
「がはっ、げほっ、げほ、ごほっごほっ…」
余りの苦しさに失禁していた。
「はぁ、はぁ、はぁ…。誤解です。私は何もしていません。嘘じゃありません。私からも国に言って、その命令を取り消して貰います」
「そうか?本当にお前じゃないんだな?」
「はい、私ではありません」
「よし分かった。ごめんな?前にも言ったが、お前を失いたくないんだ。俺はお前が大切なんだ。ずっと側に居て欲しい」
先程までとはうって変わり、優しい声で抱き寄せて、頭や背中を撫でられた。口付けをされて、押し倒されて服を脱がされていると、心配した陸ばぁさんが様子を見に来ていた。私は義母の見ている前で挿入された。
直ぐに立ち去ってくれると思ったのに、何故か去ろうとせずに暫く見られていた。顔を殴られた痛み以上に、恥ずかしさの方が増していた。
息子が私の膣内で果てたのを見届けてから、陸ばぁさんは立ち去った。私が妊娠してしまえば、簡単に別れられないと思っているのかも知れない。だが私は江さんの子供を生むつもりは既に無く、妊娠しない為に密かに避妊薬を飲んでいた。魔法箱から取り出しているので、薬が見つかる心配は無い。
私を抱いて満足すると、江さんは1人先にシャワーを浴びに行った。乱れた服を整えていると、高さんが大勢の警官を連れて現れ、江さんを何処かに連れて行こうとしていた。
「待って下さい!何処に連れて行くんですか?」
「その顔、この男に殴られたものだね?」
「えーっと…」
「応えなくて良い。様子を見れば分かる」
「待って!待って下さい…」
このまま江さんを連れて行かれては、犯罪者として処分されるのだろう。そうなれば1人残された陸ばぁさんは、どうなるのだろうか?
「そんなにされてまで、まだコイツを庇うのか?」
「そんなんじゃ有りません。私も、もう別れるつもりでしたから…。義母は、義母はどうなるのですか?」
「陸夫人には罪は無い。有るとすれば、こんな息子を生み育てた罪かな?」
そう言って、高さんは笑った。陸ばぁさんも事情聴取される為に、連れて行かれた。当事者であるはずの私は、重傷だとされて病院で治療を受けた。
治療と言っても、回復魔法をかけられて傷は直ぐに消えた。しかし傷は癒えても、心が受けた傷は直ぐには癒えない。男性が頭を掻く仕草をしただけで殴られる恐怖を感じて身構え、身動き出来なくなって過呼吸に苦しんだ。
江さんは、傷害や殺人未遂、強姦など9つもの量刑によって銃殺刑を言い渡されたが、被害者である私が必死に弁護した為に懲役20年の刑で結審した。
「死刑を免れただけでも十分だろう?」
高さんに肩を抱かれて寄り添って、かつての婚約者を見送った。
私は中南海での居場所を失くして出て行く所だったが、高さんから貰った名刺を頼りに、書いてあった住所に行ってみた。
とんでもなく大きな屋敷で、恐る恐る門に近づくと、守衛さんが立っていて直ぐに私を中に通してくれた。高さんが私の事を話してくれていたみたいだ。
何と無く気付いていたが、やはりこの屋敷は高さんの邸宅だった。食事をしてお風呂に入り、寝室に呼ばれると高さんがいた。
(あぁ、これは断れないやつだ…)
私は高さんに求められて、何度も肌を重ねた。江さんとは違って、優しい抱き方に愛情を感じ、久しぶりにイった。
「気持ち良かった?」
「うん…」
優しく頭を撫でられ、耳元で甘い言葉を囁かれる。何とも心地良い気分に、酔い強いれた。
「あんな男の事は早く忘れて、俺と一緒になって欲しい」
抱かれた翌朝に言われた言葉だ。彼が一時的に感情が昂って発した言葉だと思い、「気持ちは嬉しいけど、少し考えさせて欲しい」と応えた。
でも私は既に彼に夢中だった。一日中、彼の事で頭が一杯になり、復讐の事など忘れていた。
不死者として生を受けた時から、こんなに幸せを感じた事は無かった。
殴られて腫れ上がった顔に、腫れが引く塗り薬を塗りながら、痛みで思わず顔を歪ませた。
私は瑞稀とは違って、自動で傷が修復しないし、不死でも無い。不死者だった時は、吸血鬼などと同じく既に死者なのだから、死にようが無かったので死に対する恐怖は無かった。
傷は、『闇の女王の加護』と言うスキルがあった為、自動回復の様に傷は直ぐに再生されていた。しかし今は、このスキルは無い。回復魔法で治す事も出来るが、そんな事をすれば私の正体がバレてしまう。
腫れた顔が隠れる様に襟の幅広い上着を着て、サングラスと鍔の広い帽子を深く被って外出した。こんな顔で外出などしたくはなかったが、足腰の悪い陸ばぁさんに代わって、井戸水を汲んだり買い物をしなくてはならない。
「はぁ、はぁ、はぁ…。傷が痛んで、手にも力が入らない。女に暴力を振るうなんて、最低男だわ。絶対に別れてやるんだから」
額から汗が垂れるたび、傷に滲みて激痛が走った。
「痛い、痛いよぉ」
ここから逃げ出して、日本に帰りたい衝動に駆られる。その度に、アナトはもっと苦しんで散ったのだと、アナトの無念を晴らせるのは自分しかいないと励まし、奮い立たせた。
「麻里奈さん?」
声を掛けて来た人物は、高玹宇だった。私はまた関わり合っているのを目撃されたら、今度はもっと酷い目に合わされると思い、足早に立ち去ろうとした。
「待って!」
腕を掴まれると、江さんに殴られた時に庇った腕に痛みが走り、汲んできた井戸水の桶を落としてしまった。
「痛いっ、あっ!」
私はこの痛みの中、もう一度水を汲むのかと思うとシクシクと泣いてしまった。
「どうしたんだ?怪我をしているのか?酷い怪我じゃないか!どうしたんだ!?」
「階段から転んだだけです。ほっといて下さい!」
高さんには悪気は無いし、私に悪い事をしてる訳でも無い。でも、こんな所を江さんにまた見られたら、殴り殺されるかも知れない。彼氏や夫の暴力が怖くて従う女性も多いが、その気持ちがよく分かった。
痛い身体に鞭を打って桶を拾い、再び井戸水を汲みに行こうとした。
「待って!顔をよく見せて!」
高さんが私を抱きしめて止めると、強引に顔を向けさせた。
「酷い怪我じゃないか!どうしたんだ?こんな怪我が、階段から落ちたなんて嘘だろう?」
私は高さんの腕を握って泣き、そして何があったのか全てを話した。
「…。僕が何とかしてあげる。でもキミは行くアテが無くなる。そうなって困ったら、ここへ訪ねると良い。きっと助けてくれるはずだ」
そう言って名刺を渡された。
「この名刺の住所を頼るんだよ」
何の事か分からずにお礼を言って別れ、井戸水を汲んで家に戻った。それからまた買い物をする為に出かけ、晩御飯の支度をしていた。
「おや?今日はまた早い帰りだねぇ?」
陸ばぁさんの声が聞こえたと思うと、江さんが怒りの形相で帰るなり、私に掴み掛かって来た。
「キャア!危ない、料理の途中なのよ?」
「うるさい!黙ってろ!このアバズレがぁ。お前が何をしたのか分かっているのか?」
そう言うなり私の顔をいきなりグーで殴った。不意打ちでひっくり返った所を馬乗りにされて、何度も力一杯に殴られた。
「痛い!痛い、ごめんなさい。もう殴らないで!死んじゃう、死んじゃうよ。痛いっ」
殴られながら泣き叫んだが、手を止める気配が無い。
「私を殺す前に理由を教えて下さい」
「おう、教えてやるとも。今日、国からお前との婚約を強制的に破棄する様、命令されたんだ。言え!何をしたんだ?そんなに俺との結婚が嫌だったか?ええ!?」
両手で力一杯に首を絞められ、窒息して意識を失いかけて苦しんだ。
「汚いな?漏らしてんじゃねぇぞ!」
「がはっ、げほっ、げほ、ごほっごほっ…」
余りの苦しさに失禁していた。
「はぁ、はぁ、はぁ…。誤解です。私は何もしていません。嘘じゃありません。私からも国に言って、その命令を取り消して貰います」
「そうか?本当にお前じゃないんだな?」
「はい、私ではありません」
「よし分かった。ごめんな?前にも言ったが、お前を失いたくないんだ。俺はお前が大切なんだ。ずっと側に居て欲しい」
先程までとはうって変わり、優しい声で抱き寄せて、頭や背中を撫でられた。口付けをされて、押し倒されて服を脱がされていると、心配した陸ばぁさんが様子を見に来ていた。私は義母の見ている前で挿入された。
直ぐに立ち去ってくれると思ったのに、何故か去ろうとせずに暫く見られていた。顔を殴られた痛み以上に、恥ずかしさの方が増していた。
息子が私の膣内で果てたのを見届けてから、陸ばぁさんは立ち去った。私が妊娠してしまえば、簡単に別れられないと思っているのかも知れない。だが私は江さんの子供を生むつもりは既に無く、妊娠しない為に密かに避妊薬を飲んでいた。魔法箱から取り出しているので、薬が見つかる心配は無い。
私を抱いて満足すると、江さんは1人先にシャワーを浴びに行った。乱れた服を整えていると、高さんが大勢の警官を連れて現れ、江さんを何処かに連れて行こうとしていた。
「待って下さい!何処に連れて行くんですか?」
「その顔、この男に殴られたものだね?」
「えーっと…」
「応えなくて良い。様子を見れば分かる」
「待って!待って下さい…」
このまま江さんを連れて行かれては、犯罪者として処分されるのだろう。そうなれば1人残された陸ばぁさんは、どうなるのだろうか?
「そんなにされてまで、まだコイツを庇うのか?」
「そんなんじゃ有りません。私も、もう別れるつもりでしたから…。義母は、義母はどうなるのですか?」
「陸夫人には罪は無い。有るとすれば、こんな息子を生み育てた罪かな?」
そう言って、高さんは笑った。陸ばぁさんも事情聴取される為に、連れて行かれた。当事者であるはずの私は、重傷だとされて病院で治療を受けた。
治療と言っても、回復魔法をかけられて傷は直ぐに消えた。しかし傷は癒えても、心が受けた傷は直ぐには癒えない。男性が頭を掻く仕草をしただけで殴られる恐怖を感じて身構え、身動き出来なくなって過呼吸に苦しんだ。
江さんは、傷害や殺人未遂、強姦など9つもの量刑によって銃殺刑を言い渡されたが、被害者である私が必死に弁護した為に懲役20年の刑で結審した。
「死刑を免れただけでも十分だろう?」
高さんに肩を抱かれて寄り添って、かつての婚約者を見送った。
私は中南海での居場所を失くして出て行く所だったが、高さんから貰った名刺を頼りに、書いてあった住所に行ってみた。
とんでもなく大きな屋敷で、恐る恐る門に近づくと、守衛さんが立っていて直ぐに私を中に通してくれた。高さんが私の事を話してくれていたみたいだ。
何と無く気付いていたが、やはりこの屋敷は高さんの邸宅だった。食事をしてお風呂に入り、寝室に呼ばれると高さんがいた。
(あぁ、これは断れないやつだ…)
私は高さんに求められて、何度も肌を重ねた。江さんとは違って、優しい抱き方に愛情を感じ、久しぶりにイった。
「気持ち良かった?」
「うん…」
優しく頭を撫でられ、耳元で甘い言葉を囁かれる。何とも心地良い気分に、酔い強いれた。
「あんな男の事は早く忘れて、俺と一緒になって欲しい」
抱かれた翌朝に言われた言葉だ。彼が一時的に感情が昂って発した言葉だと思い、「気持ちは嬉しいけど、少し考えさせて欲しい」と応えた。
でも私は既に彼に夢中だった。一日中、彼の事で頭が一杯になり、復讐の事など忘れていた。
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