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【第9部〜巨人の王国編〜】

第4話 新たな出会い

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「宜しくお願いします。お世話になります」
 守衛に身分証と通行許可証を見せ、持ち物検査や身体検査を受けてようやく中に入れた。
「警戒厳重過ぎない?」
「いや、これくらいの方が安心出来るだろう?今日から中南海ここの住人になるんだ。中に居れば安心だ」
「まぁ、確かにそうだけど…もう外には出られないのかな?」
「任期が4年だ。年期が明けたら出られるさ。ここから出ても生涯、高額な手当が付くし、特別賞与ボーナスも貰い続ける。これで俺は安泰だ」
 ジンさんは得意気な様子だが、私は違和感を感じた。
(俺は…って、私たちは?俺と居れば一生安泰だぞって言うつもり?なんて高慢で高飛車な考えなの?俺様の妻になれて正解だろう?とでも言うつもりかしら?俺様が養ってやってるんだからって?日本では当たり前の事も、中国では恩着せがましい上に、だから俺に従えと高圧的だわ…)
 中国では近年になってようやく、女性の自立を呼びかけている。男性に頼らずに生活出来る様になる事が、女性の尊厳を確保する第一歩だからだ。とは言え、男尊女卑の考えが根強い中国だ。女は黙って男に従っていれば良いと思っている男性は多く、それが年配になるほど顕著に現れる。
 それはかつて中国で行われた、一人っ子政策を見ても分かる。子供は1人しか生んではダメだと言うとんでもない法律だ。
 これによって多くの事件が実際に起こった。女の子が生まれたら密かに土に埋めて殺し、また子供を作り、男の子が生まれるまで繰り返すと言う事件が暗黙の了解で行われていたのだ。なぜなら男の子は家名を継ぐし、働き手となるからだ。女の子を育てても家名は継げない上に、男と同じ仕事をしても給与所得が低く、女の子には価値が無いからだ。
 実際に今から数十年前に起こった事件では、この法律が生まれる前に女の子が2人生まれていた夫婦がいた。法律の施行後は、今から有効だと言う。その為、この夫婦は既に娘が2人居るが、もう1人だけ生む事が許されたのだ。そうして待望の男の子が生まれた。
 しかし何を思ったのか、母親がボソッと口に出した。
「この子が女の子であったなら良かったのにな…」
 それは娘が3人で、女の子が揃うと口に出してしまったのだろう。それを聞いていた娘達は、両親が仕事で留守にしている間に、男の子の大切な部分をハサミで切り落としたのだ。こうすれば女の子になると思ったのだろう。両親が帰って来た時、男の子は傷による失血で死んでいた。やっと生まれた男の子を死なされて、これに激怒した父親が、スコップで娘2人の顔が平らになるまで叩き潰して殺害した。それを見た母親は半狂乱となって頭がおかしくなり、裸で外を駆け回る様になった。
 これは実際に、新聞にも載っていた事件だ。何が言いたいかと言うと、中国に於いては女の子の価値が、男の子よりも低い為に起こった事件だと言う事だ。
 中国では女しか生まない嫁は、役立たずと言われて離縁され、捨てられた。そして男は新しい嫁と再婚する。日本ではとても考えられない話だ。
 先程、女の子が生まれたら土に埋めて殺していたと書いたが、それはまだマシな方で、女の子が生まれたら密かに人買いに売っていた者もいる。売られた子供の運命は、臓器売買の為の苗床にされるか、売春宿に売り放されるかだ。どちらも生き地獄でしか無い。

「さあ、今日からここが我が家だ!」
 陸ばぁさんは、息子のお陰で立派な屋敷に住めると喜んでおり、息子が誇らしい様子だった。
 女は嫁いでからは夫に従い、死別してからは息子を頼れと言う教えがある。夫や息子の栄達の支えになるのが、妻や母の努めであると信じている。
 日本でも時代をさかのぼれば、そんな時代もあっただろう。中国では保守的な考えが大半を占め、日本以上に保守派な国柄だ。
 私はそんな2人を見て、思わず溜息をついた。見た目は似ていても、やはり日本人と中国人では違う。
 成り行きと言うか、中南海ここに来る為に婚約したが、本当に嫁ぐのか?と思い悩んだ。陸ばぁさんに恩義を感じる私は、裏切り、恩を仇で返す事になるかも知れないと思い、胸が痛くなった。
 軽く荷解きをすると、午後からは食事を兼ねて家族で出掛ける事になった。ジンさんの案内で、3日後から働く職場の近くまで行ってみる事になった。
 ジンさんは、国務院で働く事になるそうだ。国務院は、中南海の北西角の大部分を占める邸宅だった摂政王府と言う建物を利用されたもので、国務院常務委員会が毎週の会議を開催している。ここの事務室で仕事をする事になるそうだ。
 ちなみに、第一会議室の前には約30 メートルの廊下があり、現在でも存在しているかは不明だが、科学技術関連の展示スペースが設置されていた。この廊下は第二会議室にも通じており、国務院の主要な政策研究部門である国務院調査弁公室は、かつて摂政王府の正面玄関があった建物内の空間にある。
 ジンさんは得意気に話していた。妻になる私に、夫の格好良い所を見せたいのだろう。いかにも中国人らしい考え方だと思い、皮肉を込めて微笑んだ。
 食事をしていると、息が詰まりそうになった。考え方がまるで違うし、私を大切だと言いながら、物の様に扱うのだ。私と言う個人の尊厳を無視した話しや考えに、うんざりして来た。やはり結婚は、勢いや惰性でするものでは無い。
 陸ばぁさんに何て言って断ろうかと思案し、席を立った。
「ごめんなさい。少し、1人で風に当たりたいの。この辺りの景色も見たいし」
「何だ?それなら一緒に見れば良いじゃないか!」
 ジンさんがそう言うと、陸ばぁさんは察してくれたのか、息子の肩に手をやって首を振って「行かせてあげなさい」と目で語ったので、渋々しぶしぶ承知して解放してくれた。
「はぁ、本当に息が詰まりそう…」
 適当に入った建物の屋上から景色を見ようと、手摺てすりの場所まで来て眺めた。ふと視線をずらすと、若い男性がいた。
「凄いイケメン…」
 ちょっと、いやだいぶ好みな顔を遠目から見ていると、目が合ってしまったので、慌てて視線を逸らした。
(ヤバい…格好良い…)
 男性が美女を好きな様に、女性だってイケメンが好きだ。目が合っただけで、胸がこんなにドキドキするのは、いつ振りだろうか?
 視線をもう1度向けると、そこには居なくなっていた。少し残念な気持ちになりながら、顔を上げると、目の前に先程の若い男が立っていた。
「えっ!?」
「驚かせてすみません美しいお嬢さん」
 そう言って手を差し出され、思わず私も手を差し出すと、握られて引き寄せられると、バランスを崩して胸に抱かれた。
「キャッ!ご、ごめんなさい。私ったら…」
 慌てて離れると、彼は自己紹介を始めた。
「僕は高玹宇ガオ・シュエンユーと言います。国務院で働いています」
「国務院で?」
 ジンさんの仕事仲間、いや、先輩にあたる人だと思い、失礼があってはいけないと考えた。
「私は神崎麻里奈と言います。日本人です。」
「日本人?それにしては流暢な中国語ですね?」
 日本語は50音しかなく、中国語は1300音を超える。その為、日本人には発音どころか、聴き取るのも困難だ。だが私は生活魔法の自動翻訳オートトランスレーションを使っているから、相手の言語も自分の言語も自動で翻訳される。
 ガオさんは、優しく穏やかな口調で物腰の低い男性だった。女性に対して上から目線な男性が多い中国人には珍しいタイプで、性格もイケメンだと思い、惹かれている自分に気が付いた。
 婚約している事は伏せて、自分の事を話し、中国の歴史に興味があると話すと、「あまり知られていない人物だけど」と、知らない人物の物語を聞かされて、面白く興味深く聴いた。
「久しぶりに、楽しい時間を過ごさせてもらいました。でも、もう行かなくっちゃ」
 そう言って立ち上がると、不意打ちで口付けをされた。私は彼の背に手を回して受け入れると、何度も軽いキスをされた後に舌を絡められた。いつの間にか、右胸を触られていたが、嫌な気はしなかった。
「ごめんなさい。本当にもう行かなくちゃ」
 未練を断ち切る様にして、背を向けて駆けた。
「また会えるかな!?」
 背中越しに彼の声が聴こえたけど、それには応えずに走り去った。
(これ以上一緒に居たら、本気で好きになっちゃう…)
 唇に指を添えて、口付けの感触を思い出して顔を赤く染めた。
「義母さん」
 陸ばぁさんが1人でいたので声を掛けた。
ジンさんは?」
「息子は、お前さんを探しに行ったぞぃ。会わなんだか?」
 私は会わなかったと言うと、背後から声がした。
「俺ならここに居るぞ」
 ジンさんが、もう帰るぞと言い、屋敷に戻る事になった。家に着くなり、「母さん、俺は麻里奈と話しがあるから2人きりにさせてくれないか?」と、不機嫌そうに言って、部屋で2人になった。
「お前、何で遅かった?」
「遅かったって…、景色があまりにも綺麗で、見惚れてて…それから少し道に迷ってしまって…」
「ははははは…、ふざけるな!!」
 ジンさんは突如豹変して怒鳴った。
「俺が何も知らないとでも思っているのか?お前が男と抱き合って、キスしていた所も見ていたぞ!」
 私は青ざめ、そして見られていた事に頭が真っ白になりながら、羞恥心で顔が赤くなった。
「俺達がいなければ、あの男と寝ていたんだろう!?」
 ジンさんは嫉妬と、私の裏切り行為で頭に血が昇り、私の弁明に聞く耳を持たなかった。あれは不意打ちでキスされたんだと、しかし、背に手を回したのは不味まずかった。
 頭に血が昇ったジンさんは、私を何度も殴り付け、着ていた服を引き裂くと、「お前は俺の物だ。俺だけの物だ。他の男に色目を使いやがって、この売女が!」と罵りながら私を何度も犯した。
 私は泣きながら謝罪したが、顔を殴られて首を絞められ、「膣がよく締まる」と享楽的な快楽を求めて激しく腰を振られた。
 私は意識を失っていたらしく、ズタズタに引き裂かれた服を身体にかけられた状態で、陸ばぁさんに介抱されていた。
「あっ…見ないで…」
 陸ばぁさんは、「何を今更」と言う表情をしたが、私が意識を取り戻したので、部屋から出て行ってくれた。
 私は引き裂かれた服を胸に抱きしめて泣いた。でも今回は流された私が悪かったと思い、反省した。ジンさんの部屋に行き、泣きながら土下座をして自分が間違っていたと謝った。
「麻里奈…すまない。殴られた所は痛むか?分かってくれたなら良い。もう2度としないで欲しい。分かってくれ、これは愛なんだ。愛してなければ嫉妬なんてしない!キミが誰かに奪られるんじゃないかと思うと怖いんだ。俺はキミが大切なんだ。俺にとっての宝石なんだよ。だからいなくなったりしないでくれ…」
 ジンさんにそう言われると、自分が悪かったんだ、だから殴られたんだと思い、泣きながら「私を殴った心が痛い」と言うのを見ると、彼を責める気にはなれなかった。
 仲直りの口付けをすると、今度は優しく彼に抱かれた。私は涙を流しながら、これで良いんだと自分に言い聞かせた。

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